ギタリストの布袋寅泰さんのアーティスト活動40周年を記念した初のドキュメンタリー映画「Still Dreamin’-布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム-」(石田雄介監督)が2月4日に公開される。映画は、1981年にロックバンド「BOφWY」のギタリストとしてライブ活動を始めてから現在までの軌跡をたどり、その裏側の葛藤や本音にも迫っている。2月1日で60歳と還暦を迎えた布袋さんに、40年の歩みや、映画主題歌「Still Dreamin’」に込めた思い、今後の展望について聞いた。
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布袋さんにとって2021年は活動40周年だったが「コロナ禍という予期せぬ事態になるとは想像もしなかった」という。そんな中でも、8月の東京パラリンピック開会式でのパフォーマンスが話題を呼び、40周年記念の全国ツアーも開催、ニューアルバム「Still Dreamin’」(2022年2月1日発売)の制作、今回の映画の完成など、「大いなる気づきや経験もあり、思った以上に大きな1年になった」と振り返る。
“ウィズコロナ”の生活になって2年余り。布袋さんは、居を構えるロンドンでロックダウンを経験した。映画では、その時期の自宅からの自撮り映像を公開し、コロナ禍での心情を吐露している。
この2年間について布袋さんは、「ただコロナにもがき苦しんだだけではなく、気づいたことも多いと思うんです。時間の使い方や、人との接し方に対する考えをリセットするいい機会になったとポジティブに捉えるべきだと思う」としつつも、「活動してきた40年というのは、ライブをやってきた40年でもあって。もともと、学校や先生についてギターを勉強したわけではなく、レコードで音楽を聴いて、それをライブで試してオーディエンスの反応を見たり。自分自身が気持ちいいと思う瞬間や、逆に足りないところが、ライブでは生々しく返ってくるわけだから、それができなかったこの2年間はやっぱりこたえましたね」と本音をのぞかせる。
この40年間で最も印象的な出来事について、布袋さんは「スタートがなければ今はないわけで、そう思うと、奇跡のようなバンドメンバーとの出会いや、19歳の僕がバンドと一緒にスタートしたというのは、何よりも大切なことだと思います」と原点に挙げる。
一番のターニングポイントだったのは、2012年。デヴィッド・ボウイやザ・ローリング・ストーンズらレジェンド級のアーティストを輩出し、憧れの地でもあった英国に生活拠点を移すことを決めた50歳の時だった。前年に東日本大震災が起こり、「明日が当たり前に来るわけじゃない。その大切な時を、自分は本当に前に向かって、夢に向かって努力しているのか」と自問自答したことがきっかけでもあったという。
「おそらく自分に甘んじている自分がいたというか、自分で布袋寅泰という枠を作って、それを演じ始めていたんだと思うんですよね。でも、もっと自由に自分を開放するようなサウンドや発想、イマジネーションを探していきたいと思ったんです。50歳になったというきっかけもあったし、娘が当時10歳で、(妻で歌手の今井)美樹さんは俺より1歳下ですから、それからの10年というのは、僕らの50代、娘の10代にとって、すごく大切な時期になるだろうなと。僕のチャレンジが一番の理由ではあったけれど、家族のいろんな思いがありました」と決断の経緯について語る。
英国では「ギターを担いでオーディションに行く、というところから始めて。マネジメントもないところから、さまざまな出会いを求めてやってきた」という布袋さん。結果、4度のロンドン公演を成功させ、2014年にはザ・ローリング・ストーンズと東京ドームで共演を果たすなど、着実に夢をかなえてきた。
「いろんなことに挑戦できたし、何よりも、自分が理想としていたギターサウンドや音作りに近づけたということが大きいと思う。あの10年前の思い切った行動は間違っていなかったと思います。もう一度、アーティストとしても人間としても、家族と一緒に一つ一つかみしめながら、模索しながらも新しいスタートをしたという意味では、あの10年があっての今だなとは思いますね」と実感を込めて語る。
映画の書き下ろし主題歌「Still Dreamin’」(同名の新アルバムに収録)は「夢はかなえるよりも追いかけ続けることの方が大切なんだ」というメッセージが込められたナンバーだ。布袋さんが思い描く「夢」とは、どういうものなのだろうか。
「夢という定義も漠然としているんですよね。かなったものが夢として完成したものかといったら、そういうわけではない。むしろかなわぬものだから夢と呼ぶのかもしれないし、追いかけ続けられるものを夢と呼びたいのかもしれない。その中で常にもがいている自分もいる。だからこそ輝くんだと思うんです。それがスクリーンにもちゃんと描かれている。60歳になっても『夢を追い続けることが一番大切なんだ』って言っていると思わなかったし、夢という言葉が自分にとって力になるというのは、すごいことだなって思うんです」と目を輝かせる。
布袋さんは、自らの人生観とも深く関わる「夢は追い続けることが大切」という思いの真意について、さらにこう続ける。「人生は予定調和じゃつまらない。やっぱり予測不能でどうなるか分からないスリルと、そこに懸ける情熱、またその奇跡を信じる力や思いは生きる糧ですよね。僕はルーティンを作るのが苦手なタイプで、行き当たりばったりと言ったら乱暴だけど、知らない道に行けば、知らない何かに出会えるというワクワク感を常に選んでしまう。恐れぬ勇気というか、無理してナンボなんだからあきらめる理由がないというか。俺はまだもう一歩前に進みたいし、あえてチャレンジしていきたい。そう思いますね」と力を込める。
そんな姿が収められたドキュメンタリー映画について、「『Still Dreamin’』というタイトル通り、“今も夢を追い続けている”というリアリティーをきっと感じてもらえると思うので、一人でも多くの人に見てほしい。自分がそう言えることがうれしいし、『一人でも多くの人に見て楽しんでほしい』という作品が出来上がったということは、40年目にして自分自身への大きなご褒美だなって。映画ならではの体験をしてほしいなと思います」とアピールした。
布袋さんは、2021年大みそかの「第72回NHK紅白歌合戦」に初出場するなど、これまでも幅広いアーティストと共演をしてきた。最近の日本の若手アーティストに対して、「テレビやYouTubeを見て、『ん? これ誰?』って思うことは多いですね。今の人たちはいろんなメディアからいろんな吸収のし方をするから、音楽の理論を超えた発想だったり、複雑かつ緻密な音楽が多いなと思って感心します。と同時に、もうちょっと大胆でもいいんじゃないの?とも思いますね。でもすごく新鮮だし、驚きだし、僕には全くない感覚を持っている。そういう意味では、若いアーティストからすごく刺激をもらっているし、期待しています。思う存分、自分だけの世界を築き上げていってほしいなと思いますね」とエールを送る。
2月1日は自身の60歳の誕生日。「還暦は還暦らしく、でも堂々と、夢見る還暦でいたいですね。つらい現実よりも、その先の光みたいなものを信じて追いかけていきたいと思う。若ぶることなく、大人ぶる必要もなく、表現者としても人間としても、自分らしく生きていける、そんな扉がまた開くのかなという感じですね」と心境を語る。
さらに「70歳になる10年後は……?」という問いに、「身長が10センチくらい小さくなっているかもしれない(笑い)」とジョークを交えつつ、「ある意味、布袋寅泰というスタイルはずい分前に完成しているので、それを磨いていくしかない。年齢と共にサビつきながらも、それが味になっていくんだろうし、そんな、今にはない魅力が醸し出せるアーティストでありギタリストでいたいと思いますね。ギターを持つとギラつく自分がいるんです。人は年を重ねるごとに丸くなりますけど、そこは拒否せず、丸くなりながらも、ギラつく部分は何が何でも守っていきたいなと思います」と笑顔で語った。
(取材・文・撮影/水白京)
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