二階堂ふみ:「エール」と「ばるぼら」で見せるまったく違う顔

映画「ばるぼら」に出演する二階堂ふみさん (C)2019「ばるぼら」製作委員会
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映画「ばるぼら」に出演する二階堂ふみさん (C)2019「ばるぼら」製作委員会

 放送中のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「エール」で、窪田正孝さん扮(ふん)する主人公・古山裕一の妻で、同作のヒロイン音を演じている女優・二階堂ふみさん。劇中では、運命的な裕一との出会いから、結婚、出産、自身の夢だった声楽家へのチャレンジと挫折など、さまざまな場面で見せる喜怒哀楽に収まらない感情表現の豊かさで、視聴者をうならせているが、11月20日に公開された映画「ばるぼら」では、「垂れ流した排泄物のような女」と表現されるヒロインばるぼらとして、朝ドラとはまったく違う顔を見せている。

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 現在26歳の二階堂さんだが、10代から感情表現の豊かさは映像関係者から高く評価され、2007年のデビュー以来、さまざまな作品に出演してきた。役柄も10代の若手女優にありがちな、爽やかな青春もののヒロインというよりは、一癖も二癖もあるキャラクターを演じることが多かった。

 映画「ヒミズ」(2012年)で、あることがきっかけで狂気に落ちていく少年に恋する少女・茶沢景子を熱演すると、第68回ベネチア国際映画祭では、共演した染谷将太さんと共に最優秀新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。そして「地獄でなぜ悪い」(2013年)では、ヤクザの娘として血を吸った日本刀を振り回す女の子、「私の男」(2013年)では、親を亡くし遠縁の男に引き取られ可憐(かれん)な少女が大人の女性に変化していくさまを熱演するなど、強い印象を観客に残した。

 一方で、少女マンガ原作を実写化した「オオカミ少女と黒王子」(2016年)では、恋愛経験ゼロの女子高生をポップに演じ「どんな役でもできる若手女優」という地位を確立。その後も、「リバーズ・エッジ」(2018年)や「翔んで埼玉」(2019年)、「人間失格 太宰治と3人の女たち」(2019年)などの映画で印象に残る演技を見せる一方で、テレビドラマでもその才能を遺憾なく発揮する。

 NHKの大河ドラマ「西郷どん」(2018年)では、鈴木亮平さん演じる主人公・西郷吉之助の妻・愛加那に扮し、大きな反響を得ると、「ストロベリーナイト・サーガ」(フジテレビ系、2019年)で連続ドラマ初主演を務め、お茶の間の認知度を上げていった。

 そして、オーディションでヒロインの座を勝ち取った「エール」では、美しい歌声と共に、裕一と出会ったときの乙女心丸出しの無邪気さ、声楽家を夢見る強いまなざし、子供を宿し、夢を小休止するときの悔しさ、娘が誕生したときの喜び、そして母性、裕一がつまずいたときにみせる、包み込むような優しさと叱咤(しった)する強さ……など、さまざまな感情表現を駆使して音という女性を光り輝かせ、視聴者を魅了した。

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 そんなハートフルな音を好演している二階堂さんが、最新映画「ばるぼら」では、稲垣吾郎さん扮する異常性欲に悩まされる人気小説家・美倉洋介に街中で拾われる、自堕落な生活を送る謎のフーテン女・ばるぼらを演じている。ばるぼらは劇中、「垂れ流した排泄物のような女」と評されるように、酔っ払い、地面に転がっているような匂い立つ姿をスクリーンで披露している。

 どうしてここまで幅広い役柄を手の内に入れ、さまざまな感情を視聴者の心の中にスッと浸透させる芝居ができるのだろうか――。そこには“疑い”と“決めつけない”という考え方がキーワードになっているように感じられる。

 数々の難役をこなしてきた二階堂さんだが、インタビューや取材の際、台本や原作を読んでイメージはしつつも、「こういう人物だ」と決めつけないようにしていると話すことが多い。もちろん、監督によって撮影方法は違うが、現場に入って肌に感じること、相手と対峙(たいじ)したことで得られる感情を大切に作り上げていく。「ばるぼら」の制作会見のときも、ばるぼらという女性の「分からなさ」に興味を抱いていると話していたが、予定調和ではない人物の機微に見ている側も心が動かされるのだろう。

 また、自身が演じる際に「この役ができるのか」という疑うことで、役に対する探究心も上がる。分からない中で模索しながら進んでいく様も、人の心を揺さぶる。

 現実なのか、はたまた幻想なのか――そのはざまでさまようようなばるぼらの姿は、毎朝「エール」を見ている人からは「同一人物が演じているのか」と思わせるほど退廃的だ。「エール」でも喜怒哀楽のすべてを立体的に表現している二階堂さんだが、まったく違うベクトルの負の感情を暴発させている。

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 俳優の芝居が大きくフィーチャーされるのはタイミングのようなところが大きい。

 例えば現在「エール」で二階堂さん扮する音の夫・古山裕一を演じている窪田さんは、以前から演技派俳優として高い評価を受けていたが、朝ドラ「ゲゲゲの女房」(2010年)で扮した憎めない熱血漢・倉田圭一と、「ジョーカー許されざる捜査官」(フジテレビ系、同年)で演じたサイコパスが同時期に放送されたため、その演じ分けは大きな話題になった。

 同じく佐藤健さんも、放送時期が重なった「半分、青い。」と「義母と娘のブルース」(共に2018年)で対照的な役柄を演じ、高い演技力が“改めて”評価された。

 前述したように二階堂さんも映画ではエキセントリックな役柄を演じることが多く、「ばるぼら」の演技も表現の幅広さを“再認識”させられたと感じる人も多いだろうが、「エール」で二階堂さんのことをしっかりと認知した人が「ばるぼら」の芝居を見たら、そのインパクトは計り知れないだろう。

 大みそかに放送される「第71回NHK紅白歌合戦」で紅組の司会を務めることも発表された。20代半ばを迎え、今後どんな活躍を見せてくれるのか。楽しみは尽きない。(磯部正和/フリーライター)

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