ダンダダン
第12話「呪いの家へレッツゴー」
12月19日(木)放送分
「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の芥見下々(あくたみ・げげ)さんのマンガが原作のアニメ「呪術廻戦」の劇場版「劇場版 呪術廻戦 0」。2021年12月24日の公開から21日間で累計興行収入が80億円を突破し、観客動員は589万人を記録するなど大ヒットしている。「呪術廻戦」はテレビアニメシリーズでも“神作画”とも呼ばれる映像美が話題になってきたが、劇場版は、テレビアニメと同じくMAPPAが制作し、さらなる映像美でファンを魅了している。テレビアニメシリーズに続き、同作を手がける朴性厚監督は、劇場版を制作する上で「見る人の感情を途切れさせないテンポ感」にこだわり、「テレビアニメシリーズよりリアルな世界観を描きたかった」と語る。映像美の秘密に迫る。
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「呪術廻戦」は2018年から「週刊少年ジャンプ」で連載中。強力な“呪物”の封印が解かれたことで、高校生の虎杖悠仁(いたどり・ゆうじ)が呪いを巡る戦いの世界に身を投じることになる……というストーリー。テレビアニメが2020年10月~2021年3月に放送された。
劇場版は、「呪術廻戦」の前日譚(たん)にあたる原作コミックスの「呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校」、通称“0巻”が原作。虎杖悠仁たちの1学年先輩の世代が登場するエピソードで、幼少期に事故死した幼なじみ・祈本里香の呪いに苦しみ、自身の死を望む高校生・乙骨憂太(おっこつ・ゆうた)が、五条悟によって呪術高専に迎え入れられる。五条の呪術高専時代の同級生だった夏油傑(げとう・すぐる)が敵として登場し、呪霊たちによる非術師の大規模虐殺・百鬼夜行を画策する。
朴監督らスタッフが劇場版を制作する上で大事にしたのは、「呪術高専は変わらない」という共通認識だった。テレビアニメシリーズから呪術高専を「呪術師になるための教育機関」「五条も夏油も、みんな呪術高専で育てていった」と捉え、「それがビジュアルで出ているものではないんですけど、意識として共有することを大事にした」という。「呪術高専はすごく広い場所」とも捉えており、劇場版では背景をよりリアルにした。
「テレビと比べると、映画館の大画面は、ディテールも含めてお客さんの目に入ってくる情報が多い。だから、場面一つをとっても、よりリアルで一つの絵画になるような画面作りをしたかった。その中でまず背景をリアルに描こうと考えました。また、テレビアニメシリーズと若干雰囲気を変えたかったところもあります。0巻は物語が春からスタートして冬までと時系列がシンプルなので、コントラストを強めにして季節の移ろいを見せながら、よりリアルな世界観を描きたかった。実写に近い感じですね」
劇場版は、シネマスコープ(シネスコ)と呼ばれる横2.35対縦1の画角にした。「キャラクターと背景をなじませる」ためで、レイアウトにこだわった。
「一般的なテレビは横16対縦9の画角なのですが、シネスコは横が広いので、キャラクターを撮る上でテレビアニメシリーズと違いが出てくる。収まりが違ってくる。シネスコでは、キャラを中心で撮ってしまうと、キャラの周りに余計な空白ができてしまうので難しさがあるのですが、キャラクターや背景がいい比率でレイアウトできると、大画面で映える。シネスコにすることでカメラのスピード感も出せたので、アクションはうまくハマったと思います」
テレビアニメ「呪術廻戦」は、カメラがキャラクターの周囲を回転するような臨場感あふれるアクションシーンも魅力だ。劇場版では、アクションシーンがよりグレードアップしているようにも感じる。「カメラワークのバランス」にもこだわった。
「アニメは実写と違い、カメラを振り回しすぎると、何が起こっているのかよく分からなくなってしまうところもあります。テレビアニメシリーズであれば、カメラを回して、実写のようなハンディーぶれ、画ぶれを入れると、より迫力が出るのですが、大画面の映画でそれを多用すると、画面が揺れすぎて見づらくなってしまう。今回はスクリーンチェックをして画面が揺れすぎているところは極力抑えたり、カメラワークにこだわりました」
「呪術廻戦」の魅力の一つでもあるカメラワークは、実写作品から学んでいることも多いという。
「僕はアクション映画『ボーン・アイデンティティー』から始まる『ボーン』シリーズのファンなのですが、カメラマンがちゃんとそのアクションを追っかけて撮っているのが好きなんですよね。『呪術廻戦』でもテレビアニメシリーズのころから、カメラマンが画面の中にいてそれぞれのアクションを撮っているというイメージで、リアルさを目指して作っていたんです」
朴監督は、カメラワークが面白いと思った映画の制作ドキュメンタリーなどを見て「あれはどうやったら録(と)れるんだろう」と研究したり、街に出かけてスマートフォンで面白い画面を探したりと「たまに“実験”をしている」と明かす。アニメでは、「アフロサムライ」などで知られる木崎文智監督の影響を受けたという。木崎監督は「劇場版 呪術廻戦 0」にも絵コンテで参加している。
「木崎さんの作品を見ると、カメラがすごく動いているんです。実際にカメラは180度回っていないんですけど、回るように見える技というか。カメラがキャラをドアップで映している間にBG(背景)が置き換わって回っているように見える。そういうところは木崎さんの作品に影響されたところがありますね」
劇場版は、乙骨たちが鍛錬する日常シーン、静かな会話パート、京都、新宿を舞台に繰り広げられる百鬼夜行、呪術高専での乙骨と夏油のバトルシーンと場面転換が多い。その中で観客の感情を途切れさせないために大事にしたのが「テンポ感」だったという。
「今回は一番難しかったのはそこかもしれないです。各パートで編集してつなげてみると、波がすごくあって、テンポ感が違う部分が出てきたんです。シーンごとに音楽が途切れていたりするとダメなので、なるべくつながるような音楽にしてほしい、と音楽プロデューサーの小林健樹さんにむちゃぶりをしたこともありました」
中でも朴監督が手応えを感じているのが、終盤の五条と夏油が会話するシーンだという。
「チーム全体が一致団結して、よりいい雰囲気、テンポ感を作るために頑張ったシーンが五条と夏油のシーンでした。何度も編集して、今の状態になりました。あのシーンは、今後シリーズが続いていく上でも大事な場面だと思っています。一番のお気に入りのシーンでもありますし、見ると涙があふれます」
朴監督は「劇場版 呪術廻戦 0」について「乙骨憂太が主人公の物語ではあるのですが、各キャラの物語でもあります。狗巻棘(いぬまき・とげ)はどんなキャラクターなのか、禪院(ぜんいん)真希はどんなふうに育ってきたのか。そして、五条と夏油の過去の話。人間ドラマがあるからこそ、バトルシーンも生まれる」と見どころを語る。リアルを追求した絵作り、カメラワーク、没入感のあるテンポ。朴監督らスタッフのこだわりを劇場で感じたい。
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