4人組バンド「クリープハイプ」が、半年ぶりのニューシングル「破花(はっか)」を23日にリリースした。タイトル曲は、代々木ゼミナール「代ゼミ、合格改革。」編のCMソングとしても放送中。ボーカルの尾崎世界観さんが、自らの曲作りへの思いを“受験”というテーマを交えてつづったナンバーだ。2014年のレコード会社移籍以来、作曲などに苦悩し、「そこからようやく抜けるきっかけが見えてきた」という1曲でもある。尾崎さんに、自身の音楽ルーツや新曲の話、移籍から2年を経た今の心境などについて聞いた。
あなたにオススメ
来春朝ドラ「あんぱん」の“二人の妹” 朝ドラヒロインまで手が届くか
――尾崎さんが音楽に目覚めたきっかけは?
父親がフォークのかぐや姫が好きで、家で曲が流れていてすごくいいなと思って。でも、細かいものを見て組み立てていくのが苦手だったので、バンドスコアを見てもコピーがうまくできなくて、だったら自分で作った方が早いかなと思って曲を作り始めました。昔から不器用でプラモデルとかも作れなかったんですけど、音楽はどこまでができていて、どこまでができてないっていうのが曖昧じゃないですか。だから自分でも作れそうな気がしたというか。でも今度は、その曖昧ということに苦しめられるというか、自分ではできたつもりでも、やっぱり誰かにいいって言ってもらわなきゃ作ったことにならないなと思って。それに気づいてからは、作るだけで満足だったのが「聴いてほしい」「もっと恥ずかしくないものにしよう」って考え方も変わっていきましたね。
――ライブを見た人に「世界観がいいね」と言われたことで、「曖昧な言葉でなくもっとちゃんとした言葉で言ってほしい」という思いもあり、そう言われないように「世界観」と名乗るようになったそうですが、その後、効果はありましたか。
そうですね。なかなか言ってこないし、こういうインタビューでも、聞き手の方が「世界観」っていう言葉を使った時に「あっ」って顔をしますね。僕は「3回までですよ。3回以上言ったら退室になりますよ」って冗談で言ってるんですけど(笑い)。
――なるほど(笑い)。また、昔はバンド活動と並行してさまざまなアルバイトをしていたそうですね。
スーパーの夜勤、ラブホテルやコールセンターで働いたり、警備員をやったり。あと、チラシのポスティングとか。デカい団地があるといっぱい配れるので、今でも団地を見つけるとすごく興奮するんですよ(笑い)。バイトは、自分が世の中に適応していけないっていうのを実感するものだったんで、その反対に音楽というものがありました。「俺にはバンドがあるから」って。
――バンドメンバーは、今の4人になるまでは結構、入れ替わりがあったということですが……。
野球チームができるぐらいやめてますね。最初に今のメンバーとやった時は、バラバラ過ぎて全然合わなくて。でもそれだけ個性があるんだなあと思って、ちょっと根気よくやってみたいなと思ったのを覚えてますね。力はあるんだけど、ここまでいびつなのは初めてだなっていうのが衝撃的で、面白かったです。
――そして、デビューから2年でレコード会社を移籍し、その中で、ベスト盤が発売されることが知らない間に決まっていたと。
びっくりしました。でも、ここまで育てておいて、これから恩返しをするという時期に、何でそんなこと(移籍)をしてるんだっていうことなんでしょうけどね。「(ベスト盤を)出しますよ」って(事前に)言ったら「嫌だ」って言うと思ったから勝手に出したんでしょうけど……。でも、こっちが最初に移籍したから出されたわけだから、CDを勝手に出そうっていう気持ちになるようなこと……それだけのことをしたんだなって思いました。
――新曲「破花(はっか)」は、「(移籍後の余波を)突き抜けたい」という思いの中で作られたそうで、曲作りという作業を白い紙に例えていますね。
自分が書いたものはお客さんの中にも残ってるし、データみたいにナシにして、白紙にして始めるっていうのはできないんで、テーマや手法にしてもやれることが減っていくんですね。毎回、次はもう絶対に作れないって思っていて、そういう中から作っていくというのは、ずっと使ってる紙の中に、無理やり余白を見つけて小さく書いていく作業なんです。その紙の中に失敗した部分もやっぱりあるし……。
――代々木ゼミナールのCM曲ということで、受験というテーマもありつつ、どのようにご自身とリンクさせていったんですか。
僕は高校受験の時に「ここだったら入れる」っていうところを受けただけなんで、経験はあんまりないんですけど、でも、その時よりも今の方がテストが多いなっていう感じがします。ライブで目の前にお客さんがいるとか、CDが何枚売れたとか、メディアにどれだけ出られるとか。いろんなテストをしてるなって。「受かる」「受からない」を歌うというか、応援する曲は聴いたことがあるんですけど、そういうことじゃなくて、落ちた人が受かった人の何倍も幸せになることもいっぱいあると思うし、そういうことを歌いたいと思いましたね。
――「真っ赤な花が咲く……」という歌詞と、曲のタイトル「破花(はっか)」に込められた意味は?
「真っ赤な花」は、テストの紙にもらうマル(「よくできました」を意味するマーク)が花マルだなと思って。花が咲くって、不気味というか、気持ち悪い感じがするんですよ。何か突き破って出てくるじゃないですか。すごく生命力を感じるんですけど、止まらずに勝手に咲いてくる感じというか。自分の中の感情もそうだなって。止めたいけど止まらなかったり、思い込んでしまったらずっとそっちに行ってしまったり。そういうのを表現するのに、何か強い言葉はないかなと思って、この言葉にしました。
――尾崎さんの曲は、“怒り”が原動力になっているものが多いという印象がありますが、最近はどうですか。
昔は、バイトをして音楽をやる時間がほとんどなくて、嫌な思いばっかりして朝も早いし……とか。でも、そういう分かりやすい不満じゃない不満や悔しいことは、当時よりもいっぱい出てきているし、そういうことをまた音楽で表現できたらいいなと。
――今、感じている“悔しいこと”は?
何ですかね。「売れたい」っていうこと……。「もっと売れたい」って思ってます。
<プロフィル>
2001年に結成し、08年9月にボーカルの尾崎世界観さんの一人ユニットとなる。09年11月、ギターの小川幸慈さん、ベースの長谷川カオナシさん、ドラムの小泉拓さんの3人が正式メンバーとして加入。12年4月にアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」でメジャーデビュー。尾崎さんが初めてハマッたポップカルチャーは、小学1年生の頃に好きだったアーケードゲーム「ファイナルファイト」。「横スクロールでアメリカの悪いヤツらを倒していくゲームなんですけど、それが赤札堂というスーパーの向かいのおもちゃ屋に置いてあったんです。母親と買い物に行った帰りに、小学校の上級生とかがそれをやってるのをのぞき見して、大人になった気分になりましたね。その後、自分でやったりとかもしてました」と話した。
(インタビュー・文:水白京)