単独でヒトラーへ暗殺を仕掛けた実在の人物をもとにした「ヒトラー暗殺、13分の誤算」(オリバー・ヒルシュビーゲル監督)が16日から公開される。「ヒトラー~最期の12日間~」で人間ヒトラーに迫ったヒルシュビーゲル監督が、今度はドイツが長らく封印してきた暗殺者の素顔に迫った。
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1939年11月8日。ミュンヘンのビアホールで演説したヒトラーは、その日たまたま早めに切り上げて去った。その13分後、時限爆弾が爆発。8人が亡くなった。ゲシュタポはクーデターか英国諜報部を疑ったが、逮捕された男は平凡な家具職人のゲオルク・エルザー(クリスティアン・フリーデルさん)だった。刑事局長のネーベ(ブルクハルト・クラウスナーさん)とゲシュタポの局長ミュラー(ヨハン・フォン・ビュローさん)が捜査を担当し、過酷な尋問が行われるが、エルザーは単独犯を主張する。エルザーの胸には、田舎で仲間たちや恋人と過ごした日々がよみがえる……という展開。
暗殺未遂犯は普通の青年だった。エルザーがどんな暮らしをしてきたのか。音楽と自由を愛し、田舎で仲間と過ごす。そして、人妻に恋をする。まぶしい光の中に描かれるからこそ、平和の尊さが伝わってくる上、尋問シーンの過酷さも際立つ。黒幕は本当にいないのか。政党に所属しないドイツ民族の同胞がなぜ、総統を憎むのか。その理由は、のどかな田舎にファシズムが忍び寄る様子に丹念に描かれている。ナチ党が大衆を巧みに先導していく様子も出てくる。エルザーは恋人のために、自白を始める。「自由を奪われたら死ぬ」と真っすぐな瞳で答えるエルザーに、尋問する側であるネーベの心が動かされていくさまも見どころだ。恋人や仲間への愛の深さと、一人で戦争を止めようと闘った男の信念が胸に突き刺さる。エルザーの関係者に綿密に取材がなされて、「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々」(2005年)のフレート・ブライナースドーファーさんとその娘レオニー・クレアさんが脚本を書き上げた。「白いリボン」(09年)のフリーデルさんが主人公を熱演し、謎多き過去の人物に命を吹き込んでいる。TOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほかで、16日から公開。(文・キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。いまBS12で再放送されている昭和のドラマ「ありがとう」を楽しみ中。
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