俳優の玉木宏さんが主演する映画「悪と仮面のルール」(中村哲平監督)がこのほど公開された。芥川賞作家・中村文則さんの小説が原作。悪になるためにつくられ、愛する女性を守るために顔も名前も変えて殺人を繰り返す……という難役に挑戦し、「ダーティーな世界観をどこまで映像化できるのか楽しみでした。繊細なだけに難しい役」と語る玉木さんに、役や作品、同世代の監督や作家への思いなどを聞いた。
◇「あさが来た」直後に撮影 難役を「静かに強く」
この世に災いをなす絶対的な悪=「邪」になるために“つくられた”少年・久喜文宏が、初恋の相手・香織を守るため、父を殺害して失踪し、整形で顔を変え、名前を「新谷弘一」と変えて、殺人を繰り返す……。
玉木さんは弘一となった文宏を演じ、香織を新木優子さんが演じる。テロ組織の実行犯の一人・伊藤役で吉沢亮さん、文宏の過去を知る異母兄の幹彦で中村達也さんも出演する。
撮影は2016年の5月ごろ。直前まで撮影があったNHKの連続テレビ小説「あさが来た」とは異なる世界観の作品に「ダーティーな世界観をどこまで映像化できるのか楽しみでした。チャレンジできる作品」という期待を持って臨んだという。
自身が演じた文宏は「香織と出会っていなければ『邪』として育っていた。香織がいたことで、すべてがガラリと変わって理性が生まれ、善悪の間で生きた男性」という特殊な役どころ。「人間的なもろさや弱さを大事にできればと思った。繊細なだけに難しい役。静かに強く、ということをずっと考えながら演じる作品でした」と振り返る。
◇整形シーン前は顔に美容鍼 ラストシーンへのこだわりも
見た目にもこだわり、整形直後の文宏を演じたシーンでは、撮影直前に、顔に美容鍼(はり)を打って臨んだ。「顔の筋肉がうまく動かせない状態を作ってもらいたくて、撮影現場で、顔のあらゆるところに鍼を50本ほど打ってもらいました。(結果は)顔に緊張感があるなとか……そんなに大きく変わることではないですが、やらないよりやった方が面白いかなと思って。これも一つのチャレンジだったんです」と振り返る。
整形後というシチュエーションは「(表情を)極力抑えて、香織を目の当たりにした瞬間に、童心に帰るよう、元の(少年時代の)文宏に戻るよう意識しました。ただ、戻るのは目だけ。パーツだけが彼女(香織)を求めているというか……顔は変えてしまった以上、思うように動かないという意識でした」と演技にも変化をもたらした。
「原作で好きなシーンだった」というラストシーンは当初、原作とは異なる空港のロビーでの撮影が予定されていたが、玉木さんの意志もあり、原作と同じ場所になった。「閉鎖的な密室だからこそ、文宏は香織の発する匂いまで吸い込むことができる」というこだわりのシーンに仕上がっている。
暴力的な描写も登場するが、玉木さんは「女性は香織の目線から見てもらえると、お互い(文宏と香織)の気持ちがよく分かるんじゃないかな」と勧める。自身も原作では「香織に感情移入していた」といい、「(自分を)まっすぐ見てくれて、守ってくれる文宏のような存在は、とても心強いと思います」と語った。
◇38歳迎え「まだまだスキルアップを」 同年代への思いも
「原作で香織が通っている高校が、どう読んでも(自身の地元・名古屋市にある)中村高校にしか思えなくて……」と話し、名古屋市に隣接する東海市出身の中村文則さんに聞くと「はっきりとは言わなかったんですけれど『そうだと思います』みたいな感じでした」とおちゃめな表情を見せる玉木さん。
「僕は(名古屋市の)中村区出身なんですけど『中村』というワードに縁を感じる作品でしたね。中村哲平監督、中村文則さん、(共演した)中村達也さん、中村高校……。なかなかこんなにそろうこともないですから」と意外な“中村つながり”に笑顔を見せた。
今月、38歳になり、中村監督は今年39歳、中村文則さんは41歳と同世代だ。玉木さんは、最近になって同世代のスタッフと仕事をすることが出てきたと言い、「ようやく自分もそういう年代になったんだと気づかされますね。ずっと先輩たちの背中を見てやってきて、同じ土俵に同世代の人がいるのは、すごく刺激的だし、負けたくないなと(いう気持ちにもなる)。自分の持ち場で何ができるか、ぶつけ合える環境になったのかな」と明かす。
そして「まだまだ俳優としてスキルアップしなきゃいけない。40歳にさしかかって、より今しか出せないリアリティーや説得力を見せられる俳優になれたら」と将来を見据えた。
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