映画「十二人の死にたい子どもたち」で脚本を手掛けた劇作家・倉持裕さんの新作舞台「お勢、断行」に資産家の娘役で出演する上白石萌歌さんが、ビジュアル撮影が行われた東京都内のスタジオで取材に応じた。公演初日(2020年2月28日)に20歳の誕生日を迎える上白石さんは、「すごく運命的なものを感じています」と明かす。さらに「何か振り切れるだけ振り切りたいなと思っています。一つの役だけど、何役も演じるような覚悟で、今まで見せたことのないような顔、悪い顔を見せていけたらなって思っています」と意気込む上白石さんに話を聞いた。
あなたにオススメ
“あの頃”のジャンプ:実写ドラマ化も話題「ウイングマン」 1983年を振り返る
舞台は、江戸川乱歩の美意識やユーモラスでミステリアスな登場人物たちをモチーフに描く新作現代劇。倉持さんが作・演出を担った2017年の舞台「お勢登場」で黒木華さんが務めた悪女・お勢を、「また別の場所に送り込み、活躍させたい」という狙いから生まれた。新たに生まれ変わったお勢を倉科カナさんが演じ、江口のりこさん、大空ゆうひさん、正名僕蔵さん、梶原善さんらも出演する。
上白石さんは「元々倉持さんの作品が好きで、昨年、姉(萌音さん)が出演していた『火星の二人』は2回、見させていただきました。何度も味わいたくなるような世界観や言葉遊びがすごく好きで。振り切ったコメディーはもちろん、神妙なものも、倉持さんの魔法にかかると、ヘビーなだけじゃない世界になるのが面白くて。今回も題材はすごくシリアスにはなっているんですけど、また新しい化学反応が起きるんじゃないかって期待しています」と話す。
上白石さんいわく、「お勢、断行」の根底にあるのは「正義って何だろうという大きな問い」だという。
「すごく正しいと思っていた人が実はそうじゃなかったり、悪が善に変わったり、立場の逆転みたいなものが面白い作品になるだろうなって思っていて……。私が演じる娘は、最初、どちらかというと善の立場でいたのが、復讐(ふくしゅう)のため他者と手を組むことでまた違う色に染まっていく。その移ろいが印象的で、それってたぶん、少女から大人へと、脱皮して進んでいくという感じなので。公演の初日に20歳になる私の移ろいの中にこの役があることがすごくうれしいですし、まだ悪に手を染める役をやったことがないので、そこも楽しみです」と笑顔を見せる。
役を演じるにあたって「いただいた情報以上のこと、食べ物は何が好き、犬派なのか猫派なのか、どういう人を好きになるかとか、妄想を含めて深掘りをしてく作業は毎回、楽しい」と明かす上白石さん。NHKの大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」では、1936年のベルリンオリンピック、女子200メートル平泳ぎで金メダルを獲得した前畑秀子を演じるにあたり、体重を7キロも増やしたことも話題になったが……。
上白石さんは「今までそういうふうに役を作ることがなかったので、新しい扉が開いたというか。最初は見た目から近づけていこうという意思のもとでやっていたんですけど、結果的にすごく精神的につながることができた気がして。新しい挑戦ではあったんですけど、とてもいい視点を役からいただけた」と感謝する。
さらに「まさか自分がオリンピック選手を演じることができるとは思っていなかったし、普段生きていて、割と感情やテンションの揺れがないと思っているんですけど、そんな自分でも胸の奥に怒りという感情が生まれたりして。役を通じて新しい自分を発見できるのは楽しいですし、それに出会う瞬間は身震いするというか、すごく面白いなって。これからも役を“演じる”ではなくて“生きる”にはどうしたらいいんだろうって考えて、いろいろな面からアプローチして、もっと深く役と通じ合えたらなって思っています」と力を込める。
「いだてん」の前にはSNS上を大いににぎわせた連続ドラマ「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(日本テレビ系)への出演もあった。さらに今年は4月からバラエティー番組「A-Studio」(TBS系)の11代目サブMCを担当。9月からは「adieu」名義での音楽活動を本格的にスタートさせた。
残り3カ月を切った2019年を「すごく吸収することが多くて、あっという間に過ぎていった感じがしています」と振り返る上白石さんは、「作品によって毎回、違うアプローチをして、ジャンルも今までと違ったものに触れることができて、20歳に向けての準備、蓄えをたくさんさせてもらったなって思っています。いい助走の年になりました」と充実の表情を見せる。
来年の20歳の誕生日、さらにその先に向けては「今、エンターテインメントのジャンルの境目がなくなってきている気がしていて。俳優さんが声優のお仕事をやったり、歌手の方がお芝居をしたり、ボーダーレスになってきた中で、私も歌を歌ったり、舞台に立ったりと、一つのジャンルに凝り固まらずに、どんな場所でも柔軟に楽しめるような俳優になりたいです」と秘めたる思いを語っていた。
原案:江戸川乱歩
作・演出:倉持裕
音楽:斎藤ネコ
出演:倉科カナ/上白石萌歌/江口のりこ/柳下大/池谷のぶえ/粕谷吉洋/千葉雅子/大空ゆうひ/正名僕蔵/梶原善
日程:2020年2月28日~3月11日
会場:世田谷パブリックシアター
チケット一般発売:12月15日から