「ファイプロ」の愛称で親しまれている人気プロレスゲーム「ファイヤープロレスリング」シリーズの最新作「ファイヤープロレスリング ワールド」(PS4、スパイク・チュンソフト)が発売された。ゲームファンからは名作シリーズの一つにも数えられているが、タイトルの復活は、いばらの道だった。復活の舞台裏を追った。
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「ファイプロ」シリーズは、1989年から発売されているプロレスゲーム。最大の特徴は、レスラー(キャラクター)同士が組み、ひざが曲がるタイミングに合わせてボタンを押し、勝ったほうが技を掛けることだ。地味にも見えるこの特徴が当時のゲームファンから支持されていた。最新作「ワールド」を手掛けたディレクターの松本朋幸さんは、その理由を「当時のゲームはボタンの連打で勝負し、勝ち負けにこだわるのが普通でした。ファイプロは、そこにタイミングを持ってきたのが違いました。スーパーファミコンの時代には、既にプロレスゲームとして完成していました」と説明する。
松本さんはファイプロの魅力について「ゲーム中でプロレスラーを演じることができるんです。プロレスなので勝敗が全てでないから、試合の序盤からいきなり大技を出さないようにするのがセオリーになっていて、相手の仕掛けた技や試合運びが素晴らしいと評価したりしていました。相手の選んだ選手にどんな選手をぶつけるか、技を出す順番などで相手の考えなどが見えるゲームで、そこも楽しさの一つでした」と明かす。
毎年のように新作を出していたファイプロもPS2版「ファイプロ・リターンズ」(2005年)を最後に眠りの時代に入る。松本さんは「プロレス人気が低迷して、それに比例してゲームも売れなくなったんです。プロレスがあってこそのプロレスゲームだった」と長年発売されなかった理由を話す。松本さんは、その後もシリーズを復活させようと動いたが「ファイプロがビジネスにならないと判断されていた」という。流れが変わったのは最近4、5年で、プロレス人気が復活したことが後押しした。
ゲームプラットフォーム「スチーム」の存在も大きい。ワールドは17年にスチーム版が出て、今年の8月にPS4版発売という流れだが、これはリスクヘッジのためだ。松本さんは「いきなりPS4を作ると(コストがかかりすぎて)ハードルが高くなる。まずはダウンロードで世界に向けて売れるスチームを選択しました」と話す。ダウンロード販売数は、日本ではわずか5000本だったが、欧米で人気のある同シリーズは世界で5万本を売った。松本さんは「日本のメーカーがゲームを売るとき、家庭用ゲーム機用ソフトよりスチームで先に売ったのは、初のケースかなと。スチームで数字を作り、ゲーム内容を固めてPS4へ出す流れでした。だからスチームがなければ、PS4版はなかったと思います」と言い切る。
「ファイプロが大好き」という松本さんとファイプロの出会いは学生時代。元々ゲームもプロレスも好きで、ファミコンのさまざまなプロレスゲームを好んで遊んでいたところ、PCエンジンで発売されたシリーズ初代の「ファイヤープロレスリング コンビネーションタッグ」を遊んだ。松本さんは一気にファイプロのとりこになり、ファイプロが出る度にゲーム機ごとまとめ買いしていた。
人気職種のゲームクリエーターになるのも、“シンデレラストーリー”だった。大学を中退して働きながら友達とファイプロを遊んでいた時、リーグ戦やトーナメント戦のモードがないのを見て、「自分でファイプロを作ろう」と思い立った。そして就職系の雑誌を見て、業界未経験で応募できる唯一のゲーム会社に履歴書を送り、ゲーム業界の知識がないにもかかわらず、多くの応募者を退けて内定を勝ち取った。
入社後はプリントシール機のフレームを作っていたが、同じ職場に偶然ファイプロの開発者がいて、プロレスで意気投合。そしてファイプロを制作するチーム「S-NEO(エスネオ)」を紹介してもらい、ゲームを作る決意から1年でファイプロを作る立場になった。松本さんはファイプロ以外にも、独創的なコンセプトで評価される「喧嘩番長」シリーズも手掛けた。「喧嘩番長で目からビームが出る『メンチビーム』は僕が考えました。喧嘩番長もファイプロをベースに作っているし、キャラクターの動きのロジックもそうですよ」と明かす。
実はワールドを出す前の14年ごろに、新日本プロレスからプロレスゲーム制作の打診があった。そのタイミングでは実現せず、ワールドの発売まで待つことになるが、松本さんは、その時に観客動員数などのデータを見たこともあり、プロレス人気の復活を確信していた。
ワールドでは、プロレス以外の新しい楽しみも人気となった。スチーム版には、キャラクターを自由に作成してアップロードできる機能がある。ユーザーには、レスラーだけでなく、「こち亀」の両津勘吉やキン肉マン、どーもくんといったキャラクター、果ては「ガンダム」シリーズのザクレロを作るつわものもいた。松本さんは「限られた素材、方法でいろいろなものを作るんですよ。クラフト(工作)ゲームの要素もありますよね」と笑った。
「ワールドでやり残したことは?」と聞くと「メチャクチャあります。キャラクターの設定を左右非対称にすること、試合の入場、衣装のバリエーション、女子キャラクターのパーツを倍増させたいし、顔の種類も……。試合のルールもかなあ。いくらでもありますね」と笑いながら「いずれもコストがかかることなので。スチーム版で作ったキャラクターをPS4でも反映させられることを考えたのですが、まだ検証しきれていない。将来的にはやりたいですね」と話している。
「ファイプロがスマホゲームになる可能性があるか」と尋ねると「絶対にないとは言いませんが、あるとも言えない。ただスマホゲームだと、技を出すときにワンボタンの操作になるので、面白いかな?となってしまう。(開発ツールは)ユニティーなので、スマホへの移植はできますが……」と苦笑い。「まあキャラクターのエディットをスマホでやって、PS4やスチームでキャラを反映させるのであれば面白いかもしれません」と話した。
そして「せっかくファイプロが立ち上がったので、これで終わらせる気はありません。PS4版は(発売後も)開発を続けますし、面白いことがあれば。今はアップデートもありますから」と意気込んでいる。
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