第68回カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールに輝いた「ディーパンの闘い」(ジャック・オディアール監督)が12日から公開される。内戦下のスリランカから逃れてパリにやって来た元兵士ディーパンが、疑似家族を守るために闘う人間ドラマが力強く描かれている。本物の元兵士で作家のアントニーターサン・ジェスターサンさんが真に迫る演技で魅了する。
あなたにオススメ
「豊臣兄弟!」では池松壮亮が! 大河ドラマ“秀吉俳優”史を振り返る
ディーパン(ジェスターサンさん)は、タミル・イーラム解放の虎の兵士としてスリランカで内戦を戦った男。妻子を失い、難民キャンプで海外渡航の斡旋(あっせん)事務所を通して、母親を亡くした少女(カラウタヤニ・ビナシタンビさん)と一人の女性(カレアスワリ・スリニバサンさん)を紹介される。女性は24歳の妻ヤリニ、少女は9歳の娘イラヤルとなって家族を装い、パリに行き着く。やがて郊外の団地に移り住み、ディーパンは管理人、ヤリニは家政婦として働き、イラヤルは学校へ行くようになり、穏やかな日々を手に入れたように見えたのだが……という展開。
冒頭、スリランカから逃れてくるいきさつが、ずっしりと重みを持って描写される。元兵士だという主演のジェスターサンさんの深い悲しみをたたえた目と風貌は、とても印象深い。疑似家族はパリ郊外の団地に居を構える。ひなびた古い建物で、安住の地にしてはどこか危険なにおいがするこの舞台が、ディーパンたちの物語の行く末を不透明で不安なものにし、クライマックスのサスペンスにうってつけの場所になった。すべてを失った男ディーパンは、ここで新たな家族と真面目にやっていこうとしている。しかし団地には、麻薬の売人やチンピラがいて、ここも安全な場所とは言い切れない。多人種が入り乱れ、一見どの国なのか分からなくなり、フランスの社会構造も浮き彫りにされる。ディーパンとヤリニは少しずつお互いを分かりかけるが、生きるのに必死な者同士、ぶつかり合いも多い。
フランス語をいち早く覚え、子どもらしい順応性で社会になじみ始めるイラヤルに対し、大人たちはこれまでの人生が重過ぎるのだ。暴力を捨てた男が再び暴力の中に飛び込む姿は見ていてつらいが、そこにディーパンの決死の気持ちが見え、祖国で家族を守れなかった悔恨までが透けて見える。必死に闘うディーパンがりりしい。後半になるほど緊張感と高揚感がスクリーンの端々までみなぎり、心が揺さぶられる。「君と歩く世界」(2012年)などで知られるフランスの鬼才オディアール監督が手がけた。劇中音楽は、エレクトリックミュージックの気鋭ニコラス・ジャーさん。12日からTOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。BSで昭和のドラマ「ありがとう」がまたまた楽しめてうれしいです。
ディズニー・アニメーション・スタジオの最新作「モアナと伝説の海2」(デイブ・デリック・ジュニア監督ほか)の大ヒット御礼舞台あいさつが12月23日、東京都内で開かれた。イベントでは…
東宝の2025年の配給作品ラインアップ発表会が12月23日、TOHOシネマズ 日比谷(東京都千代田区)で行われ、2024年の興業収入などが発表された。市川南取締役専務執行役員は、…
2012年から7シリーズにわたって放送されたテレビ朝日系の人気ドラマの完結作となる映画「劇場版ドクターX」(田村直己監督)のクランクアップ写真が公開された。主演の米倉涼子さんをは…
俳優の米倉涼子さんが12月22日、東京都内で行われた主演映画「劇場版ドクターX FINAL」(田村直己監督)の“舞台あいさつFINAL”に登場。イベント終盤にあいさつを求められた…
花沢健吾さんのマンガが原作の映画「アンダーニンジャ」(福田雄一監督、2025年1月24日公開)の新キャストが発表された。津田健次郎さんが、謎の存在「アンダーニンジャ(UN)」の声…