女優の二階堂ふみさんの主演映画「蜜のあわれ」(石井岳龍監督)が公開中だ。映画は、室生犀星の同名小説が原作で、金魚から人間の姿に変貌する少女・赤子と老作家の同居生活に、老作家への愛を募らせて現れた怪しげな幽霊の三角関係を交え、幻想的な物語が繰り広げられる。赤子を演じる二階堂さんと、老作家の過去の女で幽霊のゆり子を演じる真木よう子さんに、互いの印象や今作の魅力を聞いた。
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金魚や幽霊が登場する風変わりなテイストの小説が原作だが、「ずっとやりたいと思い続けていた作品でしたし、石井監督の現場にも行きたいと思っていた」という二階堂さん。主演できて「偶然の重なりで思い続けていたことがかなう喜びが大きかった」と笑顔を見せる。
二階堂さんが演じる赤子は金魚から人間へと変貌(へんぼう)する役どころだが、「現場に行かないと分からないことが多いので、普段からあまり(役を)イメージはしない」と切り出し、「人間以外の役も何度かやったことがあるので、金魚という役に対して、あまりどうこうということはなかったです」と冷静に振り返る。
特別な意識はなかったと話す二階堂さんだが、「実像がない役だったので、あまり言葉に意味を持たせたくないと思った」と演じる際に心がけたことを明かし、「どうしても日本語の文字は見ただけで意味してるものが頭に入ってきてしまうので、あまり意識しないように作業し、あとは何も考えないようにして、おじさま(大杉漣さん演じる老作家)と言葉遊びをするような感覚でシーンを重ねていきました」と説明する。
一方、真木さんは「台本は5、6回読んでも難しく、映像化するとどうなるのかと思った」と感じ、「だから真っ白なまま現場に行きました」と打ち明ける。自身が演じた役について、「幽霊という役どころなので、“生きていない”けれど“感情”を持っている」と説明し、石井監督からは「生きた人間のものとは違う複雑な感情を表現してほしい」という指示があったという。そして、「現場で監督と作り上げた感じですが、一番複雑だったのは“生きた人間ではない”という設定」と振り返り、「そこはすごく意識してやったところで、監督もこだわっていた部分でした」と明かす。
物語の世界観を表現するのに衣装やロケ地が大きな役割を果たしているが、「(衣装デザインの)澤田石(和寛)さんが手がけた衣装がキャラクターを作る上で支えになったというか、目に見えるものなのですごく助けになりました」と二階堂さんは感謝する。ロケ地に関しても、「犀星さんも同じ風景を見ていたのかなと思わせるような現場だったので、映画の空気としてマッチしていたのでは」と思いをはせる。
二階堂さんの話を聞いていた真木さんは、「ゆり子が水の中に入ったあと流れていくシーンを撮影するときに、照明さんがすごく大変そうだった」と撮影時の印象を語り、「桜のあるところまで行って照明を明るくするのですが、明るくするとウグイスが朝だと間違えて鳴き出してしまい、音声さんが「ウグイス黙らせろ」と言っていたのを覚えています(笑い)」と楽しそうに話す。
そして、そんなやり取りを聞いていた真木さんは、「録音部と照明部に『(ウグイスは)朝だと間違えているんです』とウグイスをフォローしていました」と言って笑う。
これまで何度か共演経験のある二階堂さんと真木さんの2人がそれぞれ演じる赤子とゆり子は、恋のライバルから始まり、物語の進行とともに関係性が変化していく。「大先輩ですのであまり偉そうなことは言えませんが……」と二階堂さんは恐縮しながら、「感情を動かすシーンのときに、真木さんはそっと寄り添ってくださり、感謝の気持ちでいっぱいです」と感謝の言葉を述べる。そして、「どこか身を削りながら作品に向き合っている印象があります」と真木さんの印象を語る。
真木さんも「すごく肝が据わっている女優さん」と二階堂さんをたたえ、「勢いも熱もあるし、しっかり勉強もしている。自分にないものを持っていて、うらやましいと思う部分もある」と二階堂さんを見つめながら話す。さらに、「これからやれる役の幅も広がっていくでしょうから、大いに期待しています!」と優しい笑顔でエールを送ると、二階堂さんも「頑張ります」と笑顔で応えた。
2人は雰囲気が似ているという話をよく耳にするが、「遠くはないと思います」と真木さんはいい、「同じかどうかは分かりませんが、“熱”という部分はどちらも持っていると思います。あふれるパワーみたいなものはすごく似ているし、きっと他人から見たらそう思うのかもしれない」と分析する。
真木さんの言葉に「先輩として尊敬していますし、近いものがあるとおっしゃっていただけることがすごくうれいしいし、光栄です」と二階堂は喜び、「自分からはどこが似ているかは分かりませんが、目が二重で一緒です」とほほ笑む。すると真木さんが、「うちの娘が(二階堂さんの)写真を見て『この子ママにそっくり』と言っていました」と笑顔で明かした。
完成した作品を見て、「感無量」と感慨を口にする二階堂さんは、「高校生の頃から思い続けていた作品が本当に映像になったということと、はかないけれどものすごく愛嬌(あいきょう)があって、趣きのある映画に仕上がったので、すごくいい娯楽映画ができたと思います」と自身をのぞかせる。
続けて、真木さんが「いい文学を1ページ1ページめくって読んでいるような作品」と作品を表現すると、二階堂さんは「フィルムの色合いもきれいで、世界観に浸れる映画なので見ていただけたらうれしいです」とアピールする。
今作には男の欲望や女性に対する願望が見え隠れするが、「犀星の作品は、女性をエゴだけで理想化していないというか、理想化しているところもありますが、晩年の作品ということもあってか理想だけではないと思います」と二階堂さんは犀星の心情を読み解き、「そこに同じだけ経験もあり、女性のリアルなところも描かれていて、そういうところが細やかで昔の文士は違うと思います」と分析する。聞いていた真木さんも、二階堂さんの言葉に深くうなずく。
理想を具現化したような女性が登場する今作だが、2人の思い描く理想の女性像について、「真っすぐに生きたい」という二階堂さん。「女優の高峰秀子さんが好きで、書かれたエッセーを読むと、芯がしっかりとしていてカッコよくて憧れます」と目を輝かせる。
一方、真木さんは「独立して強い女性をこれから日本の男性がきちんと認めていくべきだと思います」といい、「今は“草食系”と呼ばれる男性が多いですが、きちんと自分の足で立っている女性というのが、本当に“いい女”なんだと認められる社会になってほしい」と持論を語った。映画は全国で公開中。
<二階堂ふみさんのプロフィル>
1994年9月21日生まれ。沖縄県出身。2008年に役所広司監督の「ガマの油」で映画デビュー。11年に「劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ」で初主演を果たし、12年、「ヒミズ」で「第68回ベネチア国際映画祭」のマルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人俳優賞)を受賞する。以降、「悪の教典」(12年)、「脳男」(13年)、「四十九日のレシピ」(13年)、「ほとりの朔子」(14年)、「渇き。」(14年)など数々の映画に出演し、第35回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第56回ブルーリボン賞助演女優賞といった映画賞を受賞。16年には出演映画の「オオカミ少女と黒王子」「ふきげんな過去」「SCOOP!」などの公開を控える。
<真木よう子さんのプロフィル>
1982年10月15日生まれ。千葉県出身。2001年、映画「DRUG」でデビュー。06年公開の「ベロニカは死ぬことにした」で初主演を飾り、また、「ゆれる」(06年)では、第30回山路ふみ子映画賞新人女優賞を受賞。出演した主なドラマに「SP 警視庁警備部警護課第四係」(07年)や「週刊真木よう子」(08年)、「龍馬伝」(10年)、「最高の離婚」(13年)、「問題のあるレンストラン」(15年)など。最近の出演映画には、「そして父になる」(14年)、「風に立つライオン」(15年)、「脳内ポイズンベリー」(15年)、「劇場版MOZU」(15年)などがある。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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