小野憲史のゲーム時評:エピックVSアップル訴訟 どこかで見た光景

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、世間をにぎわせている「フォートナイト」のエピックゲームズとアップルとの訴訟について語ります。

ウナギノボリ

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 人気オンラインゲーム「フォートナイト」を開発する米エピックゲームズと、米アップル、米グーグルとの対立が激化している。鍵を握るのが、スマートフォン向けアプリストア「アップストア」「グーグル・プレイ」で販売手数料として徴収される「30%」の是非だ。

 エピックはこの手数料が高額だとして、8月13日に自社の課金システム「エピック・ディレクト・ペイメント」経由で課金アイテムの販売を開始。これに対してアップルは翌日、アップストアから規約違反を理由にゲームを削除した。同様の事態はグーグル・プレイでも発生し、エピックは独禁法違反を理由に両社の提訴に踏み切った。

 これに伴い、アップル製品のユーザーがフォートナイトを新規入手できない状況が続いている。一方でアンドロイドユーザーはエピック公式サイトから引き続き入手が可能だ。もっとも、グーグル・プレイから入手できないことで、セキュリティー面での不安が高まるなど、ユーザーの利便性が損なわれる事態となっている。

 さらに、本訴訟は思わぬ形で業界全体に飛び火した。アップルがエピックの全開発者アカウントを削除すると警告したからだ。これが実行されると、エピックが提供するゲームエンジン「アンリアル・エンジン」を用いたアップル製品向けアプリ開発などが不可能になる。

 アンリアル・エンジンはPCや家庭用ゲーム機向けハイエンド向けゲームの開発に多く使われており、スマートフォン向けのゲーム開発での使用例は限定的だが、業界に与えるインパクトは大きい。本件に関して米フェイスブックと米マイクロソフトがエピックに同調するなど、波紋が広がっている。

 訴訟の見通しは不明瞭だ。現地時間の8月24日にアップル対エピックの審問が行われ、エピック側のアップストアにおける頒布再開の要求は却下された。一方で裁判官は開発者アカウントの削除を禁じる命令を出し、痛み分けとなった。もっとも、裁判の経過に伴い、裁判所が異なる判断を下す可能性もあり得る。

 ただし、ポイントはプラットフォーマーとコンテンツホルダーの利益配分に関する綱引きであり、問題の本質はシンプルだ。そして、過去にもこうした問題は繰り返されてきた。ゲーム機の栄枯盛衰に代表されるように、プラットフォームの成長には一定のパターンがみられるからだ。

 初期段階のプラットフォームをけん引するのは、プラットフォーマー自身だ。身銭を切って、自社コンテンツやサービスの拡充を行うことが成長の鍵を握る。やがてユーザー数が一定規模を超えると、コンテンツホルダーの本格参入が始まる。コンテンツの増加がユーザー数の拡大につながり、相乗効果でコンテンツホルダーとの蜜月時代が続いていく。

 やがてユーザー数の増加が鈍化すると、コンテンツホルダー間で勝ち組と負け組の二極化が始まる。コンテンツホルダー間で契約条件などを巡り、不満が高まるのもこの時期だ。その後、新しいプラットフォームが登場し、急成長を始めると、コンテンツホルダーの移籍が始まる。プラットフォームは縮小に転じ、やがて終了していく。

 こうしたプラットフォームの栄枯盛衰の背景にあるのが急速な技術革新だ。スーパーファミコンとプレイステーション、フィーチャーフォンとスマートフォンなど、これまで多くの変遷が続いてきた。多くのユーザー数を抱える利便性を、技術革新による恩恵が上回ることで、プラットフォームが次々に切り替わっていくのだ。

 この際、技術革新の恩恵をプラットフォーマー側が取り入れ、事業を拡大する例もある。書籍販売からクラウド事業に拡大した米アマゾンは好例だ。一方でエピックが2018年に開始したPCゲーム向けデジタル流通プラットフォーム「エピックゲームストア」のように、コンテンツホルダーがプラットフォーマーに進出する例もある。

 このように技術革新に伴う業種・業態の変化は全領域で進行中だ。まったく新しいプラットフォームが登場した時、新旧の世代交替はおのずと行われる。そして技術革新に伴い、そうした現象は遅かれ早かれ、必ず発生する。これに対して、今回の係争は事業者間の利益分配の話にとどまる。ユーザー無視と言われても仕方がないだろう。

 直近でいえば5G(第5世代移動通信システム)の普及はその一つで、破壊的な技術になり得る。鍵を握るのが異次元のコンテンツや、異次元のプラットフォームの登場だ。振り返ってみて、今回の係争が昔話とみなされるように、自社のプラットフォームやコンテンツを、自ら破壊し、創造していくような取り組みを期待したい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。2008年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。2011~2016年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。

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