UFC254:ヌルマゴメドフVSジャスティン・ゲイジーのライト級王座統一戦の見どころを高阪剛が解説

ハビブ・ヌルマゴメドフ選手(左)とジャスティン・ゲイジー選手 Getty Images
1 / 3
ハビブ・ヌルマゴメドフ選手(左)とジャスティン・ゲイジー選手 Getty Images

 日本時間の10月25日、アラブ首長国連邦・アブダビの「ファイトアイランド」で、総合格闘技の大会「UFC254」が開催される。メインイベントは、MMA(総合格闘技)28戦無敗の正規王者ハビブ・ヌルマゴメドフ選手と暫定王者ジャスティン・ゲイジー選手によるライト級王座統一戦。この大一番の見どころを、WOWOWの番組「UFC -究極格闘技-」解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛さんに語ってもらった。

ウナギノボリ

 ◇ポイントはテークダウンの成否

 --無敗の王者ヌルマゴメドフと、今最も勢いのある暫定王者ゲイジーによるライト級王座統一戦がついに実現します。この試合は、今年最大の大一番と言っていいんじゃないですか?

 確かにそうですね。しかもライト級という階級は、スピードも技もフィジカルもすべてを兼ね備えた階級ですから。この試合の結果や内容というのは、他のUFCファイターや、今後UFCを目指す選手に影響を与えるんじゃないかと思いますね。

 --最もMMAの要素が詰まった階級の頂上対決だからこそ、多くの人に影響を与えるんじゃないかと。

 はい。2人のこれまでの試合映像をあらためて見返してみて、より一層、その思いを強くしました。

 --では、この試合のポイントはどの辺になりますか?

 第一のポイントは、すごくわかりやすいと思うんですよ。ヌルマゴメドフがタックルからのテークダウン、ゲイジーは打撃と、やりたいことがハッキリしていますから。まず、ヌルマゴメドフのタックルをゲイジーが切れるかどうかが、大きなポイントになります。

 --たしかに、これまでヌルマゴメドフと対戦した選手はみんな、テークダウンされてパウンドで削られて敗れています。

 ただ、ひとつ重要な点は、ヌルマゴメドフはたしかにテークダウン能力が高いんですが、ほとんどが最終的にケージレスリングでテークダウンしているんですよ。

 --オクタゴンの中央で奇麗にタックルを決めるというより、組みついてケージに押し付けて、そこから倒していくと。

 そうですね。もしくは、中央でタックルに入ってケージまで押し込んでいって、テークダウンをとることがすごく多い。ということは、ヌルマゴメドフのプレッシャーを受けてしまう=テークダウンを取られてしまっているということなんです。だから今度の王座統一戦では、ゲイジーがヌルマゴメドフのプレッシャーを受けるかどうか。プレッシャーを感じてしまうかどうか、そこが根本的な部分で大きなポイントになるんじゃないかな。

 --高阪さんは、ゲイジーはヌルマゴメドフのプレッシャーを受けてしまうと思いますか?

 それを考える上で重要になるのが、立ち技の技術の部分なんですよ。じつはヌルマゴメドフのパンチの技術は、正直そこまで高くないと思うんです。当然、UFCトップレベルの選手なんで、一定の基準ははるかにクリアしているんですけど、ちゃんと狙い澄まして当てるとか。相手の攻撃をかわしてカウンターを入れるとか、そこまで細かい技術ができるタイプじゃない。

 --ことストライキングの技術のみに限った話であればそうだと。

 あの(コナー・)マクレガーから右フックでダウンを奪った実績もありますけど、あれはタックルのフェイントが効いているから当たるんですよね。ヌルマゴメドフは、テークダウンでグラウンドでつける能力がものすごく高いから、対戦相手は組まれることを嫌がるので、だからタックルの動きに反応してしまうんです。

 --相手が極度にタックルを警戒しているからこそ、フェイントがものすごく効果を発揮するわけですね。

 ここがすごく大事なところ。打撃がそれほどうまくないヌルマゴメドフがプレッシャーをかけるためには、相手がものすごくタックルを警戒してくれなければいけないのですが、自分は“はたして、ゲイジーがそこまで警戒するかな?”というところが疑問です。

 --ゲイジーはストライカーのイメージが強いですが、もともとはNCAAディビジョン1のオールアメリカンレスラーです。

 そこがベースにあるので、そこまでヌルマゴメドフのタックルを恐れないんじゃないか。実際にゲイジーはUFCの試合でもほとんどテークダウンを取られていない。みんな切っているんですよ。また、スクランブルにも強く、相手の動きたい方向を潰してスタンドに戻すことができる。そうなると……ということですね。

 --ヌルマゴメドフにとっては、これまでのようにタックルの“脅し”が効かない相手なんじゃないかと。

 だからヌルマゴメドフ目線でいえば、ゲイジー相手にどうやってプレッシャーをかけていくのか、ということが問われる。そしてゲイジーの強みといえば、やはり打撃のスキルがものすごく高いこと。だからこそ、あれだけのレスリング能力を持ちながら、わざわざタックルやる必要がないともいえるんです。

 --たしかに、あのトニー・ファーガソンに打ち勝つストライキングがあります。

 ゲイジーvsファーガソンの映像も今回あらためて見てみたんですけど、細かい部分でいうと、ゲイジーは打撃をもらったように見えても、微妙にヒットポイントをずらして、パンチの威力を逃しているんですよね。

 --壮絶に殴り合っているように見えて、自分は相手のパンチの威力を逃している、と。

 そうなんです。殴り合いを展開して、ファーガソンは顔面が血だらけになりましたけど、ゲイジーはほとんど傷ついてないんです。だから今度の試合も、最初の打撃のやり合いでゲイジーが主導権をにぎり、前進していくかたちが取れれば、ゲイジーの試合になると思うんですよ。逆にテークダウンを奪われてしまうようなら、さすがのゲイジーといえども、ヌルマゴメドフの泥地獄にハマってしまう。それぐらいヌルマゴメドフの相手を立たせない技術は非常に高いものがあるので。

 --では、この試合はテークダウンの成否が一番のキーになると思いますけど、その前段階のスタンドで、ヌルマゴメドフがプレッシャーをかけられるかどうかが、大きなポイントになりそうですね。

 だから始まりの部分が重要なんです。また、もうひとつのポイントとして、両者のメンタル面が挙げられると思うんです。ヌルマゴメドフって、じつは“競技”には強いけど“ケンカ”はあまり強いタイプじゃないんじゃないか、と思うんです。要は攻撃をしっかり仕掛けたりとか、それに対応してくる相手に対して、さらに攻撃を仕掛けたりとか、ヌルマゴメドフは“やりとりの試合”にすごく強いんです。それに対してゲイジーは、“やりとり”じゃなくて“やり合い”に強いんじゃないかと。

 --修羅場に強いのがゲイジーだと。

 普通、相手の攻撃をもらうと“まずいな”と思ってしまうものなんですけど、ゲイジーにはそこがないんですよね。フラッシュダウンとか食らっても、すぐに持ち直すんですよ。その辺はメンタルがすごく左右して、ケンカが強いタイプは、ああいうところ強いんですよ。

 --不利な状況になっても、弱気にならないわけですね。

 ヌルマゴメドフにはその部分がないので、ちょっと“まずいな”と思った場合、崩れる可能性がある。逆に言えば、そういう不利な体勢になりたくないから、必死に自分の庭であるグラウンドに持ち込もうとするんだと思うんです。実際、それで負けていないので、ヌルマゴメドフの戦い方は成功している。ただ、窮地に陥ったことがないので、もしそうなったら、モロい部分があるんじゃなかな、と思うんです。

 --じつはまだ、ヌルマゴメドフは修羅場を経験してないわけですね。

 だからポイントはヌルマゴメドフをその状況に追い込むことができるかどうか。もしUFCでそれができる選手がいるとしたら、自分はゲイジーなんじゃないかと思います。そして、もしそういうことが起こせたら、最初に言ったように、この試合はUFCの他の選手たちにも大きな影響を与えるんじゃないかなと思いますね。そういう意味でも楽しみな一戦です。

 *……WOWOWでは「UFC254」を生中継。10月25日午前11時からWOWOWプライムで放送。なお、10月24日深夜3時からWOWOWメンバーズオンデマンドで先行ライブ配信する。

写真を見る全 3 枚

テレビ 最新記事