新型コロナウイルスの感染拡大により、映像界にとっても暗雲が立ち込めた1年となった2020年。そんな中、改めて高い演技力を評価されたのが、女優の伊藤沙莉さんだ。子役から芸能活動を始め、2005年のドラマ「女王の教室」(日本テレビ系)などでインパクトある芝居を見せると、その後も出演作を重ね、近年は映像界にはなくてはならない存在として引っ張りだことなった伊藤さん。2020年は、CM起用からアニメの主演声優まで、仕事の質量ともに充実。その実力を再確認できた1年となった。
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もともとあった高い演技力に加え、知名度も上がったことで、2020年はさらに大きく飛躍した印象の伊藤さん。その象徴的な事象がテレビCMだ。日本マクドナルドをはじめ、サントリ―伊右衛門、東京ガスなど、ナショナルクライアントとも言える企業のCMに立て続けに出演した。
もちろん、本職となる女優業、そして声優としての活動も、2020年は質量ともに充実。まずは1月に放送されたテレビアニメ「映像研には手を出すな!」(NHK)では「アニメは設定が命」と断言する超個性的な女子高生・浅草みどりの声を担当。伊藤さんにとって、声の芝居は吹き替えを担当した劇場版アニメ「ペット2」(2019年公開)以来2度目と経験が浅い中でも、「足し算の芝居」を意識し、プロの声優に交じり、見事にキャラクターの愛らしさを表現。俳優が声優を務めることに否定的な意見が多い中、伊藤さんの声の演技は絶賛された。
また、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下の4~5月に放送されたNHKの“よるドラ”「いいね!光源氏くん」では、千葉雄大さん演じる光源氏が紛れ込んでしまった現代で、彼の世話をする自分に自信が持てない、こじらせ系の女性・藤原沙織を演じた。劇中では、モテないと自分に呪いをかけながらも、どこかで光との恋に焦がれる乙女心と、突拍子のない行動を繰り返す光に鋭い突っ込みを入れるなど、非常にバランスの良い芝居で、自粛で閉塞感ある世の中にユーモアを届けてくれた。
ドラマの制作統括は、伊藤さんの起用について、ファンタジックな作品の中、ウソっぽくならないリアルさを持つバランス感覚を絶賛。本作でも伊藤さんの等身大の女性をリアルに演じるお芝居は大きな反響を呼んだ。
ほかにも2020年は「劇場」「ステップ」「十二単を着た悪魔」「ホテルローヤル」などの映画で、登場シーンはそれほど多くはないものの、非常に強い印象を残す芝居を見せ、作品に深みを与えた。特に「ステップ」で演じた優しさと現実の厳しさを持った保育士、「ホテルローヤル」でのワケアリ女子高生は、伊藤さんならではのリアリティーある芝居に圧倒された。
伊藤さんはインタビューでよく「自分はキラキラタイプではない」という言葉を口にする。だからこそ自分に声をかけてくれた役には意味があると強く感じていると話していた。それが具現化した作品が11月に公開された映画「タイトル、拒絶」だ。本作で伊藤さんは、デリヘルの事務所で世話係として働くカノウを演じたが、連続ドラマなどで見せる伊藤さんとはまったく異質の人物造形を見事に表現している。
現在26歳の伊藤さんだが、お芝居のキャリアは17年になる。いつも「まだまだ」と自身に辛い評価をしているが「巡り合えた役を大切に」という思いで演じている役柄には多くの人を惹(ひ)きつける力がある。この快進撃はさらに続いていくだろう。(磯部正和/フリーライター)