4人組ガールズバンド「赤い公園」が、3枚目のオリジナルアルバム「純情ランドセル」を23日にリリースした。昨年、事務所とレーベルを移籍したことで「自分たちのことを見つめ直すきっかけになった」というメンバーが、ピュアな気持ちで制作に臨んだという。前作「猛烈リトミック」から1年半ぶりとなる新アルバムについて、ボーカルの佐藤千明さんとギターの津野米咲さんに聞いた。
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――今回は、事務所やレーベルなど、周辺環境が変わる中でのアルバム制作だったそうですね。
津野さん:バタバタした状況からレコーディングが始まったんですけど、だからこそ「これを録(と)りたい」っていう曲をただ録っていくというか。1曲1曲に集中して、ホントに「聴いてくれ」って心を込めて制作することができたので、自分たちの純情が詰まった、新1年生がワクワクしながら背負うランドセルみたい、ということで「純情ランドセル」というタイトルになりました。
佐藤さん:事務所を移籍してすぐにライブがあって、「KOIKI」(今作収録の5枚目のシングル)という曲をやったんですけど、今までにない開けた曲というか、お客さんと一緒に笑顔で歌えて、しかも素直にさせてくれる曲でもあったので、今回はそれをアルバムの前に経験できたことで、人の心の近くに行けるような歌詞だったり共感できる歌詞、曲調もすごくメロディアスだったり……。ホントにその時の経験が生きたものになって、自然に「ただ心を込めて歌うことが一番だな」と思って歌いましたね。
――確かに、お母さんの味を歌った「ハンバーグ!」など、身近なテーマの曲が多いですね。
津野さん:自分とみんなの共通点みたいな、「みんなもこういうこと思うよね。私も思う」っていうことに気づいた時に、孤独じゃないような気がして、すごく救いになっていたり……という時期が訪れまして。それで書いている曲がほとんどなので、生活感や現実味のあるものになっているんだと思います。
――「東京」と「西東京」という二つの楽曲が入っているのは面白いですね。その理由は?
津野さん:「東京」は、事務所の社長にもらったテーマの中の一つで、東京出身者としての東京を故郷愛で書いたんですけど、もっと細かく言ったら、私たちの故郷は西東京というところで、“西東京心”がうずいて。自分たちのガチャガチャした青春をそのまま書かずにいられなかったですね。私、遠足が東京タワーだったんです。もう、学校に「都心から遠い」って認められてたんですよね。それこそ、東京スカイツリーさんができてからは、仲間だと思っていた東(ひがし)東京もにぎわいまして……。西東京は、みんなが思っている東京とはちょっとにおいが違うんですよね。
――また、「14」は、14歳=中2の頃の多感な心情を歌った楽曲ですが、赤い公園としてアレンジしてみてどうでしたか。
津野さん:14歳の若さを演出しようと頑張ったんですけど、24歳なので10歳も上だから、全然テンポについていけなかった(笑い)。でも、みんなドタバタしていて、その必死感がすごくよかったです。
佐藤さん:唯一、赤い公園のプロデュースの曲だったので、ほかのプロデューサー陣の方に比べて、完成されていない感じや若さを出したいなと思って、揺れ動く気持ちで歌いました。軽音部に戻ったみたいな感じになりましたね。
――軽音部といえば、もともと津野さんは高校の軽音部の先輩で、あとの3人は後輩なんですよね。今はその関係に変化はあるんですか。
佐藤さん:もうずっと変わらないと思いますね。学生時代の先輩って大きいなっていう。(津野さんは)リーダーということもありますし、やっぱり私たちには先輩が必要! 4人でやっているので、尊敬できる人が1人いるってだいぶ違うと思うんですよね。
津野さん:大変なんですよ。何回言っても楽屋がきれいにならなくて。この人(佐藤さん)、10ぐらいの荷物が入るカバンに100ぐらいの荷物を入れてきて、それを全部出すから。もうドン引きですよ(笑い)。だからちょっと最近、“先輩”をサボりがちなんですけど、でも一応先輩です。
――なるほど(笑い)。アルバムの話に戻りますが、マスタリングをニューヨークで行ったそうですね。
津野さん:どの音域も、音が詰まってない、柔らかい音になりましたね。結構、時間をかけてアルバムを作ったから、マスタリングで魂が抜けて、(NYでの自由時間は)自分だけ“ずっと打ち上げしたい人”みたいになって、一人でずっと飲んでました。
――ラストナンバーの「おやすみ」まで、ストーリー性が感じられる1枚になりました。
津野さん:うまくいくこともいかないことも、自分の都合をよそにやってくるよねっていうような(1曲目の)「ボール」から始まって、そういう出会いや別れを容赦なく連れてくる春のにおいが全体的に漂ってるなって。
佐藤さん:主人公の少女が見えてくるし、すごくドラマチックだと思います。ギター片手に、音楽の戦場に繰り出してきた夢追い人みたいな「東京」、誰かの日記を盗み読んじゃったみたいな気まずさに陥る「あなたのあのこ、いけないわたし」とか。少女がいろんなことを経験し、最後は自分に立ち返って、一人きりで眠りにつくっていう。
――「公園デビュー」「猛烈リトミック」に続くアルバム(=子供)として、その成長ぶりをどう見ていますか。
津野さん:素直な子はいろんなことを学びますから、これからの私たち自身にも期待ができるなって思いました。
佐藤さん:その純情さ、素直さを大事に、これからも育っていってくれよって思います。
<プロフィル>
2010年1月、ボーカルの佐藤千明さん、ベースの藤本ひかりさん、ドラムの歌川菜穂さんによるコピーバンドに、ギターの津野米咲さんがサポートで加入する形で結成。12年2月にミニアルバム「透明なのか黒なのか」でデビュー。初めてハマッたマンガは、佐藤さんが「りぼん」(集英社)に連載されていた藤井みほなさんの「GALS!」、津野さんが「週刊ヤングジャンプ」(同)に連載された吉田ひろゆきさんの「Y氏の隣人」。佐藤さんは「『GALS!』は、小学生の頃にみんな読んでました。寿蘭ちゃんというギャルの女の子がいて、蘭ちゃんのギャルパワーで周りの人がどんどん更生していく、みたいな。すごく友情を教えられます」と話し、津野さんは「『Y氏の隣人』は物心ついて初めて読んだマンガだと思います。勧善懲悪なんですけど、バッドエンドの時もハッピーエンドの時もあって、そういう短篇がいっぱい入っていて。父の趣味だったんですけど、本棚にあったのが『寄生獣』『Y氏の隣人』『火の鳥』だったんです」と話した。
(インタビュー・文・撮影:水白京)