アントマン:ペイトン・リード監督に聞く 1.5センチのヒーローを表現する裏技とは?

実寸大?アントマンのフィギュアと写真に収まるペイトン・リード監督
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実寸大?アントマンのフィギュアと写真に収まるペイトン・リード監督

 わずか1.5センチのヒーローが、世界を揺るがす驚きのミッションに挑むアクションエンターテインメント「アントマン」が、19日から全国で公開されている。今作でメガホンをとったペイトン・リード監督が、PRのためにこのほど来日。映画について語った。

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 映画「アントマン」は、身に着けると体長が1.5センチに縮むというスーツを手に入れた主人公スコット・ラング(ポール・ラッドさん)が、スーツを開発したハンク・ピム博士(マイケル・ダグラスさん)と、彼の娘ホープ・バン・ダイン(エバンジェリン・リリーさん)の特訓の元、決死のミッションに挑むというストーリー。スパイダーマンやアイアンマンなどを生み出したマーベル・コミックに登場するヒーローの一員だ。

 当初、監督に予定されていたのは「スコット・ピルグリム VS.邪悪な元カレ軍団」(2010年)や「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」(13年)などの作品で知られるエドガー・ライト監督だった。しかし、スタジオとの見解の相違で降板。そのあとを受け継いだのがリード監督だった。

 監督就任から撮影開始までわずか2カ月あまり。リード監督が最初にやったことは、「第1稿からの脚本すべてに目を通す」ことだった。そのあとすぐに最初の撮影地アトランタに飛び、「ものすごい勢いで準備をした」。準備期間としては短かったが、「逆にそれがよかった。時間がなかったせいで、何もかも集中してでき、そのままの勢いで撮影に入れたからね」とありがたがる。

 原作のコミックは「特に読み返さなかった」。というのもリード監督は「オタク」と呼ばれることを「誇りに思っている」というほどのマーベル・コミックスの大ファン。原作は知り尽くしており、とりわけ大好きなキャラクター「アントマン」に関してなら、「どんな質問に対しても100%答えられる」と自負する。それだけに「『アントマン』の映画なら、自分だったらこういうふうに撮る、という明確なビジョンがあった」と胸を張る。

 映画には、アントマンが“アンソニー”と名付けたクロオオアリに乗り空を飛ぶシーンがある。通常、私たちが見かけるアリはだいたい1センチ弱くらい。とすると、アントマン、大き過ぎないか? そもそもなぜ1.5センチ? 原作のアントマンのサイズが1.5センチなのか? あふれ出る疑問を率直にぶつけると、リード監督は「コミックでは、アントマンのサイズは明確に何センチとは書かれていないが、だいたい同じくらいだと思う」と答え、「映画でも、どのぐらいのサイズにしようかといろんなバージョンを作り、落ち着いたのがこの大きさだったんだ」と、目の前のテーブルに置かれた前売り鑑賞券特典イヤホンジャックの“ほぼ等身大”(約3センチ)のアントマンを手に取ったものの、「これはちょっと大き過ぎる。これだとグラスホッパー(バッタ)ぐらいの大きさになる(笑い)」と指摘。

 それから気を取り直し、「アントマンをフレーム(枠)の中でいかに小さく見せるかに思考錯誤を繰り返した。普通のミディアムショットで撮るとスケール感が分からなくなってしまう。だから、横に大きさを比較できる物を置くなどして、思い切りフレームの中で小さく見えるようにしたんだ。あとは、(カメラが)“寄り”になるときは中途半端に近づくのではなく、目だけを思い切りクローズアップにするとかね。そんなふうにいろんなショットを組み合わせていったんだ」とミニチュア世界を表現する“裏技”を明かした。

 クロオオアリとアントマンのサイズの整合性については、「実は、そのシーンと、単体でいるときのアントマンとでは、若干サイズが違うんだ」と明かした上で、「羽蟻のモデルとなったクロオオアリにもだいたい2種類いて、“アントニー”と名付けられたクロオオアリは大きい方で、だいたい3センチくらい。だから一応(アントマンのサイズと)整合性はとれている。人間の世界でいうと、バイクにまたがった人間という感じかな」と説明する。

 アリに関して広範な知識を持つリード監督だが、それもそのはず、アリをきちんと描写するためにアリを巣ごと飼い、その生態を「じっくり観察した」そうだ。そこからいろいろなことを学び、それを映像に反映させたという。例えば照明。「アリは、背後からライトを当てると体が半透明に見えてしまったりするんだ。そういうものも映像の特殊効果に取り込んだ」と話す。また、映画には4種類のアリが登場するが、「サシハリアリは犬のチワワみたいに、アントニーのクロオオアリは馬っぽい動きをする」などそれぞれに特徴を持たせ、区別化することにも気を付けたそうだ。

 さて、アリサイズの人間が世界を揺るがすほどのミッションに挑むという、コメディー要素がある今作は、ついついアクションやサイズの特異性に目がいきがちだが、忘れてならないのが、スコットと彼の娘キャシー(アビー・ライダー・フォートソンちゃん)、ハンク・ピムとその娘ホープの2組の父娘関係だ。

 リード監督は「一番感情的な部分を支えているのは父と娘の関係だ。スコットには、愛する娘のためによい父親になり、人生をやり直そうとするストーリーがある。それと同時に、ハンク・ピムと彼の娘ホープの父と娘の話が進行する。仲違いしていたハンクとホープが、一つの目的を通して心を通わせ、やがて和解する。そういう2組の物語、父と娘の感情が基軸になっているんだ。その部分が、観客が一番共感できるところだと思う」と作品をアピール。そして、「ハンクは、愛する娘を守りたいと思うばかりに、彼女の可能性を阻んでしまっているという過ちに気づくんだ。それとともにホープも新たなヒロインとして変化していくわけだけど、そういう複雑な親子関係も見てほしい」と締めくくった。映画は19日から全国で公開。

 <プロフィル>

 1964年生まれ、米ノースカロライナ州出身。ドラマやドキュメンタリーなどのテレビ番組を多く手掛け、2000年に「チアーズ!」で映画監督デビュー。ほかに「恋は邪魔者」(03年)、「イエスマン “YES”は人生のパスワード」(08年)などがある。

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