30日で終わりを迎える平成という時代は、任天堂の家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」の絶頂期と共に始まり、ゲーム業界の成長の歴史と重なります。そこで平成のゲーム業界を、20年以上専門記者として現場で見てきたおじさんゲーマーが、今回故郷に帰るのをきっかけに印象に残った“思い出”をちょっと振り返ってみました。第2回は、ソニーのゲーム事業を手掛けるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が考えた“おきて破り”の戦略です。
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ソニーと任天堂の関係を一言で言えば、ゲーム業界に詳しい人なら“宿敵”などのワードを浮かべると思います。業界の王座を25年も争っているから当然ですね。しかし、両社を20年以上見ているおじさんには、両社はベンチャー的な気質で「似ている」と思えます。両社とも世界的な有名企業ですが、多くの失敗をやらかしていて(笑い)、その中でビッグな成功をつかんでいます。今回はソニーの話をします。
ソニーを取材した昔、同グループ内で事業が重なる部分があって、不思議に思って質問をしてみたのです。答えは「獅子は我が子を千尋(せんじん)の谷に落とす」でした。グループ内で事業が重なっても問題視せず、谷からはい上がって成長した子供を選ぶ……ということになります。ゲーム事業への参入にあたってもそうした競争に勝ってきた自負と誇りがあるわけですね。
ソニーグループのアニメ会社アニプレックスが、「FGO」をはじめとしたスマホゲームで成功していますが、「なぜSIEや、スマホゲーム事業のフォワードワークスがあるのに、アニメ会社がゲーム事業をするの?」という謎も、「それはソニーのDNAで、ベンチャー気質があるから」と考えると納得がいきます。
そして、そのソニーにベンチャー的な恐ろしさを感じた瞬間がありました。ソニーの関係者を取材中に、会話が脱線して「京都(任天堂)にマリオを出してもらえば……」という冗談を言いました。ところが、相手は何事もないかのように、「そうですね」とそれを肯定したのです。
ソニーと任天堂の関係は複雑です。ソニーはかつて、任天堂と一緒にゲーム機を共同開発して決裂した経緯があります。ゲーム業界のいろいろな人々から、両社の“意地の張り合い”があって、振り回されたというエピソードも何度か聞きました。それも事実なのでしょうが、一方で考えられない“おきて破り”を思いつき、かつ実行しようとしていたわけです。
現在、任天堂がソニーのゲーム機にソフトを供給してないため、この話は物別れに終わったのは明白ですが、失敗という結果は関係ないでしょう。頼みにいくことは「頭を下げる」わけですが、そのプライドすら気にしないわけです。とんでもない“思考の飛躍”と行動力がある限り、ソニーのゲーム事業は「盤石」と思わされました。
現在、ソニーの決算は絶好調です。ただし、その好調を支えているゲーム事業の未来は、決して安泰というわけではないと思います。携帯ゲーム機の「PSVita」も生産が終了します。PS4も売れ行きのピークが来ました。そしていわゆる「PS5」、次世代ゲーム機の勝負では、任天堂をはじめとした他社のゲーム機だけが相手ではなく、“最強のラスボス”としてアマゾンやアップル、グーグルのサービスが存在していることも、みなさんが察している通りでしょう。
それでも、“おきて破り”の手段を考えられる限りは、“最強のラスボス”と互角以上の勝負ができる……と、おじさんゲーマーは思っています。スマホでマリオが遊べる時代が来ました。将来に、任天堂がソニーのゲーム機にソフトを出すことは(もちろんその逆も)、「絶対ない」とは言い切れないと思っているのです。
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