バースデー・ワンダーランド:「生ぬるい映画が大嫌い」な原恵一監督の新作 「想像力を刺激する作品になった」と自信

劇場版アニメ「バースデー・ワンダーランド」を手がけた原恵一監督
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劇場版アニメ「バースデー・ワンダーランド」を手がけた原恵一監督

 アニメ「クレヨンしんちゃん」シリーズや「河童のクゥと夏休み」(2007年)などで知られる原恵一監督の新作劇場版アニメ「バースデー・ワンダーランド」が4月26日に公開された。今年還暦を迎える原監督は、「毒にも薬にもならない、生ぬるい映画が大嫌いだ」と語り、作品作りに対して強い信念を持っている。そんな原監督に、今作の製作秘話や日本のアニメについて、今後について聞いた。

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 ◇ファンタジーにあまり興味がない

 今回は原監督初の大型ファンタジー作品となる。だが、原監督は「個人的には、ファンタジーというものにあまり興味が持てないんですよ」と語る。ではなぜ今回、このタイミングでファンタジー作品を手掛けたのか。

 「なるべく多くの人に楽しんでもらえるエンターテインメント作品を作りましょうというところでこういう映画が出来上がりました。ファンタジーというと登場人物にリアリティーのない作品が多いような気がしているんですね。現場で一番大事にしているのは、キャラクターが生き生きと劇中で立っている、そういう作品作りを目指しているので、(ファンタジーの)不思議な世界観や不思議な能力などにあまり頼りたくないという気持ちが強いんです」という。

 アカネが迷い込んだ世界は、見たことのない景色だが、移動手段が車だったり、人間がレストランで食事をしたりとリアルな要素も含まれている。原監督は「ファンタジーにあまり興味のない自分がやるからこそ新鮮なファンタジーにしたかったんです。それで、世界観だったり、登場する動物たちだったり、人々の暮らしとか、いままでこんな世界は見たことないと思ってもらえるような新鮮な作品にしたかったんです」と力を込める。

 ◇ロシアのイラストレーターと偶然の出会い

 鮮やかな色彩も斬新なファンタジーに見える大きな要因の一つだ。キャラクターやビジュアルのデザインを担当したイリヤ・クブシノブさんとの出会いは偶然のタイミングだった。「キャラクターデザインをどうしようかというときに、たまたま書店に入ってイラストのコーナーに行き、そこで見つけたイリヤの画集を見て、ピンときたんです。それでスタッフに直接連絡をしてもらって、とにかく『一度会って話をしたい』と。本人も興味を示してくれてとんとん拍子で参加してもらえるようになりました」と明かす。

 当初はキャラクターデザインだけのつもりだったが、建物やメカ、小道具などすべてをクブシノブさん一人で担当してもらった。「話が合いましたし、彼も理解力がすごくあったので、僕が言ったことをさらに面白くして返してくれるというところがすごくよかった。ロシアというあまり日本人になじみのない国で育った彼の特性をなるべく引き出したいなと思っていました。一人で全部できるというイリヤの強みを最大限引き出したつもりです」と語る。

 完成した作品を見て、「イリヤが優れている部分は、すべてのものに理由を、そこにある必然性を持たせているんです。そこは僕の想像を超えていましたね。一回見ただけではなかなか気づいてもらえないですけれど、必然性のある場面が随所にあった」と感心する。そして「あえてイリヤというヨーロッパの東、ロシアの人間の持っている引き出しを開けた。日本のアニメはどうしても西ヨーロッパっぽい傾向があるけれど、あえて東的というのを目指しました。スラブっぽい景色とか人々の服装とか。場所によってみんな違う衣装をイリヤが考えてくれた」と独特の世界観を構築できたことを喜ぶ。

 ◇松岡茉優は「気持ちのいい子」

 声優はオーディションで決めていった。主人公アカネの声を担当した松岡さんについても知名度はあるが、オーディションで選んだという。「もちろんこれだけ売れている女優なので、一人だけ呼んでオーディションしたというのはあったんですけれど。本人も『合わなかったらはっきり言ってください』と言ってくれていたので、とても気持ちのいい子だなと思いました」と頬を緩める。

 「クレヨンしんちゃん」の父ひろしの初代声優を務めた藤原啓治さんとしんちゃんの初代声優の矢島晶子さんのコンビや東山奈央さんというキャリアのある声優も起用している。そこは「役者さんとか声優さんとか区別なく、イメージに合う人を起用したらこうなったということなんです」とキャラクターに最適な声を探した結果だという。

 また、音楽は「僕は絵コンテを書きながら音楽が入る部分を全部決めているんです。作曲はできないですけれど、ここはこういう感じの音楽と必ず書き込むようにしていて、転調のタイミングとかも書いていたり、インとアウトも全部指示しているんです」といい、劇中の音楽は「僕がここのところお願いしている富貴晴美(ふうき・はるみ)という才能にあふれた作曲家のすべての作品を調べて、彼女の音楽にほれ込み、迷いなく『またお願いしたい』と打診しました。富貴さんも、今回はとってもファンタジー・エンターテインメントをよく理解した音楽作りをしてくれたので、彼女の新境地が開かれたのではないかと思います」と太鼓判を押す。

 ◇見た人の気持ちが変わるような作品作りを意識

 今作の初号試写の際、原監督は「毒にも薬にもならない、生ぬるい映画が大嫌いだ」と宣言した。その真意を問うと「ただ面白いとか、ただ泣けるという映画を作ることにあまり興味がない。たかが映画だけど、見る前と見た後で、見た人の気持ちが少し変わるような作品作りを意識しているつもりです」と熱く語る。

 今作は大人も子供も楽しめる作品だが、特に子供には「親切すぎる作品が最近多いけれど、今作は説明的な描写を、かなり気持ちいいくらいそぎ落とせたと思っているんです。だから、想像力を刺激する作品になったと思います」を自信を見せる。

 日本のアニメが注目されている昨今だが「正直、僕はあまり興味はないですね(笑い)。自分も若くないし、自分の作品を作るのに精いっぱいですから。ただ今、あまり状況はよくないと感じます。作品数がありえないくらい増えすぎていて、腕のあるスタッフと組みたいんだけど、これだけの作品が作られていると、そういう人を確保するのがものすごく大変だと今回痛感しました」と述懐する。

 新作が公開されたばかりだが、次回作については「もう動いています。まだ情報は言えないですけれど。若くはないのであまり長い時間を空けないで作り続けていけたらいいなと思っています」と前向きに語る。そして「バースデー・ワンダーランド」の公開にあたって、「今は楽しんでもらえることに関して、とても自信がある状態。早く見てもらいたいですね」と力強く語った。

 ◇声優陣も豪華な顔ぶれ

 「バースデー・ワンダーランド」は、柏葉幸子さんの児童文学「地下室からのふしぎな旅」(講談社青い鳥文庫)が原作。ロシア出身の若手イラストレーターのクブシノブさんがキャラクター、ビジュアルアーティストとして参加している。誕生日の前日、自分に自信がないアカネの目の前に、謎めいた大錬金術師のヒポクラテスと弟子のピポが現れ、「私たちの世界を救ってほしい」と頼まれる。アカネはその場に居合わせた叔母のチィと共に“幸せな色に満ちたワンダーランド”に無理やり連れて行かれ、大冒険を繰り広げる……というストーリー。

 アカネ役は女優の松岡茉優さん、骨董屋を営む自由奔放な性格の叔母チィ役を杏さん、アカネの母ミドリ役を麻生久美子さん、ヒポクラテス役を俳優の市村正親さんが声を担当した。また、ヒポクラテスの弟子の小人のピポを東山さん、ワンダーランドから色を奪うザン・グ役を藤原さん、ザン・グの相棒ドロボ役を矢島さんが声優を務めている。

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