小袋成彬:インタビュー・下 宇多田ヒカルとのアルバム制作秘話を語る 今作は「自分の半生」

アルバム「分離派の夏」でデビューしたシンガー・ソングライターの小袋成彬さん
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アルバム「分離派の夏」でデビューしたシンガー・ソングライターの小袋成彬さん

 宇多田ヒカルさんの2016年のアルバム「Fantome(ファントーム、oの上にサーカムフレックスが付く)」の収録曲「ともだち with 小袋成彬」にゲストボーカルで参加したことがきっかけで、宇多田さんのプロデュースによるアルバム「分離派の夏」でシンガー・ソングライターとして25日にデビューした小袋成彬(おぶくろ・なりあき)さん。今作には宇多田さんが参加した「Lonely One feat.宇多田ヒカル」も収録されている。小袋さんに、デビューアルバムの制作秘話やプロデューサーである宇多田さんとのエピソードなどについて聞いた。

ウナギノボリ

 ◇デビュー作は「26歳までの人生の区切り」

 ――小袋さんの音楽の原体験は?

 両親ともに音楽が好きで、カセットテープやCDをすぐに聴ける環境にはありました。家族の旅行中の車内とかが多かったです。当時のJ-POPのトップ10の曲とかで、僕が覚えているのはケツメイシとか、Mr.Childrenとかを流してましたね。

 ――デビュー作のタイトルにある「分離派」は、ご自身の複雑な性格ゆえに、「自分は世界の分離派である」という意味合いが含まれているそうですが、ご自身でその性格を分析すると?

 例えばある課題が、研究者っぽく非常に深いところまで潜らないと突破できなければ、僕は研究者タイプになるし、もう少しおちゃらけた感じで解決できるのであれば、僕はそうするんですよ。レーベル(自身が設立したTokyo Recordings)の営業でも、あんまり深いことを考えずに、人付き合いだけよくすればうまくいくときは、そうできちゃうんです。だから「ハタから見るとあいつは何を考えてるか分からない」って言われることが多いし、僕自身も理解してもらえると全く思ってないフシがあって。だから複雑なんですよね。向こうにとっても僕が複雑で、僕自身も今、何のモードなのかよく分かっていないという。

 ――アルバム「分離派の夏」は、小袋さん自身の日記のような、私小説のような印象を受けました。

 僕は強烈に個人的なことしか歌わないので。僕の中で大切な人物がいて、その個人に対して曲を作るので。それがあるいはもう一人の自分だったりするんですけど。だから世界や社会に向けては作れないし、発したいメッセージみたいなものもない。ただ自分の心情をしっかり描いただけで、そこに対する思いとかもないし、どういう心情かもうまく説明できないんですよね。説明できないから歌にしているので。

 正確に言うと、(今作で歌っているのは)26歳までの僕の半生です。そもそも発売日が4月25日というのも、4月30日が27歳の誕生日なので、26歳までの区切りっていう理由でそこにお願いしたんです。26歳までの区切りって自分で決めた以上、それまでに出したかったんですよね。

 ◇宇多田のプロデュースの奥義は…

 ――宇多田さんが今作のプロデュースを手がけたのは、宇多田さんの楽曲「ともだち with 小袋成彬」での共演が一つのきっかけではあると思いますが、実際の具体的ないきさつは?

 僕が(アルバムを)作り始めていた時点では、どこ(のレーベル)から出すっていう話は全くなくて。というのも、宇多田さんはレーベルの移籍で結構バタバタされていて、ディレクターとも彼女ともほとんど連絡をとっていなくて……移籍を発表したころにはデモが出来上がっていたんです。それで(宇多田さんのディレクターやレーベルチームのスタッフに)聴かせてみたら「行けるんじゃないか」っていうので、じゃあ同じソニーのチームでやれたらどうかと。宇多田さんがプロデューサーになるっていうのも、僕が直接、彼女に頼み込んでとか、彼女がレーベルに頼み込んでとか、そういう話じゃないんです。ただそれはちゃんと(宇多田さんが自分から)言ってくれたんだと思います。どちらかというと「じゃあ、やってみようか!」みたいなノリですね。

 ――宇多田さんのプロデュースワークはどうでしたか。

 彼女が20年間、J-POPのトップランナーであった理由が、彼女のメソッドにあるんですよね。彼女が音楽を作る上で、曲を作る上で大事にしていることがあって。それは僕なりの解釈なので、事実と違うと申し訳ないから、それが何かは言えないんですけど、僕にはそれが全く大事じゃなかったっていうところがあったんです。それをそのままポンって受け入れるタイプじゃないので、「それは僕にとってどういうことなのか」とか、自分の中でいろいろ考えながらやりましたね。

 ――ボーカルディレクションは?

 なかったです。「Lonely One feat.宇多田ヒカル」は東京・恵比寿のスタジオで一緒に録(と)ったんですけど、そのときもディレクションはなかったです。(「……カメラに笑顔向ける少年」などの宇多田さんの歌詞&ボーカル部分は)僕が曲の前半で書いていたことを受けて、突然、誰かを思い出したのか、僕自身のことなのか……でも全く思い当たることがないし、正直いまだによく分からないです(笑い)。

 ――今作でアーティストとしての活動がスタートしたわけですが、心境はいかがですか。

 いやー、ホントに変わらないんですよね、僕。むしろときどき、世界から忘れられたい、誰も知らないところで一人で住みたいなって思うことの方が多くなりましたけどね(苦笑)。

 ――でも音楽を長く続けたいというお気持ちはありますよね。

 音楽にとどまらず、何かしらの表現ですよね。自分のオリジナリティーはやっぱり歌詞(言葉)にあると思うので。歌詞って、より誰にも影響されていないというか、そういう感じがあるんですよね。

 <プロフィル>

 おぶくろ・なりあき 1991年4月30日生まれ、埼玉県出身。R&Bユニット「N.O.R.K.」のボーカルとして活動し、自身で設立した音楽レーベルTokyo Recordingsでは柴咲コウさんや水曜日のカンパネラなどの楽曲をプロデュース。2016年に宇多田ヒカルさんのアルバム「Fantome」収録の「ともだち with 小袋成彬」にゲストボーカルで参加。18年4月25日に宇多田さんプロデュースによるアルバム「分離派の夏」でデビューした。小袋さんが初めてハマッたポップカルチャーはギター。「2000年前後、小学校2~4年生ごろに子供用のギターを買ってもらったんです。ただコードを押さえて弾けばその人のように歌えるっていうのがうれしくてハマりましたね。ゲッカヨ(雑誌『月刊歌謡曲』)に簡単なコードが載っているページがあって、スピッツとかYUIさんの『CHE.R.RY』とかを弾いて結構のめり込んだ覚えがあります」と話した。

 (インタビュー・文・撮影:水白京)

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