ダンダダン
第12話「呪いの家へレッツゴー」
12月19日(木)放送分
「映画 聲(こえ)の形」などの山田尚子さんが監督を務めた劇場版アニメ「リズと青い鳥」が21日、公開を迎えた。アニメ「響け!ユーフォニアム」に登場する鎧塚みぞれ、傘木希美という2人の高校生を中心とした物語で、2人の繊細な心の動きを丁寧に描く。作品を作る上で「少女たちのため息を描く」ことをテーマにしたという山田監督に、映像、音などの表現のこだわりを聞いた。
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武田綾乃さんの小説「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」(宝島社文庫)が原作。北宇治高校吹奏楽部のオーボエを担当するみぞれにとって、フルートを担当する希美は数少ない友人。強く執着するが、徐々に関係が変化していく。「響け!……」「映画 聲の形」と同じ京都アニメーションが製作する。
山田監督は、これまで「響け!」のシリーズ演出として作品に携わってきた。同シリーズは昨年、みぞれと希美の物語を描く「リズと青い鳥」、2年生になった黄前久美子たちのその後を描く新作の2本の公開が発表されている。この2本の製作を決定する上で、山田監督らスタッフは武田さんの新作のプロットを読んだという。山田監督は「そこには、久美子の物語と、みぞれと希美の物語の2本がしっかりと立っていて、1本ずつの映画にできるんじゃないかという話になりました」と振り返る。
今回のタイトル「リズと青い鳥」は、劇中に登場する童話で、それを基に作られた楽曲のソロパートをみぞれと希美が演奏する。山田監督は、プロットを読んだ際に「童話の『リズと青い鳥』にすごく胸を打たれました」といい、「『愛している』の形や相手を思う心のすれ違い、齟齬(そご)というか、お互い思い合っているのに、形が違うだけでこんなにすれ違っちゃうのかと。それが、すごく構造として面白いなと思って、そのくみ上げをぜひやってみたいと思った」という。
制作にあたり山田監督らスタッフがスローガンとしたのは、「少女たちのため息を描く」ということだった。山田監督は「『響け!』はけっこう熱血な作品で、少女たちががんがん階段を上っていくような爽快感のある作品だったのですが、今回はすごくフォーカスを絞った状態で女の子2人の悩みなどを描くということで、逆に階段を下りていくような、心の中に下りていくような作品。繊細に丁寧に美しく描きたかった」と語る。
みぞれと希美の2人の関係性を表現する上で「2人の会話は表面上は、うまく成り立っているように見えるけど、実際に2人が思っていることや言っていることはずっとすれ違っている。そこを大事に、ブレないようにしました」と山田監督。
「自身の経験を重ねた部分もあったのか」と聞くと、「彼女たちを理解するために、自分がこれまで感じたことを乗せてみたりはするけれど、あくまで彼女たちの見解や理解を超えないようにした。『彼女たちはどう思っているんだろう』『前向きなことを言っているけれど、実は動揺しているんじゃないか』といった部分をちゃんと拾いたいと思った」と話す。「言葉だけで全てが片付くとは思わない」といい、会話中の手や足の仕草でも心情を表現しているという。
繊細な心の動きを描くために、山田監督は音にもこだわった。劇中では、みぞれと希美の2人を中心に描かれる学校のパートと、童話の世界を表現したパートに分かれている。学校パートの音楽を牛尾憲輔さん、童話パートを『響け!……』シリーズで音楽を担当してきた松田彬人さんが手がけた。
山田監督は「この線引きを大事にしたかった。学校パートは、学校を容器に見立てて、壁や椅子、廊下がみぞれと希美の行方を固唾(かたず)をのんで見守っているような音楽世界」とイメージを語る。そうした音楽世界を表現するために、牛尾さんは実際に舞台となっている学校でビーカーをたたく音や廊下の反響、足音などを録音し、音楽の素材として使用したという。
学校を容器に見立てるアイデアは、山田監督の「彼女たちが音楽を巻き起こしていくような印象の映画にしたかった。揺れる髪であったり、足音だったり、それが音楽になっていくような作品にしたい」という思いを聞き、牛尾さんが提案したものだった。
山田監督は「みぞれと希美が楽しそうにしていたら、周りの音も楽しそうな雰囲気で、雲行きが怪しくなったら、周囲の廊下や壁が『どうしたの?』とハラハラしているようなイメージなんです。ちょっと可愛いですよね」と笑顔で語る。「物音が生々しく聞こえてくる」ような音の表現が随所に見られる作品となっている。
一方、童話のパートは「とにかくシンプルに、とにかく分かりやすく、人の心にすっと入り込む音楽を目標に松田さんが作ってくださっています」と話し、「映画は1回の出会いなので、その中でみぞれと希美の物語が見ていただく方の心にちゃんと染み込むような音楽でありたい」と思いを語った。
少女たちを撮る上で「彼女たちに気付かれないように撮る、という絵作りをしました」と山田監督。「カメラを据えて、じっと映すというか。室内だから難しいんですけど、望遠レンズっぽく撮ることでのぞき見感が出るように意識しました。あとは、全体的な色味もガラス越しに彼女たちを見ているようなイメージで、分厚いガラスのちょっと緑っぽい色を大事にしました。あまり近寄らないように、息を潜めて彼女たちを見るという。近付きすぎると壊れちゃうので……」とこだわりを明かす。
音、撮影などさまざまな面で丁寧に繊細に2人の心の動きが描かれている本作。せりふの作り方に関しても、これまでのシリーズで描かれた「群像劇ではキャラクターが一発で分かるせりふの作り方が大事」という視点に対し、「今回はむしろそうではなくて、全部を引き延ばして引き延ばして、1個1個の粒子を積み重ねていくようにした」と山田監督。みぞれを演じた種崎敦美さん、希美を演じた東山奈央さんにも「分かりやすくしゃべらない」というオーダーをしたという。
山田監督が描きたかったのは、「彼女たちが成長していく、年を重ねていく過程の1ページ」と話す。2人の関係性を「始まりから終わりを描くのではなく、途中から途中を描く。彼女たちの抱えている問題や悩みは、映画の中で始まって映画の中で終われるほど、簡単なものじゃない」といい、「嘘がないように描くことが『リズと青い鳥』というタイトルへの責任」と思いを語った。「リズと青い鳥」でみぞれと希美がどんな音を奏でるのか。耳を澄ませてじっくりと“聴く”作品となりそうだ。
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