ギャガやセガ、コナミなどで活躍し、オンラインゲームメーカーも経営した経験を持つメディアコンテンツ研究家の黒川文雄さんが、エンターテインメント業界を語る「黒川文雄のサブカル黙示録」。今回は、低迷するアーケードゲーム業界を振り返りながら、VR(バーチャルリアリティー)がもたらす可能性について語ります。
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4月15日、VRを体験できる施設「VR ZONE Project i Can(ブイアール・ゾーン プロジェクト・アイ・キャン)」が半年の期間限定でオープンしました。ゲーム業界大手のバンダイナムコグループが本格的に取り組んだ施設でもあり、事前の話題性に加えてオープン後も口コミもあってか、既に1カ月先まで予約されているそうです。
体験できるコンテンツは6種類ありますが、私が最もインパクトを受けたのは、車椅子に乗って朽ち果てた廃病院内を移動するという「脱出病棟Ω(オメガ)」です。2人から4人が1組になり、一人また一人と殺されていくというスリリングな内容になっており、隣の被験者の悲鳴さえも演出になるという衝撃のコンテンツです。他のVR体験も一見の価値ありの内容で、これは実際に体感してみないと分かってもらえないのが残念です。
そんな注目のVRですが、低迷の続くアーケードゲーム業界の救世主になれるのでしょうか? ずばり私は、ゲームメーカーとアーケード施設の両者の意識改革がカギを握っていると考えています。
アーケードゲーム市場低迷の原因はいろいろありますが、2006年に発売された高性能な家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)3」の登場で、アーケードゲームの優位性や存在価値は揺るぎました。アーケードでの特別なゲーム体験やコミュニケーションという「成功の方程式」は過去のものになりました。
そしてもう一つ。PS3が発売された2006年に大店立地法(大店法)の改正がありました。これにより大型小売店舗の出店が制限され、出店を見送った土地に大型アミューズメント施設が建設されました。その特需に合わせて、アーケードゲームを中心に開発していたゲームメーカーは、ファミリーで楽しめるものを開発するようになりました。メダルゲームやクレーンゲーム機、プリクラなどが増えましたが、従来の売れ線だった格闘ゲーム、スポーツゲーム、レースゲームなどが減り、従来の顧客が離れて、顧客単価の大幅な下落を招きました。1990年には全国で2万店舗を超えていたアーケード施設は2003年にはその半分の1万店舗に減り、現在は約5000店舗ほどと言われています。
そんな中「VR ZONE Project i Can」を体験して感じたことは、アーケード施設の新しい活用法であり、今までに蓄積したゲームコンテンツ、演出などのナレッジ(知識)を生かせることです。
もちろん課題もあります。VRゲームを導入するためには、アーケードゲームのビジネスモデルを根本から考え直す必要があります。従来であれば、施設側は高額なアーケードゲーム機を買い、施設に置いたあとはユーザーが来店して遊ぶのを待つだけでした。これだけエンタメコンテンツが充実した時代、もうそんな時代遅れの手法は通用しません。そしてVRを一時のトレンドではなく、多くの人が体験できるエンターテインメントとして“昇華”させるにはゲームメーカーも未知のVR体験を開発することは当然ですが、それを実際に稼働する側の意識やスキルは必要です。つまり、来場者を感動させ、リピーターを得られるほど満足させられるかにかかっています。
コンテンツの充実やサービスで、顧客満足度を高めたディズニーランドやUSJが人気を博する一方で、反比例するように低迷を続けてきたアーケードゲーム業界。ゲームメーカーと施設の両者の意識次第ですが、アーケード業界の輝きが過去の歴史になるのか、新しいサービスとしてよみがえるのか、ここが勝負の分かれ目になると思っています。
くろかわ・ふみお 1960年生まれ、東京都出身。ギャガやセガ、コナミなどで活躍し、映像ビジネスやゲームビジネスなどにかかわり、コンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。黒川メディアコンテンツ研究所・黒川塾主宰。ジェミニエンタテインメント代表。
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