ケイト・ブランシェットさんとルーニー・マーラさんが共演し、第68回カンヌ国際映画祭で話題となった「キャロル」(トッド・ヘインズ監督)が11日から公開される。「太陽がいっぱい」(1960年)など映画化された作品も多い人気作家パトリシア・ハイスミスが別名義で発表した小説が原作。1950年代のニューヨークを舞台に、対照的な女性同士が引かれ合うさまを流麗に描き出す。
ウナギノボリ
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1952年、ニューヨーク。テレーズ(マーラさん)は高級百貨店のおもちゃ売り場で働いていた。写真家になる夢も持ち合わせており、恋人のリチャード(ジェイク・レイシーさん)との結婚を考えられずにいる。クリスマス間近のある日、客として現れた金髪の美しい年上の女性に目を奪われる。その女性、キャロル(ブランシェットさん)もまた、テレーズの視線に気づいた。娘へのプレゼントを一緒に選んだテレーズは、キャロルが忘れていった手袋を郵送する。その後、交流が始まり、キャロルが不幸な結婚生活に送っていることを知ったテレーズは……という展開。
この映画は美しい。2人のヒロインが美しいのはいうまでもない。50年代ファッション、インテリア、細部にわたっての細かい美術はもちろんのこと。そして、自分の生きる道を探している2人の、魂の触れ合いを美しいと感じる。エレガンスな大人の女性と、まだ人生が始まったばかりの若い女性。テレーズがすてきな大人の女性に憧れるのも分かるし、キャロルが将来があって透明感のあるテレーズに引かれるのも理解できる。クリスマスムードの高級百貨店という夢の詰まった舞台での出会いは、ドキッとするほどロマンチック。なのに、憧れの人の私生活は、ロマンチックからかけ離れていた。不幸な結婚、子どもの親権争い。楽しげな街を行き交う人々が、地下を流れる排水に気づきもしないように、外見の印象から人の本質は分からない。
テレーズは、キャロルに心を寄せる過程の中で、自分がどう生きたいのかに気づき、大人の女性へと成長していく。その繊細な演技で、マーラさんはカンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞。女性の社会的な地位が今よりも低かった時代に、生きづらさを抱えながらも自分に正直に生きようとした2人の女性。彼女たちから背中を押される気分になる人も多いだろう。「エデンより彼方に」(2002年)などで知られるへインズ監督が、人が自分らしく生きるために伴う痛みを、この上なく美しい絵のような映像に焼き付けている。衣装は「シンデレラ」(15年)などのサンディ・パウエルさん。上品な色合いの50年代ファッションにため息が出る。TOHOシネマズみゆき座(東京都千代田区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。BSで昭和のドラマ「ありがとう」がまたまた楽しめてうれしい。
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