マンガ質問状:「ザ・ファブル」 無敵の殺し屋がまさかの長期休暇 作者はボクシング&山ごもりも体験

南勝久さんのマンガ「ザ・ファブル」(講談社)1巻
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南勝久さんのマンガ「ザ・ファブル」(講談社)1巻

 話題のマンガの魅力を担当編集が語る「マンガ質問状」。今回は、「なにわ友あれ」の南勝久さんの新作「ザ・ファブル」です。「ヤングマガジン」(講談社)編集部の田坂清志さんに作品の魅力を聞きました。

ウナギノボリ

--この作品の魅力は?

 殺し屋が主役となって敵をどんどん殺していく……というのが一般的なマンガの設定だと思いますが、「ザ・ファブル」は、無敵の殺し屋が長期休暇を取り、普通の暮らしを学びながら、風変わりでコミカルな日常を送っていく……という“発想の転換”に面白さがあると思います。そこに個性的すぎるキャラクターたちが絡んで巻き起こるサスペンスと、リアルで血が出るようなバイオレンスアクションが加わり、三位一体の独特の面白さをかもしだしていると考えます。なお、この売り込み文句は、雑誌「映画秘宝」のライター・大西祥平さんに、「ザ・ファブル」を推していただいたときの受け売りです(笑い)。

--作品が生まれたきっかけは?

 南さんが「なにわ友あれ」連載中から「次作は殺し屋を描きたい」と温めていた企画です。当初は、殺し屋が殺しをバンバンやる話をイメージしていたようですが、それが途中からバチンとスイッチが切り替わり、今の作風へと広がっていきました。ちなみに作者の南さんは映画が大好きで、より映像的な表現や、新しいマンガ表現へのアプローチに挑戦している面もあるのだと思っております。

--「ファブル」の殺しのテクニックが本格的で生々しいのですが、まさか取材したのでしょうか。

 もちろん「殺し屋さん」を取材をするわけにはいかないので、すべて創作です(笑い)。ただ南さんは、ボクシングジムに通ったり、モデルガンやナイフの収集が趣味で造詣が深かったりもします。さらに水とナイフだけを持って山にこもる本格的なサバイバルもやられていて、そうしたことが作品に生きているのだと思います。また徹底したリアリティーの追求もありますね。「ザ・ファブル」の作中では、主人公の家にガレージがあり、インコを飼ったりしていますが、南さんのお宅にも同じようなガレージがあり、ハコスカが置いてあったり、インコも飼われていたりします。ここでは言えない話もたくさんありますが(笑い)。

--編集者として作品を担当して、ナイショのエピソードを教えてください。

 南さんの、この作品に対するのめり込みの強さを示すエピソードがあります。コミックス第1巻の第2話でファブルが車上あらしをやっつけるシーンがあるのですが、実は当初、ファブルが、わざと負ける内容でした。確かに強い人がわざと負ける展開が面白いのは間違いないのですが、さすがに2話目で負けてしまうと、読者がファブルの強さを理解しづらくなってしまうのでは……という判断で、ファブルが鼻血を出して負けるシーンはコミックス第1巻のラストまで先送りしていただきました。

--今後の展開は?

 現在展開している本編ストーリーの今後についてはもちろん内緒ですが、他にも考えられているネタは山ほどあります。ミサキちゃんのストーカーの貝沼くん。ファブルの妹を演じるヨウコがいじり倒す年下の青年。さらに小島に次ぐ新たなアウトローキャラの出現などなど。そしてファブルがテレビを見て爆笑しているお笑い芸人のジャッカル富岡の今後……。特にジャッカル富岡は、僕らの中ではもう一人の主人公だと言っても過言ではないとすら思っています(笑い)。

--読者へ一言お願いします。

 「南さんの作品は、ヤンキー色が強くて入りづらい」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし「ザ・ファブル」は一度読めば、クスクス&ワクワク&ドキドキの面白い世界が広がっていると思います。そして南さんの夢でもある映画化やアニメ化が実現するようにますます頑張りたいと思っています。連載がスタートして1年強になりますが、熱烈な書店員さんが応援してくれるなど各方面で話題にもなってきました。今後とも「ザ・ファブル」を楽しみに読んでいただけたら幸いです。

講談社 ヤングマガジン編集部 田坂清志

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