劇作家の倉持裕さんが、江戸川乱歩の美意識やユーモラスでミステリアスな登場人物たちをモチーフに描く新作現代劇「お勢、断行」で、主人公の悪女・お勢を演じる倉科カナさんが、ビジュアル撮影が行われた東京都内のスタジオで取材に応じた。倉科さんにとって初のタイトルロールを務める舞台。来年2月の上演に向け、「私、芸歴14年になるんですけど、走り続けてきてしまった気がしていて、一回、足を止めたいと思ったんですね。これまでは正攻法で、『うまくやらなくてはいけない』という気持ちがすごくあったんですけど、今回はとても信頼できる演出家さんと、本当に底力のあるキャストもそろっているので、形を求めようとしないで、たとえ失敗をしても新しいことを、うそがなく生まれくるものを大切にしていけたらと思っています」と意気込む。倉科さんに話を聞いた。
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倉科さんが演じるお勢は、江戸川乱歩の短編小説「お勢登場」の登場人物。同作を含む8本の短編を、1本の演劇作品として再構成した2017年の舞台「お勢登場」では、お勢役を黒木華さんが演じた。
その公演を「偶然にも拝見していた」という倉科さんは、「お勢という軸がありながら、彼女が他の作品に登場したらどうなるのかっていうのが、すごくたくみにつむがれていました。最後に『何をやってみたところで退屈よ、このまま一生、退屈なんだわ』ってフレーズがあって。女性として何かいつも満ち足りていない感じが、その一言に表れていて。お勢ってなかなかの悪女なんですけど、あのアンニュイなせりふがすごく好きで、ひかれてしまうものがありました」と振り返る。
また小さなころから、「プリンセスが苦手で悪役の方がすごく好きだった」と話す倉科さんは、「どこかねじ曲がっていただけなのかもしれないんですけど(笑い)、プリンセスの全部が全部、清純なわけないじゃないですか。イラッとすること、妬むこともきっとあるだろうけど、『私は心までキレイなの』っていう感じが逆に怖くて……。悪がいないと物語が成立しないってことも多いですし、『私たちは悪よ、どこが悪いの』という割り切り方が気持ちいい」と持論を展開する。
その上で、「このお仕事についてからも、清らかな役は実は得意ではなくて、どちらかというと、人の毒気やえぐみにひかれてしまう自分がいた。私の作品選びにおいても毒気とえぐみが今までも大切にしてきた部分ではありますし、悪女という形から入るのではなく、みんなでセッションしてみて、出てくるもので役を作っていけたらなって思っています」と力を込める。
「お勢、断行」への出演が発表された際、「こんなプレッシャーは朝ドラの合格発表を聞いたとき以来です」と明かしていた倉科さん。2009年度前期のNHK連続テレビ小説「ウェルかめ」でヒロインを務めた倉科さんは、同作で女優として大きな一歩を踏み出した。
改めて振り返ってもらうと、「初めて自分を信じることができた作品でした。10代のころにデビューして、でもそこからお芝居の方に行きたいんだけど、なかなか行けないという葛藤もあり。『私なんか、私なんか』と自分を責めてしまう時期があったんですね。だけど『ウェルかめ』のときは、ヒロインの波美ちゃんを絶対に私がやるって自分の中で言い聞かせて。他人から見たら小さなことかもしれないんですけど、自己肯定することで強くなれたんです」としみじみと語る。
あれから10年、「走り続けてきた」倉科さんの原動力とは? 「私もそれをすごく考えるんですけど、結局はみんなが喜んでいる顔が見たいんだなって。私にできるのはお芝居しかないから、私のお芝居を通して、少しでも心が豊になっていただけたらいいですし、誰かが喜んでくれている顔を見るのがすごく好きなんです」と笑顔で語る。
その一方で、走り続けてきたことで、「ちょっと絡まっちゃったかもしれないですね」と倉科さんは笑う。「20代は本当に楽しかったですし、一度いい方向に転ぶと、すごくキレイに転がっていくんですけど、30代という新しいステージに入ってくると、転がっていくだけではうまくいかないこともあったりして。自分の力だけではままならないということも20代で学んできたからこそ、これからどうするのか、しっかりと考えていかなくてはいけないのが30代。勢いで来た20代、だからこそ、いろいろなものが絡まってもいて、それこそ『私の原動力って何なのだろう?』『お芝居をするのはなぜなんだろう?』と、一つ一つ絡まった糸をほどく作業をしていかなくてはいけないのかな、と思っています」と話していた。
原案:江戸川乱歩▽作・演出:倉持裕▽音楽:斎藤ネコ▽出演:倉科カナ/上白石萌歌/江口のりこ/柳下大/池谷のぶえ/粕谷吉洋/千葉雅子/大空ゆうひ/正名僕蔵/梶原善
上演日程:2020年2月28日~3月11日▽会場:世田谷パブリックシアター▽チケット一般発売:12月15日から