ドラゴンボールDAIMA
第6話 イナヅマ
11月18日(月)放送分
アニメ界の巨匠・りんたろう監督が手がけた劇場版アニメ「幻魔大戦」が、11月19日から開催される「角川映画祭」で上映される。平井和正さんと石森章太郎さんの原作をアニメ化し、角川映画のアニメ第1弾として1983年に公開。「AKIRA」などで知られるマンガ家の大友克洋さんがキャラクターデザインを担当するなど豪華スタッフが集結した伝説のアニメだ。同作が公開された1980年代は、日本のアニメの歴史が大きく動いた時代だった。「1980年代にアニメの技術が一つの頂点を迎えた」と話すりん監督に、激動の時代を振り返ってもらった。
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りん監督は、1941年生まれ。1958年に東映動画(現・東映アニメーション)に入社し、「白蛇伝」(1958年)や「西遊記」(1960年)などに参加した。その後、虫プロダクションに移籍し、「鉄腕アトム」(1963~66年)で演出デビュー。「ジャングル大帝」(1965~66年)などを手がけるなど日本のアニメの黎明(れいめい)期を支えた。劇場版アニメ「銀河鉄道999」(1979年)が、公開年の邦画動員の1位を記録するなど大ヒットした。ヒットメーカーだったりん監督が「幻魔大戦」を手がけることになったきっかけは、当時、角川書店(現・KADOKAWA)の社長だった角川春樹さんからのオファーだった。
「東映動画で『銀河鉄道999』『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』を作り、ヒットした。知人を通じて、春樹さんから『会いたい』という話があったんです。春樹さんは飛ぶ鳥を落とす勢いでした。春樹さんは銀座にものすごいクラブを持っていて、春樹さんの特別な部屋があるんです。大きな円形のテーブルがあり、春樹さんの後ろには武田信玄の甲胄があってね。春樹さんは単刀直入なんです。開口一番、『アニメを作りたいけど、どうか?』『幻魔大戦という企画がある』と」
1970年代半ばからアニメを取り巻く状況が変化しつつあった。「宇宙戦艦ヤマト」(1974~75年)、「機動戦士ガンダム」(1979~80年)がティーンエージャー、20代など若者の支持を集めたことで、子供、ファミリー向けではないアニメが注目されるようになった。「犬神家の一族」(1976年)や「人間の証明」(1977年)、「セーラー服と機関銃」(1981年)など数々の映画をヒットさせてきた角川さんもアニメ制作に乗り出した。「幻魔大戦」は、アニメの変革の時代に企画された。
「『幻魔大戦』は、石森章太郎さんのマンガは読んでいたけど、平井和正さんの小説は読んでいなかった。石森さんは友人ですが、アニメにするなら、マンガチックなキャラクターじゃない方がいいと思った。当時、アニメは映画会社が作っていた。出版社がアニメを作って配給するなんてことはなかった。でも、春樹さんならやるだろうと思いました。『東映動画では作らないような映画を作るんだ!』と瞬間的に思った。『銀河鉄道999』は中高生、若者をターゲットにしていた。『ヤマト』もあったけど、それまでのアニメは子供、ファミリー向けだった。東映動画がイチかバチかで賭けた作品だった。春樹さんは、やるんだったら子供は関係ない、若者、その上の世代のことを考えていた。角川書店は『読んでから見るか、見てから読むか』と文庫を売ろうとしていた。その路線なので、子供向けではない。大人の感覚で作ろうとした。イチかバチかでした。そこに目を付けた春樹さんは、すごい。簡単ではないですが、僕としてはやるしかない」
大友さんをキャラクターデザインに抜てきした。大友さんは「AKIRA」「気分はもう戦争」「童夢」などで知られる人気マンガ家。革新的な表現がマンガを変えたとも言われており、「大友以前、大友以後」という言葉もある。しかし、当時は「知る人ぞ知る存在」だったという。
「角川書店が初めてアニメをやるからには、ほかの映画会社がやらないことをやろうとしました。大友君は新人で、僕と同じく(東京・)吉祥寺に住んでいた。吉祥寺の喫茶店で2時間くらいかけて説得しました。それからの腐れ縁です。最初に大友君が言ったのは『俺のキャラクターがアニメになりますか?』。『ならないからこそやるんですよ!』とは言わなかったけど『動かせます! 優秀なアニメーターを集める』と説得した。アニメーターの中には大友ファンもいましたし、そうそうたるメンバーが集まりました。(プロデューサーの)丸山正雄が尽力してくれた。歯車がうまくかみ合った」
丸山さんは虫プロダクションを経て、マッドハウスを設立。近年は「サマーウォーズ」(2009年)や「この世界の片隅に」(2016年)などを手がけたことでも知られる名プロデューサーだ。「幻魔大戦」には、森本晃司さん、なかむらたかしさん、梅津泰臣さん……さらに金田伊功さんと伝説のアニメーターが集まった。
音楽も豪華だ。英プログレッシブロックバンド「エマーソン・レイク・アンド・パーマー(ELP)」のキース・エマーソンさんが参加した。
「僕も春樹さんも音楽にこだわるんです。ピンク・フロイドにお願いしようとしたけど、この作品とは違う。『ELPだ!』となった。全部はお願いできないので、ポイントを絞り、(作曲家の)青木望さんにもお願いしました。キース・エマーソンは、面白かったですね。日本に呼んで、六本木のスタジオで、レコーディングしました。スタジオに行くと、シンセサイザーがずらりと並んでいた。すごく繊細な人でね。ワインを飲みながら演奏していて、ノッてくると上半身裸になって弾くんです。『どう思う?』と確認しながら、どんどん音を重ねていった。僕は夜、現場に行ったりしながらだったけど、1週間付き合いました。春樹さんには感謝してもしきれないですね。やりたい放題でした。もちろん予算は決まっていましたが」
「幻魔大戦」が公開された1983年の日本は、バブル景気以前。任天堂のゲーム機ファミリーコンピュータ、音楽シーンを変えたとも言われるヤマハのデジタルシンセサイザーDX7が発売された年でもある。思想書としては異例のベストセラーとなった浅田彰さんの「構造と力」(勁草書房)が発売されたのも1983年だ。アニメシーンを見ると、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)の第1弾とされる「ダロス」が発売され、「聖戦士ダンバイン」「装甲騎兵ボトムズ」などが放送された。アニメだけでなく、文化の歴史が大きく動いていた。エスパーと大宇宙の破壊者・幻魔が戦いを繰り広げる「幻魔大戦」のストーリーと時代がシンクロしたところもあった。
「『鉄腕アトム』からアニメを作ってきた中で、1980年代にアニメの技術が一つの頂点を迎えたと感じていました。角川書店という出版社が映画、アニメを作ったのも大きなことでした。その後、徳間書店もアニメ制作に乗り出したけど、角川がやっていなければ、徳間がやったか分からない。春樹さんは、本当に苦労していた。たがが外れたような情熱でした。勢いで作ったところもあります。みんな40代だった。厄年だったけど、春樹さんもいるし、厄は怖くない!という気持ちでした。あの時代だからこそできた。ある意味じゃ乱暴狼藉(ろうぜき)ですよ。どこまでが仕事でどこまでが遊びか分からないでやっていた面白さもあり、それが、ものすごいパワーになり、乗り越えられた。当時は、オカルトブームもありました。ノストラダムスの大予言が流行し、世紀末などと言われていました。『幻魔大戦』とどこがシンクロしたところもあったのでしょうね。エネルギッシュなアニメファンも後押ししてくれた。海外にもアニメファンがいて、面白がってくれた。目に見えないさまざまなパワーがカオスを作り出したんです」
「幻魔大戦」の公開後、角川映画のアニメとして「時空の旅人」「火の鳥 鳳凰編」(1986年)、「宇宙皇子」「ファイブスター物語」(1989年)、「アルスラーン戦記」「サイレントメビウス」(1991年)などが公開された。「俺のキャラクターがアニメになりますか?」と言っていた大友さんは、自らがメガホンをとり「AKIRA」(1988年)をアニメ化する。やがて、日本のアニメは世界中で人気を集める。日本のアニメを黎明期から知るりん監督の目には、今のアニメ業界がどのように映っているのだろうか?
「僕は社会のはみ出し者なんです。サラリーマンも商売もできない。はみ出し者の唯一の救いがアニメーションだった。でも、アニメが好きじゃなかったんです。アニメを素材にして映画を作ろうとしていた。大友君もそうだった。『鉄腕アトム』の時、先輩たちからクソミソに言われたんですよ。『あんなのはアニメじゃない』って。彼らは、ウォルト・ディズニーの信奉者なんです。そうじゃないアニメの表現もある。いい意味でも悪い意味でもそれを突き詰め、時代と共に進化していった。それが今の『鬼滅の刃』にもつながってくるんです。昔は『アニメなんてけしからん』と言われていたけど、今は国を挙げてアニメを盛り上げようとしているんですからね」
11月21日には、EJアニメシアター新宿(東京都新宿区)で「幻魔大戦」の舞台あいさつが開催され、りん監督が登壇する。「若者は知らないですよね? どう感じるのか?と興味津々です。劇場で見るのとDVDを見るのでは違いますし、見てもらいたいです」と語るりん監督。ぜひ、伝説の作品を見て、りん監督の言葉を心に留めてほしい。
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