UFC272:コルビー・コビントン&ホルヘ・マスビダルが因縁の対決! “世界のTK”高阪剛が見どころ語る

コルビー・コビントン選手(左)とホルヘ・マスビダル選手 (C)Getty Images
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コルビー・コビントン選手(左)とホルヘ・マスビダル選手 (C)Getty Images

 米ラスベガスのT-モバイル・アリーナで開催される総合格闘技(MMA)イベント「UFC272」が3月6日正午(日本時間)から、WOWOWで生中継・同時配信される。メインイベントとして、ウエルター級ランキング1位のコルビー・コビントン選手と6位のホルヘ・マスビダル選手の試合が行われる。アメリカン・トップチームの盟友同士による因縁の一戦について、WOWOW「UFC-究極格闘技-」解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛さんが見どころを語った。

ウナギノボリ

 --「UFC272」のメインはコビントン対マスビダルのウエルター級マッチが組まれました。ノンタイトルの試合がUFCナンバーシリーズのメインイベントになるのは久しぶりですね。

 マスビダルはネイト・ディアス戦(2019年11月「UFC244」)の時もメインでしたよね。そう考えるとマスビダルが出れば、タイトルがかかっていてもかかっていなくても、メインイベントが成り立つという図式ができあがってますよね。

 --両者ともに激戦区ウエルター級の上位ランカー同士。しかも、ここ数年は王者カマル・ウスマンにしか負けてないですからね。

 コビントンもマスビダルも、ウスマンと2試合ずつやっていますけど、その計4試合を今回改めて見直してみたんですよ。そこでまず感じたのは、コビントンはああいう傍若無人なキャラクターですけど、実はものすごい努力家なんだろうな、ということですね。ウスマンとの1戦目と2戦目を比べてみても、明らかにいろんな面で向上していたし。格闘技に対してクソ真面目だからこそ、あえてその裏返しでトラッシュトーク(汚い言葉を使った挑発)をやってるんじゃないか、と思わせるくらいテクニカルなんです。

 --コビントンはかつて、戦績は良いのに試合が地味でリリース寸前までいったことがあったので、チェール・ソネンを参考にして自分をキャラ付けしたと発言していたことがありましたからね。

 コビントンが、いわゆる“地味強”に見えてしまった要因というのは、それもこれもレスリング能力が高いからだと思うんですよ。

 --王者ウスマンもそうですけど、レスリング能力が高くてトップコントロールが巧みな選手は、地味に見られがちですよね。

 そしてコビントンは2度目の試合で、そのウスマンからテイクダウンを奪ってるんですよね。ウスマンはそれまでテイクダウンディフェンス100パーセントでしたよね?

 --はい。UFCで一度もテイクダウンを許していませんでした。

 コビントンがウスマンとの再戦の3ラウンドにタックルで倒した時、これがテイクダウンと認められるかどうか現地の実況でも物議を醸してましたけど、タックルからバックを取って崩してウスマンの両手をマットにつかせているので、あれはレスリング的にはグラウンディングなのでテイクダウンなんですよ。

 --一応、UFC公式記録では、いまだウスマンのテイクダウンディフェンスは100パーセントのままですけど、コビントン自身は「テイクダウンを奪った」と言っているようです。

 それぐらい、自分の中でもうまくいった手応えがあったんでしょう。あの時、サウスポーの構えから左タックルにスイッチして入ってるんですよ。その前は、逆にサイドにタックルで入って、それはウスマンに2回切られてるんです。でも、3ラウンドでは逆側にタックルで入ったので、ウスマンはまったく反応ができなかった。

 --裏を突かれたわけですね。

 あのシーン一つとっても、コビントンはあれだけのプレッシャーの掛け合いの中で、すごく冷静に判断ができる選手なんだなと感じましたね。普通、ウスマンにプレッシャーを掛けられて、ジャブを被弾している状態でタックルを2度切られたら、あたふたしてもおかしくないところで、冷静に自分のほうに流れを引き寄せるものを試合の中で出せた。そこがウスマン戦の1戦目と2戦目の違いですね。

 --1戦目は後半、ウスマンが完全にペースを握りましたけど、2戦目は最後まで一進一退でしたもんね。

 そうなんですよ。2戦目はコビントンに試合が傾いている瞬間が何度か訪れていて、一方的にペースを握られていたわけではなかった。最終的に勝つまでには至らなかったけれど、ウスマンの牙城に最も近づいた選手であることは確かです。だからコビントンという選手は、キャラ付けされた先入観を省いて見ると、ものすごくテクニカルなファイターだと思います。逆に言えば、その真の姿を隠すために、あえてあのキャラを演じてるんじゃないかな。

 --一方、マスビダルのほうは根っからのファイターという感じですよね。

 マスビダルは自分からプレッシャーをかけて、蹴りなりパンチなりを被弾させて、相手がちょっと隙(すき)を見せたところを見逃さず仕留められる選手。あれこそ天性の感覚、野性の勘のようなもので、マスビダルの強さの根本にはそれがあるんだと思います。

 --隙がない自分を作り上げるというより、相手に隙を作らせてそこを突ける選手。

 1試合の中で一つのミスもせずに完璧に試合展開をこなすっていうのは、どんなに完成度の高い選手でもやっぱり難しいんですよ。だから現王者のウスマンや、元王者のジョルジュ・サン・ピエールのような難攻不落タイプでも、試合中に何度かは隙を見せていて、マスビダルはそこを嗅ぎつける能力が高い選手なんです。

 --わずかなチャンスを見逃さないわけですね。

 しかも、自分からプレッシャーをかけて相手のミスを誘うのもうまい。だからダレン・ティル戦なんかでは、ずっとオーソドックスの構えで戦っていたのが、急にサウスポーにスイッチして、「あれ?」ってなったところに、フェイントから左フックを入れたりしていましたから。その野性的な感覚がマスビダルの強みですね。

 --では、実は努力家で隙のない自分を作り上げるコビントンを、マスビダルがどれだけ崩せるかがポイントになりそうですか?

 そうですね。正直、レスリング技術はもちろん、打撃とタックルの混ぜ方なんかも含めて、コビントンのほうがいろんな武器は持っていると思うんですよ。でも、劣勢になったとしても、一発で試合をひっくり返せるだけの力をマスビダルは持っている。マスビダルは多少被弾しても、相手がチャンスだと思って向かってきた時にカウンターを合わせるのも得意だから。相手が勝負に来た時が、自分にとってチャンスだという感覚があるでしょうね。

 --殴り合い上等で、競り合いの中から勝ちをつかむという。

 だからマスビダルの試合は面白いんだと思います。一筋縄ではいかないし、逆転が起こる可能性が高いので。コビントンは意を決して前に出る時、結構被弾するんですよ。そして打撃VS打撃になった時、マスビダルの方が強いパンチを持っているし、打ち合いに強い選手なので、もしコビントンがちょっと雑に前に出てきたりしたら、マスビダルが強打で倒す可能性が高くなる。ただ、コビントンがケージレスリングも含めたタックル中心の戦い方を仕掛けてくると、マスビダルの良さが消されてしまうかもしれない。

 --マスビダルの1回目のウスマン戦が、そんな感じでしたもんね。では、勝負はマスビダルがどれだけ“ケンカ”に持ち込めるかどうかですかね。

 たぶんマスビダル自身、そうしないと勝てないと思っているはずなんですよ。試合前のトークで吹っかけたり、頭に血をのぼらせるための布石をいろいろと打っているのも、自分のペースに持ち込むためのものですよね。そして、殴り合いに持ち込めばめっぽう強いので、コビントンvsマスビダルは、そういった事前の駆け引きも重要になってくるんじゃないかな。単なる試合を盛り上げるためのトラッシュトークの応酬ではなく、それが戦いにも直結するような試合になると思いますね。

 *……試合の模様は、「生中継!UFC‐究極格闘技‐ UFC272 in ラスベガス コヴィントンvsマスヴィダル、因縁の決着!」と題して、3月6日正午にWOWOWライブで生中継。WOWOWオンデマンドでも同時配信される。3月12日午前1時には、WOWOWライブ・WOWOWオンデマンドでリピート放送・配信される。

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