ニチアサ:大幅改編にショックの声 どうして“特別”なのか

「ニチアサ改編」というたった一言に、私たち大人の方がこうも過敏に反応してしまったのは一体なぜなのでしょう。
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「ニチアサ改編」というたった一言に、私たち大人の方がこうも過敏に反応してしまったのは一体なぜなのでしょう。

 テレビ朝日の日曜朝のキッズ枠“ニチアサ”の大幅改編は、アニメファンを中心に大きな話題となった。単なる定例改編の話題にとどまらない広がりをみせた“ニチアサショック”を“オタレント”の小新井涼さんが、ファンの目線から分析する。

ウナギノボリ

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 「スーパー戦隊」と「仮面ライダー」、そして「プリキュア」がオンエアされるテレビ朝日系列の日曜朝の放送枠、通称「ニチアサ」の改編発表に、ショックの声が多数あがりました。声をあげたのは全国の子供たち……ではなく、なんと我ら大人たちです。確かに「ニチアサ」は、子供のいる親からいわゆる“大きなお友だち”まで、もともと大人の視聴率も高い枠ではあります。とはいえ、「ニチアサ改編」というたった一言に、私たち大人の方がこうも過敏に反応してしまったのは一体なぜなのでしょう。

 今回の改編内容は、8時半までのニュース番組が10月からスタートすることにより、特撮2作の放送時間帯がこれまでより遅くなるというものです。プリキュアの時刻は変わりませんが、これまでの「スーパー戦隊」「仮面ライダー」「プリキュア」という流れが、10月からは「プリキュア」「仮面ライダー」「スーパー戦隊」という順番に変わります。

 ということは大人たちの反応も、単純に放送時間の変更に対する戸惑いだったのでしょうか。「ニチアサ」に限らず、朝ドラなどもそうですが、平日は通勤通学前後、休日はお出かけ前後のタイミングで放送される朝や夕方の番組には、放送そのものがその時の曜日や時間をお知らせしてくれる、時報やカレンダー的なところがあります。そのため今回のケースでは、「日曜出勤だとキュウレンジャーまで見られない」、「いつも通りニチアサ最後までみていたらバイトに遅刻した」といったように、日曜朝の習慣や時間感覚が狂ってしまうことが考えられるのです。

 しかし正直それだけならば、他の番組を時報代わりにしたり、リアルタイム視聴は諦めて録画したりといった妥協案で、なんとかできないこともありません。そのうち慣れてきますし。ただ、私たちが「ニチアサ改編」の文字に動揺してしまったのには、もっと他に、理屈じゃない、感情レベルでの理由があるように思います。

 ちなみに今回、「ニチアサ改編」という文字をみて真っ先に抱いたのは、驚がくでも落胆でもなく、「なんだか寂しい」という感覚でした。そして興味深いことに、この「なんだか寂しい」という感想は、他の視聴者だけでなく、現在はその放送枠を見ていない“元視聴者の大人たち”からも出ていたのです。この「寂しさ」は、例えるならば久々に帰郷した地元で「通学路の駄菓子屋」がなくなっているのを見た時のショックに似ていると思います。いつまでもそこにある、あって当たり前だと思っていたモノが、あっけなく変わってしまった時の物寂しさです。

 これらのことから分かるのが、元視聴者を含む大人たちは「ニチアサ」という放送枠そのものに、ある種ノスタルジックな愛着を持っているのではないかということです。つまり「ニチアサ改編」への大人たちの過敏な反応とは、愛着あるものが変化してしまうことへの危機感からくる、一種の条件反射だったのではないでしょうか。

 また、そうして寂しさも感じる一方で、今回の改編には、内容をみて少し「安心」してしまったところもありました。大きな放送時間の変更はあったものの、“特撮と女児向けアニメが連続で放送される”という、個人的に「ニチアサ」の根幹だと思っている部分には変更がなかったからです。

 これがもし、「特撮だけ別の曜日の夕方に移動」とか、「プリキュアだけ別の曜日の朝に移動」などという変更があったならば、ショックはもっと大きかったと思います。そうなってしまえば、例えプリキュアや特撮の放送自体は続いていても、その呼び名が定着した2000年代以降、私たちが「ニチアサ」と呼んできたものは、ある意味終わってしまうも同然だからです。

 日曜朝にテレビをつけていれば特撮と女児向けアニメが流れ、その間は大人も子供も女性も男性も関係なく盛り上がれる特別な時間、そんなイメージが「ニチアサ」という放送枠にはあります。だからこそ私たちは、「いつまでも続いてほしい……」という願いもあり、「ニチアサ改編」という言葉には、特に過敏になって反応してしまうのではないでしょうか。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

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