銀魂:空知英秋は“銀さん”だった 大嫌いで大好き 歴代編集担当が語る素顔

「銀魂 THE FINAL」のビジュアル(C)空知英秋/劇場版銀魂製作委員会
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「銀魂 THE FINAL」のビジュアル(C)空知英秋/劇場版銀魂製作委員会

 空知英秋さんの人気マンガが原作のアニメ「銀魂」の完全新作であり、完結編となる劇場版「銀魂 THE FINAL」(宮脇千鶴監督)。テレビアニメ第1期がスタートした2006年から約15年、アニメシリーズの「本当に最後」の作品であることも話題となっている。原作もなかなか最終回を迎えられず、“終わる終わる詐欺”を繰り返したことで知られる「銀魂」の“最後”を記念し、詐欺の一番の被害者とも言える歴代担当編集が集結し、座談会を実施。空知さんのすごさ、素顔、思い出を語った。

ウナギノボリ

 ◇「空知英秋(無職)」が始まりだった

 「銀魂」は、天人(あまんと)と呼ばれる異星人に占領された江戸時代を舞台に、何でも屋を営む侍・坂田銀時らが難題を解決する姿を描いたSF時代劇コメディー。マンガは「週刊少年ジャンプ」(集英社)で2003年12月に連載がスタートした。コミックスの累計発行部数は5500万部以上。

 「週刊少年ジャンプ」「ジャンプ GIGA」(同)で最終回を迎えられなかったことも話題になった。その後、「銀魂公式アプリ」で“最終回の向こう側(続き)”を配信。2019年6月20日に最終訓(回)に当たる3回目の配信「第七百四訓 天然パーマにロクな奴はいない」が配信され、“三度目の正直”でついに完結となった。

 座談会に集まったメンバーは、以下の通り。

 初代担当・大西恒平さん(「週刊少年ジャンプ」メディア担当編集長)
 2代目担当・齊藤優さん(「週刊少年ジャンプ」副編集長)
 4代目&6代目担当・本田佑行さん(「週刊少年ジャンプ」編集部主任)
 5代目担当・松尾修さん(「マンガMee」編集部)
 7代目&10代目担当・内藤拓真さん(「週刊少年ジャンプ」編集部)
 8代目担当・真鍋廉さん(「Vジャンプ・最強ジャンプ」編集部)
 9代目担当・井坂尊さん(ジャンプ・コミック出版編集部・「ONE PIECE」メディア担当)

 ――初代担当の大西さんと空知さんとの出会いは? 当時はどんな印象でしたか?

 大西さん 出会いは20年くらい前、空知さんが「だんでらいおん」という作品でマンガ賞に投稿されてきたのが始まりで、僕が担当させてもらうことになりました。最初に会ったのは担当になって半年後ぐらいですかね。雪の降る北海道(空知さんの出身地)に行きまして、そこで初めて会いました。「だんでらいおん」は老成した作風だったので、編集部でも「年齢を絶対ごまかしているだろう」と言われていて、僕も怪しいなと思っていたんです。けど会ったら、たしかに若者でした(笑い)。

 本田さん 「だんでらいおん」の原稿には、「空知英秋(無職)」と書いてあるんですよね。

 大西さん 当時は周りの人にも言わずにこっそりマンガを描いていたらしいです。卒業して就職しなければいけない時に最後の望みをかけて投稿してみたら、それが入賞した。投稿した時は「どうせダメだろうな」という意味での「無職」という表記だったみたい。

 本田さん マンガが通らなかったら、何をするつもりだったんですかね。

 大西さん 空知さんは、何か適当な仕事をやるしかないなと思ってたみたいだよ。

 ――2代目担当の齊藤さんから見た空知さんは?

 齊藤さん 器が超でかい。「銀魂」は周知の通り死ぬほど原稿が遅いので、他の作家さんだったらあり得ないんですけど、やばい時は編集担当も絵を描くんですよ。僕も一度、「ドーン!」とかの描き文字を描いたことがあるんです。それで、最後に空知さんが原稿チェックしている時に「おい! 誰だ、このきたねー描き文字!」と怒って。「すみません、僕です」と言ったら、「齊藤さんか。じゃあしょうがねーな」って(笑い)。

 井坂さん それは器がでかいんじゃなくて、原稿が遅いだけですよ(笑い)。

 ◇大嫌いと大好きの繰り返し 空知英秋の人たらし力

 ――空知さんの「ここがすごい!」と思うところは?

 本田さん マンガ家としてのすごいところはもちろんあるんですけど、人間味がすごく強い。毎週原稿が締め切りの曜日は、本当に世界で一番嫌いになるんですよ。それが終わって次に打ち合わせに行くと、空知さんが「すみませんでした。今週はいけると思ったんですけどね。来週は大丈夫です。頑張ります。飲みに行きましょう」と。そう言われると、好きになっちゃうんですよ。次の締め切りの時にはまた大嫌いになって(笑い)。その懐の深さみたいなものはすごいなって思いますね。

 松尾さん 人たらしがすごいですよね。

 本田さん 完全に銀さんなんですよ。

 真鍋さん 原稿待ちの話で言うと、手塚治虫先生の担当も長時間原稿を待って「手塚番」と呼ばれていたんですけど、銀魂担当って、現代の手塚番だなと思っているんです。手塚先生の担当が、原稿待ちをしていたものの締め切りをはるかに超過して追い込まれた結果、手塚プロダクションの壁を破壊するエピソードがあるんですけど、僕はその気持ちがちょっと分かる(笑い)。でも、本田さんのように「次はちょっと信じてみようかな」と。毎週その繰り返しでした。

 井坂さん 僕は空知さんを信じたことは一回もないですよ。絶対、原稿上がらないと思っていたもん(笑い)。

 内藤さん 僕は信じていた派です。空知さんは悪びれないで「来週はやること決まってるんで。あとは描けばいいだけなんですよ」とか言うじゃないですか。その「描けばいい」が長い。

 齊藤さん 本人は本当にやれると思っていて、本当に頑張る。本当に頑張っていることには全く疑いがないんですけど、読みが甘すぎる(笑い)。

 井坂さん ただ、空知さんはあんなマンガを描いているんですけど、すごく理論派。はやっているマンガはちゃんと読んで、「この作品はここがいい」「ここが読者に受けている」という話をよくしていました。その分析が芯を食っている。

 齊藤さん ぱっと見で本質を見抜いちゃうのは、すごいセンスだなと思いますね。

 大西さん 物事を客観視する力はすごくありますね。観察眼がある。ニュースやテレビを見て、世の中のことを客観視して分析して、それをキャラ作りやストーリー展開に生かすということをずっとやってますね。そういうところに時間がかかって、ネームが遅くなるのかなと。プラスに解釈すると(笑い)。

 本田さん 空知さんは原稿を描くのが遅いわけじゃないですか。自分でネームを描いていても、遅くなるって分かっているわけじゃないですか。それを最後まで自分をちゃんと追い込んで、遅くなる苦しみを自分で抱えられるのはすごいところですね。

 大西さん 原稿も遅くはなるけど、落としはしないんだよね。

 齊藤さん むしろ、追い詰められた時の原稿ほど面白い。

 ◇最後まで「付き合ってやるか」と思わせる魅力

 ――今だから言える空知さんへの一言、思いは?

 齊藤さん 言いたいことは言っているから、実は言えなかったみたいなものは一つもないんですよね。思ったことは全部本人に言っていますし。

 井坂さん 作品に携わらせていただいて本当にいろいろと勉強になりました。あれ以上つらいことはないだろうという経験もできました。だって終わらないんですよ。びびりますからね、マジで。「銀魂」の最終回はアプリでしたが、紙のジャンプに戻ってきてくれる日を心待ちにしております。

 大西さん 最後まで映画を作ってもらえたこと自体、作家を含め「銀魂」がアニメの制作陣とファンに愛されていたんだなと思いますよね。作家本人はそもそも最初にアニメ化されること自体、予想もしていなかったので。

 齊藤さん アニメの制作陣もここまで振り回されると思ってなかったでしょうから。

 大西さん そこまで付き合ってくれているのは、空知さんの人徳、可愛げなんだろうね。「しょうがないけど付き合ってやるか」と思わせるものが、あったんじゃないですかね。

 終わる終わる詐欺も、度を過ぎたギャグも「『銀魂』だから」で許される独自の路線を築き上げた空知さん。次回作を期待せずにはいられない。

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