俳優集団「D-BOYS」がシェークスピア喜劇に挑む舞台「Dステ19th『お気に召すまま』」が、10月から東京、山形、兵庫で上演される。今作は2011年の「D-BOYS STAGE2011『ヴェニスの商人』」、13年の「Dステ14th『十二夜』」に続く、オールメール(出演がすべて男性俳優)で上演するシェークスピアシリーズの第3弾。柳下大さん、三上真史さん、山田悠介さん、前山剛久さんらD-BOYSらを中心に、メインキャストがほぼ1人2役を演じるということでも話題を集めている。過去2回のシリーズでも演出を務めた青木豪さんと、フレデリック公爵とその兄の前公爵の2役を演じる松尾貴史さんに、今作の魅力や印象、演劇の魅力について聞いた。
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演出を手がけて過去2回の公演でも大幅なアレンジがあったが、今回も「今まで2作も結構カットしたのですが、今回も構成を変えるなどしてかなりカットしています」と青木さんは切り出し、「自分が見ていて、まったく分からない言葉が続くと、そこでウトウトしてしまうことがあるので、自分がウトウトしない作品を作りたいなと(笑い)」と冗談を交じえながら説明する。聞いていた松尾さんは「でも言葉の量は膨大です」と笑顔で指摘する。
青木さんの味付けが施された台本を読んだ印象を、「どういうニュアンスやテンポ、立体感でやるのかというのは、最初に読んだだけだと、どうとでも想像できちゃう」と松尾さんは言い、「そうやって想像すると結構なエネルギーを費やしてしまうので、まずは何も考えずにボーッと読ませていただいて、とりあえずは“スケッチブック”が真っ白な状態」と現在の状況を明かす。さらに「2時間あれば相当な世界観が構築できるはずで、あとはお客さんの想像力を尊敬して、敬意を払ってどう組み立てていくのかなということだと思う」と持論を語る。
うなずきながら聞いていた青木さんは、松尾さんをキャスティングした理由を「今回は基本的にほぼ1人2役にしたいというコンセプトであって、前の公爵と今の公爵は絶対2役でやってほしかった」と前置きし、「松尾さんはいろんな役を瞬時に変えられるから、僕も見ていて楽しめる。傲慢な物言いかもしれませんが演出は観客代表だと思っているので、そういう意味で安心して楽しめる方とぜひやらせていただきたいと思いました」と説明する。
メインキャストがほぼ1人2役という今回の舞台だが、松尾さんは「(前の公爵と今の公爵を)同じ人にやらせるというのはものすごく大冒険」と笑いつつ、「最初は2役というのは分からない状態で、2年ぐらい前からオファーをいただいていて、僕でよければという感じでした」と当時の心境を振り返る。そして、上演が近付くにつれて、「だんだん情報をいただくにつけ、面白そうだな、やりがいがありそうだなという実感が少しずつ出てきている状況です」と期待を口にする。
さらに1人2役を演じるにあたっては「お客さんがもし『たまったもんじゃないだろうな』と思って見てくれたら、しめしめじゃないかなという気もします」と松尾さんは話し、「出演している人がいじめられている感と言ったらなんですけど、(観客に)大変なんだろうと思われる感じのものは、やりがいがあります」と笑顔を見せる。
しかし、台本を読み「1カ所、ものすごく(展開が)速いところで、現公爵に戻っているところがあるのですが、早替えみたいな感じになるのかなと、ちょっと読んでいて不安になりました」と松尾さんが打ち明けると、青木さんは「いろいろ検討して頑張ります」と切り返した。
D-BOYSのメンバーから女性役を選ぶ際には「D-BOYS内で女優メインのオーディションをやらせてもらいました」と青木さんは言い、「男性俳優だとこの人がこれをやるというのは描きやすいのですが、この人が女役をやったらどうなるんだろうというのは、声を聞いたり、動いてみてもらったり、人となりを見ないと決め難いところがありました」とオーディション開催の舞台裏を明かす。
続けて、「この人がこれをやったら面白そうだなとか、あとは組み合わせで背が高い人は低い人と組んだほうが楽しいだろうというようなところで決めていった感じです」と語り、「不思議と(ロザリンド役の)前山(剛久)くんや(シーリア役の)西井(幸人)くんはきれいなほうで問題なかったのですが、(ル・ボーとオードリー2役の)遠藤(雄弥)くんと(マーテクストとフィービー2役の)山田(悠介)くんに女役を読んでもらったらものすごくだめでした(笑い)。読んでもらった瞬間にオードリーとフィービーというブス役が面白いと思いました」とキャスティングについて解説する。
シェークスピア作品の魅力について、「これだけ多くの人が教科書にしたり目標にしたり、あと手を変え品を変えということが行われているのは、すごく画期的で長持ちするものを作ったのだということ」と松尾さんは切り出し、「古典になるためには残らなければいけず、『昔こんなものがありました』というものは古典とは呼ばれない。古典として生き続けているということは、現代でもその感覚なり、あるいは人の思いなり人間関係なりを観客が生活や経験の中でなぞらえることができるから、ストーリーを楽しむことができるんだと思います」と持論を述べる。
続けて、「シェークスピアという一つの教科書なのか基準なのか分からないですけど、そういうものがずっと存在してくれているということが、また新しいものを作る人たちの一つの手本や反面教師になったり、いろんな面を持って存在し常に中心にいるものという気がします」と言葉を選びながら語る。
松尾さんの言葉に深く同意を示した青木さんは、「シェークスピア作品は対立の構図だったり、誰かと誰かが愛し合うけどうまくいかないとか、軸がすごく太い。それで揺れるときは思いっきり大幅に揺らすので、安心して見ていられるというか、ちゃんとワクワクできるということがずっと続いている理由なのかなと思います」と付け加える。
日常が非日常に変わるところが見る側として演劇に感じる魅力の一つだが、「大元を突き詰めると“心が動く”ということしかないのかなと。心が動いた証しに拍手だったり、笑い声、すすり泣く声ということがあるのだろうと思います」と松尾さんは語り、「劇って劇薬の劇ですから、何かこう刺激があって毒にも薬にもなる。それが演劇なのかな」と役者目線での魅力を語る。
そして青木さんが「それと生身の人間がそこにいること。きっとそのとき見に来ているお客さんによってもまた変わります。それも魅力かなと思います」と言ってうなずくと、松尾さんも「(上演回ごと)毎回変わるから何度も見に行くというお客さんも多いと思いますが、その魅力は生身の人が毎度いるっていうことでしょう。うちの旦那とは一回キスしたからもうしなくていいという人はいないはず(笑い)とちゃめっ気たっぷりに同意する。
そして、「結局、人間がそこにいて触れ合うことで繰り返しの魅力になる。それで心動かされるストーリーを作ったり表現したり、いろんなものを見せてくれるわけですから、くせになっていってほしいなと思います」と松尾さんは演劇鑑賞を勧める。
男性が女性を演じ、さらにそのキャラクターが男装するといった人物も登場するが、「役者さんは大変だろうなと思いながら見ています(笑い)。今回は前山くんがそれに初挑戦なので、どうなるんだろうと思いながら、楽しく遊んでほしい」と青木さん。実際に舞台で共演する松尾さんは「実はこれまであまりそういう経験がなくて、きっとお客さんがイマジネーションでどう思い込んで見てくださるかも大事なのでは。周りがその人を女性として扱うことによって(役が)女性だと思えてきて、全体で想像しやすくなる部分というのがあると思う」と言い、「きっと男性役の人たちは普段演じるより“男性度”を高めにしなきゃいけないのかなという気もします。そういう男女比みたいな割合を周りがどうバランスを取ってお見せするかというのも、ポイントの一つではと思います」と演技プランの一端を明かす。松尾さん自身は女役がなかったことについては、「ホッとしています(笑い)」と語った。
舞台「Dステ19th『お気に召すまま』」は、東京公演が10月14日から本多劇場(東京都世田谷区)、山形公演が11月12日からシベールアリーナ(山形市蔵王松ケ丘)、兵庫公演が11月19日から兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール(兵庫県西宮市)で上演。チケットは山形公演は6日から、東京公演と兵庫公演は7日から一般発売を開始。
<青木豪さんのプロフィル>
1967年生まれ、横須賀出身。97年に劇団グリングを旗揚げ、2014年の解散まで全作品の脚本・演出を手がける。13年には文化庁新進芸術家派遣制度により、1年間ロンドンに留学。09年に脚本を手がけたHTBスペシャルドラマ「ミエルヒ」で第47回ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、NHK-FMシアター「リバイバル」でABU賞などを受賞。最近作は舞台「花より男子 The Musical」などがある。
<松尾貴史さんのプロフィル>
1960年5月11日生まれ、兵庫県出身。84年デビュー。俳優、コラムニスト、イラスト、折り紙作家など、多彩なジャンルで活躍。主な出演作にドラマ「相棒」(テレビ朝日系)、NHK大河ドラマ「龍馬伝」、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日形)など。近年の舞台出演には「AGAPE store『七つの秘密』」、「麦ふみクーツェ~everything is symphony!!~」、オフ・ブロードウェーミュージカル「マーダー・フォー・トゥー」などがある。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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