黒木華:樹木希林さんの演技を目の当たりに「涙が勝手に出てきた」

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 女優の黒木華さん主演の映画「日日是好日」(大森立嗣監督)が公開中だ。“お茶”を通して一人の女性の人生が豊かに彩られていくさまを描いたヒューマン作。9月に亡くなった共演の樹木希林さんとの思い出や、印象深いシーンについて黒木さんに聞いた。

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 ◇変化したお茶に対するイメージ

 映画は、エッセイスト森下典子さんの自伝エッセイ「日日是好日 『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」(新潮文庫)を原作に、映画「まほろ駅前」シリーズ(2011、14年)や「さよなら渓谷」(13年)などで知られる大森監督が自ら脚本を書き、メガホンをとった。黒木さんが主人公の典子を演じ、典子のお茶の師匠となる武田先生を樹木さんが、典子と共にお茶を習い始める同い年のいとこ、美智子を多部未華子さんが演じている。

 黒木さんは、典子を演じるにあたり、約1カ月間、茶道の稽古(けいこ)を積んだ。それまでお茶には、「マダムたちが集まってする高尚なもの」というイメージがあり、茶室で最も重要とされる掛け軸の見方や、奥深い茶わんの世界は「分からない」と思っていたそうだが、実際にお茶に触れ、「掛け軸を絵のように眺める。その上で、描いた人のことを教わると、難しく構えていたけれど、もっと簡単なところから入ってよかったんだなということに気づきました。このまま続けていくと、また違った世界が見えるのだろうなと、ちょっと門を開けたぐらいの経験をさせていただきました」と話す。

 ◇原作者を演じる

 典子は、原作者の森下さん自身を反映している。原作者がそばにいることは「本当に心強かった」という半面、当初は恥ずかしさとともに「ご本人と違っていたらどうしよう」と不安を覚えたという。しかし、「私は私なりに想像する典子さんを演じようと思いましたし、典子さんがお茶に出合って、お茶に対する態度や、お茶との関わり方がやっぱり(映画の)肝だと思っていたので、そのあたりはすごく大事にやらせてもらいました」と役作りを振り返る。

 黒木さんは今回、20歳から45歳までを演じる。現在、28歳の黒木さん。自身がまだ経験していない年齢を演じることは「結構難しかったです」と明かす。「若い頃は、自分の経験値で想像できますが、年を重ね、いろいろな経験をした女性のたたずまいというのは、やっぱりなかなか出せないと思いました。それに、(典子が)お茶を続けてきた25年間分の重さというものを、どうしたら表現できるのだろうと思いましたが、そこは、大森監督やメークさんと相談しながらやっていきました」と明かす。

 年を重ねた典子を演じる際、気をつけたのは、実際の森下さんが、「お茶をたてていらっしゃるとき、まとうものが、柔らかくしなやかでありながら、しっかり立っている感じがあるんです。それは、お茶を長年続けて来られた方の空気感だと思うのですが、そういう雰囲気をなるべく出せたらいいな、ただ立っている、すっと座る、だけではない丸みというものを、まねできればいいな、と思っていました」と語る。

 楽しかったシーンは?と尋ねると「全部です」と笑う。「大好きなお茶菓子をいろいろ食べられましたし、(美智子との)カラオケのシーンは、自分のテンションも上がっていたので楽しかったです。お茶会のおばさま方のシーンもすごく楽しかったです。(実際のお茶会でも)本当に走るらしくて、着物を着て、髪を夜会巻きにされたおばさま方が、あんなに密集して走る姿を私は初めて見たので面白かったです。(お茶会に)行ってみたくなりました」と笑顔で振り返る。

 ◇着物の面白さに気付けた

 今作では、着物を着る場面もある黒木さん。普段の生活では、浴衣はよく着るのに対して着物は「仕事で着る機会が多い分、あまり着ない」といい、自身、着物の着方には「勉強不足」を感じていたそうだ。今回の撮影を通して、「お茶をする人の着物は、割と無地が多かったり、その中で、襟で遊ぶ人がいたりするのですが、そういうことがここ1、2年で面白いなと思えるようになりました」と話す。

 そういった面白さに加え、「ルールはあるけど、ルールの中で遊べるというのは、ルールを知らないとできないことだ」と気付かせてくれたのが、共演した樹木さんだという。樹木さんが亡くなる前の8月にインタビューしたが、黒木さんは「樹木さんは、とても品がありつつ、ちょっととがった着方をされていて、それがすごくカッコいいんです。憧れます」と樹木さんの着物の着こなしについて語る。樹木さんとは初共演。それまでは樹木さんに対して「遊び心のある、博識の方」というイメージを抱いていたそうだが、実際に会ってみると、「イメージ通り」に加え、「(撮影現場に)ご自身で(車を)運転されてきたりなさって、すごくカッコいいんです」と生前の樹木さんの魅力を伝える。

 ◇「カッコいい女優」樹木さんと過ごした有意義な時間

 また、役者としても、「武田先生が年を重ねていくごとに、どんどん小さく見えていくんです。私はたぶん、まだ演じようとしてしまうんですけど、(樹木さんは)自然とそうなっているように見えるし、せりふをせりふっぽくなく、本当に武田先生がおっしゃっている言葉として出せる。でも、遊び心は忘れず、というところが、本当にカッコいい女優さんだと思います。ご本人は、『私は女優じゃない』とおっしゃっていて、そこがまたすごくカッコいいなと思いました」と大先輩と過ごした有意義な時間を振り返る。

 とりわけ、縁側で典子と武田先生が並んで座る場面では、「隣にいるだけで、語らずとも伝わってくるものがありました。樹木さんが手を(黒木さんの手の上に)ポンと置くんですけど、それだけで私はわーっと涙が勝手に出てきちゃって、そういう言葉にできない何かがあって、それは、(樹木さんが)今まで経験されてきたことの味というか、にじみ出るものがすごくあって、どうしたら私もこうなれるのだろうと思いました」としみじみ語る。

 ちなみに、樹木さんからアドバイスされたことを聞いたところ、「私、ちゃんとしてる人には言わないの」と言われたそうで、黒木さんは「ちゃんとしていないんだけどなと思いながら、褒め言葉として受け取っているんですけど(笑い)。ありがたいです」と感謝していた。

 (インタビュー・撮影:りんたいこ)

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