映画「ターザン:REBORN」(デビッド・イェーツ監督)が全国で公開中だ。さまざまなメディアで映像化されてきた「ターザン」だが、今作では英国貴族となったターザンが、さらわれてしまった妻を救うため再びジャングルへと足を踏み入れ、野性に目覚めていくという新たな展開を描く。米テレビシリーズ「トゥルーブラッド」や映画「メイジーの瞳」(2012年)などで知られるアレクサンダー・スカルスガルドさんがターザンを演じているほか、マーゴット・ロビーさん、サミュエル・L・ジャクソンさんらが出演。日本語吹き替え版でターザン役を担当した俳優の桐谷健太さんに聞いた。
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初めての声優挑戦について「(俳優とは)全然違う経験でした」と桐谷さんは振り返る。「(言葉に)感情だけを乗せればいいわけではないし、ちゃんと言葉が明瞭である必要もある。(実際に演じている)役者さんの“間”と合わせることや、感情的な要素も向こうの顔の雰囲気と合っていないとだめ」とアフレコで感じた印象を語る。そして、「いろんなことがあって、すごく困難でしたけれど、すごく楽しかったし、面白かったです」と充実感をにじませる。
俳優の表情と自身が発する感情のすり合わせに苦労したという桐谷さんは、「やっぱり何度もやるしかない」とマッチするまでアフレコに挑んだという。そういった作業について、「初日はある種、自然と真っ白な何も準備しない状態でやったのですが、今、考えるとターザンって、準備してやるよりは、感覚でぶつけていったほうがよかったんだろうなと思います」と手応えを語る。
続けて、「初日が終わった時点で、家に帰ってもう一回見直して、台本総ざらえして今度はガッと入れ込んだ状態で次の日は勝負できた」と言い、「まっさらで出したターザンのよさと背負い込んだよさ、両方出せたのではないかと思います」と自信をのぞかせる。しかし、「どんな仕事でも『もっといけたな』とか『もっとああやったらよかった』というのは、もちろんあります」と真摯(しんし)な表情を見せ、「だからやめられない。でもそのときにしか出ない、その感じは出たんじゃないかなと思います」と仕事へのスタンスを交えつつ語る。
桐谷さんが声を担当したターザンは、英国貴族として政府からも一目置かれる存在という、これまでには見たことがないキャラクターだ。その中で再びジャングルへと戻っていくのだが、「貴族のときはそういう“貴族らしい”雰囲気というかしゃべり方やたたずまい」をポイントに演じたと桐谷さんは切り出し、「(ターザンは野生育ちなので)本当はもっとたどたどしいしゃべり方になるのかもしれないですけれど、自分はジョン・クレイトンという、跡継ぎとしてここにいるというのを出している。でも本当はどこかでターザンに戻りたい部分もきっとあるから、そこでの変化は意識しました」と説明する。
さらに、「かといって大きく変わるわけではなく、静かにしゃべっていた人物がターザンになって途端、『イエーイ!』みたいな感じになるわけでもない」とちゃめっ気たっぷりに語り、「俺がやった工夫でいえば、英国貴族のときは靴を履いてレコーディングして、ターザンになってからは裸足でレコーディングしました」と収録時の取り組みを明かした。「何が変わるか分からないですけど、そこは変えました」と笑顔を見せる。
声優に挑戦して「イメージが変わった」と桐谷さんは感じ、「いろんなやり方があるでしょうけれど、何カ月もかけて撮った映像に短期間で声を入れるというのはすごいこと」と驚く。俳優業とは異なる収録の進め方に、「だからあまり考えすぎてもだめだし、役者としはまた違う奥深さを感じました」としみじみと語り、「俺はプロの声優さんではないので、自分にしか出ないリアリティーみたいなのが出ればいいかなとは思いました」とアフレコ時の心境を語る。
収録時に「声優さんの言葉を聴いていると抑揚があってすごくスコーンと入ってきて、プロってこういうことか」と桐谷さんは感銘を受けるも、「自分では感情を込めた言い方をしていたとしても、それよりもちょっと意識してはっきり言うだけでも聴こえ方が全然変わったりする。かといって気持ちがちゃんと乗っかっていないとだめ」と試行錯誤したことを説明。そして、「そういったことを全編通して短い日数でやりきるというのは、終わってから『マジか!』と思いました(笑い)」と自身でも驚いたという。
アフレコに臨む前は、「同じところを何回か言わせてもらえて、そこからいいのを選んでくれるのかな」と思っていたと桐谷さんは笑顔で明かし、「(今回の声優を)どう取るかは監督によっても変わるのでしょうけど、めっちゃまたやりたいなと思っています」と目を輝かせる。やってみたいキャラクターは「今回、結構はまるじゃないですけど、声の質としては合っていますよね」と自身でも手応えを感じているが、「全然違う(ちょっとしわがれたような声で)『おい!』みたいな役とかもやってみたい。いろいろやれたら楽しそうだなという感じがあります」と思いをはせる。
イメージに合った仕上がりになっているという桐谷さんの吹き替え版だが、「俺が声をやっているというのが(見る人に)分かっているということが強烈に怖い」と桐谷さんは吐露し、「やっぱり声だから、俺の顔が(イメージとして)出てくると言われる可能性がある。だからもう、逆に普段から(ターザンのように)上半身を脱いでおこうかなと。そうしたら俺の顔が出てきたとしても、そんなに違和感はないのでは(笑い)」と冗談交じりに語る。そして、「顔をイメージされてしまうのではというハードルはやっぱり高いから、俺がターザンとしての感情でやっているのか、俺の感情でやっているのかでまた全然違う。俺の感情でやっちゃうと俺が出てきたりする」と説明し、「ターザンとして見られたらそれがやっぱり最高。世界観にのめり込める形になっていればいいなと思います」と期待を寄せる。
日本語吹き替え版ならではの魅力を「字幕版は向こうの役者さんの声とリアルな空気感があると思いますけれど、吹き替え版は画を見ながらすっと言葉も入ってきて楽しめる」と言い、「『ターザン:REBORN』は映像がすごく迫力があってアクションも痛快なので、そこを見てほしい。字幕が好きだという方は字幕を見ていただいて、子供と一緒に見たいとかいう方などは吹き替えで見ていただきたい」と力を込める。
そして、「今回は皆さんが知っているターザンとは一味違って、英国貴族が愛する人を救うためにジャングルへ戻っていくという、現代では忘れかけている“男らしい男らしさ”も楽しめます」と表現し、「夏にぴったりの爽快なアクション映画になっているのでぜひ劇場で、よろしければ吹き替え版で見ていただきたいです」とメッセージを送った。映画は全国で公開中。
<プロフィル>
1980年2月4日、大阪府生まれ。2002年にテレビドラマ「九龍で逢いましょう」(テレビ朝日系)で俳優デビューし、03年に「ゲロッパ!」でスクリーンデビュー。07年に「GROW 愚郎」で映画初主演を果たす。主な出演ドラマに「ROOKIES(ルーキーズ)」(TBS系)、「天皇の料理番」(TBS系)、出演映画に「BECK」(10年)、「GONIN サーガ」(15年)、「バクマン。」(15年)、「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」(16年)など。17年には出演した映画「彼らが本気で編むときは、」の公開を控えている。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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