女優と日本舞踊家の“二足のわらじ”で舞台や映像を中心に活躍する藤間爽子(ふじま・さわこ)さん。昨年2月、日本舞踊の流派の一つ「紫派藤間流」の三代目家元として「藤間紫」を襲名。日本舞踊家として話題を集めながら、映像作品でも、「ボイスII 110(イチイチゼロ)緊急指令室」(日本テレビ系、2021年)で初の連続ドラマレギュラー出演を果たすなど、順調にキャリアを積み上げている。1月30日には三代目藤間紫襲名披露公演「紫派藤間流舞踊会」に出演する藤間さんに、公演への意気込みや襲名後の変化、二足のわらじを履くことへの思いなどを聞いた。
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昨年2月28日に三代目を襲名し、紫派藤間流の家元となった。それから約1年がたち、藤間さんは「すごく充実した1年だった」と振り返る。「連続ドラマに出演したり、CMに出させていただいたり、流派で勉強会を開催させていただいたりし。朗読と舞踊のコラボ公演に出演し、自分で振り付けもやってみたり……振り返ると、あっという間でした」と笑顔を見せる。
そうした中で迎える、今回の襲名披露公演。藤間さんは「『ああ、始まるな』と胸がいっぱいな気持ちです。あとはもう自分を信じて、楽しんで踊ることができたらなって思います」と感慨深い表情を浮かべる。今回は1部のラストを飾る長唄「京鹿子娘道成寺」と、2部ラストの義太夫「道行初音旅」に出演。「京鹿子娘道成寺」は今回のメイン演目で、藤間さんは初挑戦。「同年代の舞踊家さんたちが節目に踊ってきているのを見て、ずっと『私も踊らなくちゃ』と思っていたので、この襲名を機に一つの挑戦という気持ちで挑ませていただきます」と覚悟を語る。
45分ほどの時間、一人で踊るハードな演目。女優業もあり多忙な藤間さんだが、オフの日には自ら夜まで稽古(けいこ)場にこもり、「一人で踊り狂っていました(笑い)」と準備を重ねた。「先輩方から『本当に大変だからね、覚悟してね』とさんざん聞かされてきたので覚悟はしていたんですけど……“下ざらい”(通し稽古)で、本番の衣装を着て踊ったら、本当に皆さんがおっしゃる通り大変な踊りだな、と思いました」と苦笑い。ただ、「45分間もこの大舞台でお客様を独り占めできるなんて、すごくぜいたくなことだな、と感じました」と喜びも明かす。
2部ラストの「道行初音旅」では、継承式で初代藤間翔(ふじま・かける)に改名した、兄の藤間貴彦さんと兄妹で演舞。「祖母(初代藤間紫)に、私たちが小学生ぐらいのころに『踊ってほしい』と言われていたんです。そのことを覚えていたので、この襲名と改名を機に、祖母が見たかったものを選ぶのがいいのではないか、と兄と話して決めました。兄とは何度も舞踊会で一緒に踊っていますし、信頼もしていますし、いい意味で気を使わず、言いたいことを言い合える仲。伸び伸びとやらせていただいています」とほほ笑んだ。
日本舞踊家としての顔を持ちながら、女優としても活躍の幅を広げている藤間さん。NHK連続テレビ小説「ひよっこ」(2017年)で若い頃の立花富役を務めたほか、昨年は唐沢寿明さん主演の「ボイスII 110緊急指令室」で初の連続ドラマレギュラー出演を経験し、「本当にいろいろな現場を経験させていただいて、楽しい1年でした」と充実感をにじませる。
「ボイス2」では長期間にわたって作品に携わる経験をして、新たな仕事の楽しみを知ったという。「今までは単発で1、2日撮影して終わって……ということが多く、レギュラーで3カ月みっちり、という経験は初めてだったので、みんなで作り上げていく、ということに携われて、また映像の仕事の楽しみ方を知りました。皆さんと一緒に作り上げていくことや、たくさんの方々の支えがあって成り立っているということを改めて実感することができて、すごく刺激的でした」と得るものは多かったようだ。
1年前の継承式では、日本舞踊家と女優、二足のわらじを履くことについて「日本舞踊をやっているからできる女優の表現や、女優をしているから日本舞踊で生かせる表現がきっとあるはず。(それぞれを)生かせるような舞踊家、女優になっていきたい」と語っていた藤間さん。改めてポジティブな影響を聞いてみると、技術的な側面より、むしろ二つの分野で多くの経験を踏めることが大きいという。
「日本舞踊は公演にもよりますが、大体本番は一回きりなんです。その一回の本番に向けて、1年間お稽古を積むこともあります。でも、やっぱりお稽古だけでは気づけないこと、本番を踏んでみないと分からないこともある。女優業もさせていただいていると、演劇公演や撮影などで、本番を踏む回数が多くなるんです。そうした本番を踏む経験、(人に)見られる経験を積めることがすごくありがたいなと思っています」と藤間さんは語る。
また、共演者から学べるものも大きい。「現場での居方とか、気遣いの仕方とか。自分がどういうポジションに居なければいけないのか、勉強になることがたくさんあります。いろいろな現場に行くと、いろいろな方たちに出会える。ここだけにいたら分からないことも、外の人たちといると見えてくるものがあるんです。また、(劇団の)舞台では、同年代の子たちがすごく熱い志を持ってやっている姿から刺激を受けて『あ、私まだまだ甘っちょろかったな』とか『私はまだまだ駄目だな』と、すごく刺激をいただけます」と前に進むエネルギーになっているようだ。
そんな藤間さんが女優として、日本舞踊家として大事にしていることは。
「作品、役にしっかりと向き合う時間を作る、ということですね。もちろんその場で作る空気に対応することも、特に映像だったら大切かもしれないけれど、その作品とその役、自分自身と、しっかり向き合う時間を大切にしています。そうしなかったら、本番ですぐにそれが見えてしまうから……。自分が納得できるように、『ま、いいか』とはならないように。『ま、いいか』となるのは、本番。舞踊でも、本番までは役と向き合って、最後は捨てる。それまでは、言われたことを全部かき集めて、自分の中で砕き切って、最後に『全部捨てる』という感じで本番にのぞんでいます」
襲名披露公演を目前に控え、今は「目の前のことで精いっぱい」と笑うが、その後に温めている考えもある。「20代の最後に、自分のリサイタルじゃないですけど、何かできたらいいなって思っています。具体的にはまだ決めていませんが、今はぼんやりとそんなことを考えていて。日本舞踊家であり、女優である私ならではの公演をできたらいいな、と思います」と胸に秘めた目標を語ってくれた。
「紫派藤間流舞踊会」は1月30日に国立劇場(東京都千代田区)で開催。1部は午前11時、2部は午後4時15分に開演する。