ダンダダン
第7話「優しい世界へ」
11月14日(木)放送分
「テニスの王子様(テニプリ)」シリーズの人気キャラクター・跡部景吾が登場するウェブCMが話題を集めている。「テニプリ」といえば、近年大きく取り上げられることは少なかったが、今回のCM起用への反響は大きく、ファンが離れているわけではないことを示した。たとえ“最推し”が変わっても、変わらないファンの思いについて、アニメコラムニストの小新井涼さんが独自の視点で分析する。
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今月初め、「テニスの王子様(テニプリ)」シリーズのキャラクター・跡部景吾氏が出演する森永乳業のウェブCM「Miloha『オレ様に、甘えちゃいな。(新テニスの王子様 跡部景吾)』篇」が公開され、ファンのリアクションも含めた関連ワードがSNSでトレンド入りし、話題となりました。そこには現行の作品ファンはもちろん、今は別ジャンルにハマっているけれど“かつて通ってきた”という往年のファンたちからの反応もかなり多く、あらゆるジャンルに潜在している“テニプリ履修者”の多さや、何年経っても変わらない跡部氏の影響力も改めて実感できました。
昨今の女性人気ジャンルは、トレンドの移り変わりがやや激しく、端から見るとそれは、推しのジャンルをとっかえひっかえする移り気な人が多いようにも映るかもしれません。しかし実際は、今回のCMへの反応にもうかがえるように、メインで応援するジャンルが変わっても、これまで通ってきたジャンルにも変わらず愛着があるファンはかなり多いです。特に女性人気ジャンルによくみられるこうした特徴的なファンたちの楽しみ方や推し作品たちへのスタンスは、“ロケット色鉛筆的”であると言えるのではないでしょうか。
一度使った芯は戻らず、使い捨てとなるホチキスやシャープペンシルと違い、ロケット色鉛筆は、先端を他の色と付け替えても、それまで使っていた色芯はペン軸の中に戻り、残り続けます。同様に、上記CMの件からも分かるのは、ファンはいわゆる最推し(今一番力を入れて応援している)ジャンルが他に移行したとしても、それ以前の推しジャンルを“使い捨てる”のではなく、自分の中に作品への愛着を“残し続けている”点です。
これには、最推しジャンルの変更が、それまでメインで応援していたジャンルに飽きたり、嫌いになって起こるのではなく、新しく夢中になる作品ができると、不可抗力的に起こりがちなことも関係しているかもしれません。好きなジャンルにかけられる“時間やお金や体力”には限界がありますので、どちらの作品も好きであっても、新しく夢中になった作品にそれらをささげる割合が増えれば、今一番力を入れて応援しているジャンルというのは自然とそちらへ移行せざるを得なくなってきます(バランスをとって二つ以上の作品を同時に応援する人ももちろんいますが結構大変です)。しかしこの場合、これまで応援していたジャンルへの愛着がゼロになって最推しが変わるわけではないので、それまで一番に応援していた作品への思い入れも、ファンの中に残り続けるのです。
どれほど昔にハマったジャンルでも、今他にメインで応援しているジャンルがあっても、(多少の思い出補正も手伝いつつ)今回のCMをはじめ、周年記念等の新展開などをきっかけに、再び盛り上がることができるのも、そうしてファンの中に残っていた思い入れが呼び起されるためだと思います。また、そうした愛着が残り続けることで、ふとしたきっかけで呼び起された作品への思い入れが、自分の中で思いのほか盛り上がって、再び最推しになることだってあるのです。
こうしてみると、次々と新しいトレンドが生まれる女性人気ジャンルですが、やはりそのファンには、ただ推しジャンルをとっかえひっかえする移り気な人が多いわけでは決してないことが分かります。むしろ、これまでの推し作品たちへの思い入れも捨てずに抱えつつ、自分がそれぞれの作品にかけられる情熱(時間やお金や体力)のバランスを取りながら、過去の推し作品も含めた複数の作品をとても器用に、全力で楽しんでいる人が多いと思うのです。
こうしたファンたちの推し作品に対するスタンスは、やはり(普通のロケット色鉛筆と違って、新しく心引かれるジャンルが次々と現れることで“色芯が増え続ける”という点はありますが)一度使った色芯もずっと軸に残り続け、軸に戻った色芯が再び先端になったりもしながら、1本でさまざまな色が使えるロケット色鉛筆的な楽しみ方だと、私は思います。
こあらい・りょう 埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。
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