ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
アニメ「うる星やつら」の主題歌「ラムのラブソング」の作曲、編曲を手がけたことでも知られる小林泉美さん。1970~80年代に発表したアルバムが再発売され、11月には「ラムのラブソング」のリブート(再起動)版を発表するなど再注目されている。小林さんの経歴は異色だ。1977年にデビューし、作曲家、スタジオミュージシャンなどとして活躍したが、1985年に突如、英国に渡る。スタジオミュージシャンなどとして海外で活躍しただけでなく、コーディネーターとして英国と日本のクラブミュージックシーンの架け橋となった。小林さんは再注目されているが“過去の人”ではない。今もなお最前線を走り続けている。その異色の経歴に迫る。
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小林さんは、10代からプロのキーボーディストとして活動し、1977年にメジャーデビューした。「小林泉美 & Flying Mimi Band」名義でアルバムを2枚、ソロ名義でアルバム4枚を発表。バンド「パラシュート」や高中正義さん、松任谷由実さん、井上陽水さんのバックバンドにも参加した。
「1970年代にASOCA(アソカ)というバンドをやっていました。ドラムの渡嘉敷祐一、ギターの土方隆行さんも一緒にやっていた仲間です。みんな練習の鬼でしたね。すごく勉強になりました。10代の頃、米軍キャンプで演奏をしていて、すごくショックを受けたんです。譜面を読めないけど、すごい演奏をする人もいて、グルーヴを自然に学んでいました。それがベースになっています。18、9歳の時に中村雅俊さんのバックの仕事がきたんです。ツアーに参加して、リハーサルの時に『歌え!』と言われ、サウンドチェックで歌ったら『アルバムを作ろう!』という話になって。それでソニーからデビューすることになったんです」
デビューが決まったものの、一筋縄にはいかなかった。
「ソニーのディレクターは、若松(宗雄)さん、松田聖子さんとか手がけた方でした。アイドル部門だったんです。その時のマネジャーの真下(幸孝)さんも有名な方でして、X JAPANもやった人です。真下さんと『アイドル部門は違うかも?』という話になって、ソニーで録音した音源を引き上げて、日本フォノグラムから出すことになったんです。私は黒人音楽、ラテン系が好きでしたが、当時はアンダーグラウンドでした。白人のロックの影響が強い時代でしたから、売れない音楽とカテゴライズされていました。でも、好きなようにやらせていただいていました。真下さんには感謝しています。素晴らしい発想、フットワークで、面白いことをやらせていただきました。ファンキーな人でしたね」
1981年にアニメ「うる星やつら」の主題歌「ラムのラブソング」を手がけ、その後はアニメ「さすがの猿飛」「ストップ!! ひばりくん!」の主題歌なども世に送り出した。
「当時、所属していた事務所のオフィスで駆け回っていると、社長に『マンガの曲をやると、売れるよ』と言われたことがありました。ある時、『こういうマンガ、あるけど……』と『週刊少年サンデー』を見せられたんです。それが『うる星やつら』でした。好きなマンガだったので、3曲作って、次の日に持っていたら、オッケーが出たんです。そこからアニメの曲を作ることになりました。後から聞いた話ですと、最初はテレビ局で大悪評だったそうです。それまでアニメの主題歌は、オーケストラの曲が多かったのに、打ち込みでしたからね。フジテレビの岡正プロデューサーがごり押ししてくださって、通ったらしいんです。周りにいる方々がサポートしてくださったんです。ラッキーでした」
日本で大活躍していた小林さんだったが、1985年に突如、英国に渡る。
「当時の日本はバブルで、予算がたくさんあって、とにかく作れば儲かる時代だったんです。粗製乱造になっているところもあって『ちょっと違うぞ!?』と思っていた。音楽をちゃんとやりたかったんです。日本の音楽業界にいた時もロサンゼルスに一人で行って録音してましたし、『世界でやりたい!』という気持ちがあったんです。海外のアーティストにデモを渡したら、ワーナーミュージックの方から『ヨーロッパに来る?』と言われ、『じゃあ、半年くらい行こうかな?』と思ったんですけど『デペッシュモード』『スウィング・アウト・シスター』との仕事も入ってきて、気付いたら30年以上たちました」
小林さんは英国を中心に海外の数多くのミュージシャンのレコーディングに参加した。ドイツのニューウェーブバンド「パレ・シャンブルグ」のメンバーとしても知られるホルガー・ヒラーさんのツアーにも参加した。
「ホルガー・ヒラーの日本盤は『腐敗のルツボ』ですから。すごいタイトル(笑い)。びっくりですよね。音楽性が違いますもん。ワーナーのディレクターがホルガーのマネジャーを趣味でやっていたんです。ホルガーが日本に来た時、ホルガーとマネジャーを温泉に連れて行ったことがありました。お金がないから、安い民宿に泊まって。朝に『パンを食べたい!』と言って、民宿のおじいちゃん、おばあちゃんが隣の村まで買いに行ってくれたり。たくさん面白いことがありました」
「音楽性が違う」ミュージシャンとも共演してきたが、小林さんは「自分の中に表の顔、裏の顔がある」とも語る。
「アバンギャルドなダンスの音楽もやっていたり裏の顔があるんです。今もやっています『アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン』も好きですし。(ヤニス・)クセナキスも好きで、会ったこともあります。ホルガーとモーリッツ(・フォン・オズワルド)に『ダルムシュタットの現代音楽セミナーに行かない?』と誘われ、クセナキスに会って、作品を渡しました。譜面を見て『いいね。次の作品ができたら、パリにおいで』と言われたのですが、恐れ多くて行けなくて(笑い)」
クセナキスとは、ギリシャ系フランス人の現代音楽の作曲家。“20世紀音楽の巨人”とも呼ばれる大御所で、日本では高橋悠治さんの演奏でも知られている。モーリッツさんは「ベーシック・チャンネル」の活動でも知られ、ミニマルテクノの礎を築いたとも言われている。小林さんの言葉からは、大物の名前が次々と出てくるから驚きだ。
「モーリッツの家に居候していたこともありました。彼は音楽に対してピュアで真面目な人です。最近はコンタクトを取っていないけど。ただ、本当は英国ではなく、ニューヨークに行きたかったんです。でも、ニューヨークからお誘いがなかった。英国のいいところは、個性を大事にする。技術的にヘタでも、オンリーワンだったらいい。当時の英国では、東洋人で女性というのが、珍しかったのかもしれませんね。ニューヨークに行っていたら音楽の仕事はできなかったと思う。テクニックが求められますしね」
1990年代には、コーディネーターとして、日本のレコード会社にR&Sレコーズ、ワープ、ニンジャ・チューン、モ・ワックスなどの英国のクラブミュージックレーベルをつないだ。当時、日本の大手レコード会社が英国のクラブミュージックの日本盤を続々とリリースしていた。ケン・イシイさんやDJ KRUSHさんらの海外進出をコーディネートし、日本の輸入レコードショップ・シスコのロンドン支部の社長も務めるなど日本と英国のクラブミュージックの架け橋となる。
「子供ができて、時間的に大変になったんです。音楽の仕事は朝までになることもありますし、ツアーもあったので、なかなか難しくて。子供を抱えて、ビリー・マッケンジーのアルバムのレコーディングに参加した時、『ユーリズミックス』のアニー・レノックスに『すごいわね』と言われたこともあったり(笑い)。音楽の仕事が難しくなった時、日本から『英国のアーティストを紹介してほしい』というお話があったので、会社を作りました。子育てしながら、日本向けのプロモーションなどコーディネーションの仕事するようになったんです。すごく楽しかったですね。シスコの仕事が面白かったですね。私はアンダーグラウンドが好きなんです、ドラムンベースの危ない連中と交渉したり」
小林さんは1990年代の英国のクラブミュージックシーンを「活発な時代」と振り返る。ネットで情報を集めることもできない時代にさまざまな“現場”を体験した。
「ハウスが英国に入ってきた時から体験していますからね。面白かったですよ。当時はイリーガルなパーティーもあって、海賊ラジオで、パーティーの告知をするんです。チケットを手に入れ、遊びに行くと、『ポリスが来た!』って、みんなで逃げたこともありました(笑い)。ジ・オーブの照明の人がパーティーで実験をしていたり、すごいことがたくさんありました。エネルギーにあふれていました」
2016年には音楽を本格的に再開した。きっかけは息子の言葉だった。
「2008年にシスコが潰れて、2010~15年くらいは毎年、キューバに行っていました。英国は冬が寒いので『やってられない!』となって。キューバでは、ジャズクラブで演奏したり、パーカッションやダンスの勉強をしたりしていました。ミュージシャンとして再開するつもりはなかったけど、息子に『好きなことをしなよ』と言われ『何ができるかな?』と考えたら、音楽しかできないんですよね。今はすごく忙しくなりました。アンダーグランドな活動ですけど」
11月には「ラムのラブソング」をリブートした「ラムのラブソング(Reboot)」、最上もがさんに提供したテレビアニメ「東京ガンボ」の主題歌「万物流転」のセルフカバーを発表。12月8日、2021年1月12日には「ラムのラブソング(Reboot)」のリミックス版を発売する。
リミックスには、「水曜日のカンパネラ」のケンモチヒデフミさん、中国の人気トラックメーカーの3asicさん、Limited Tossさん、tofubeatsさん、SKYTOPIAら豪華アーティストが参加する。「ラムのラブソング」は時代を超えて愛されて続けている。
「『ラムのラブソング』が盛り上がっていると聞いて、なんかひとごとみたいなんです(笑い)。自然発生的に皆さんで楽しんでいただいていて、カバーをしていただいたり、TikTokで盛り上がったりしているようですが、私は関わっていないので。去年、DOMMUNE(ドミューン)でライブをすることになって、Limited Tossさんが作ってくれたトラックで歌ったところ、評判になって『じゃあ出すか!』という話になったんです。リミックスはいろいろなタイプがあって、興奮しています。素晴らしい作品ばかりです」
「これしかできないですから。キーボード弾くのと作曲しか能が無いので。ほかのことは努力してもダメですね」と笑顔で語る小林さん。これからもエネルギッシュな活動に驚かされそうだ。
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