ドラゴンボール:普遍的な魅力と進化 新作劇場版で「今の最高の表現」目指す

「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」のビジュアル(C)バード・スタジオ/集英社(C)「2022ドラゴンボール超」製作委員会
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「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」のビジュアル(C)バード・スタジオ/集英社(C)「2022ドラゴンボール超」製作委員会

 鳥山明さんのマンガが原作の人気アニメ「ドラゴンボール」シリーズの21作目となる劇場版アニメ「ドラゴンボール超(スーパー) スーパーヒーロー」(児玉徹郎監督)が、公開された。2018年12月公開の第20作「ドラゴンボール超 ブロリー」以来の劇場版で、原作者の鳥山さんが脚本・キャラクターデザインを担当したことも話題になっている。「ドラゴンボール」は時代、世代を超えて愛され続けている。原作の連載終了後も進化が止まらない特異な作品だ。集英社のドラゴンボール室の室長を務める伊能(いよく)昭夫さんに「ドラゴンボール」の普遍的な魅力、新作劇場版の進化について聞いた。

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 ◇もっともっと世界的に広げるために

 「ドラゴンボール」は「週刊少年ジャンプ」(集英社)で1984~95年に連載された。伊能さんが室長を務めるドラゴンボール室が誕生したのは連載終了から20年以上たった2016年だった。そもそも何をする部署なのだろうか? 簡単に説明すると「編集とライツが一緒になったようなもの」だという。

 「まず『ドラゴンボール超』の編集担当として作家さんとマンガを作っています。マンガを作る以外にも『ドラゴンボール』に関する仕事を全部担うのが、ドラゴンボール室です。集英社ではほかの作品に“室”はないですし、ちょっと特殊な組織体系なんですね。例えば、今回の映画にしても、立ち上がりは5年くらい前にさかのぼりますし、ゲームを作るにしても開発に5年くらいかかり、運営するとなるとさらに10年かかることもあります。長いスパンで、コンテンツに取り組む部署として誕生しました。『ドラゴンボール』がさまざまな形で続いている中で、編集、ライツなどの垣根を越えて目標、足並みをそろえようとしています」

 「ドラゴンボール超 ブロリー」は、全世界の興行収入が135億円を突破するなど大ヒットした。目標、足並みがそろったから大ヒットしたところもあったのかもしれない。

 「『ブロリー』の時に大きな課題だったのが、世界展開でした。世界でどれくらい人気があって、どれくらい広げることができるのか……とある程度見えていたところはあったのですが、もっと可能性があるとも思っていました。ブロリーというキャラクターは世界的に人気があるので、世界に対して投げかけるなら、このキャラクターだろう!と始まったところもありました。結果として100%できなかったところもありますが、特に北米と中南米に関してはいい結果が出ました。『ブロリー』があったから劇場版の『鬼滅の刃』『呪術廻戦』の海外の成功もあったとも思う。『ドラゴンボール』は、新しいことをする役割のある作品ですし」

 「ドラゴンボール」は、ハリウッド大作とも戦える世界的コンテンツになり得るポテンシャルがある。伊能さんは「もっとできるかもしれない……と常々思っている」とも語る。

 「海外の作品とストレートに比べるわけではありませんが、映画というフォーマットでやるのであれば、もっとできるんじゃないか?という余地があると考えています。『ドラゴンボール』は、日本のコンテンツの中で最も海外の認知度も高く、いろいろな国と地域に広がっているので、もっともっと世界的に広げることができる」

 ◇ビジュアル、ストーリーの魅力

 「ドラゴンボール」の連載が始まったのは約38年前だが、時代や世代を超えて愛され続けている。いまだにファンが増え続けている特異な作品だ。伊能さんは「ドラゴンボール」の普遍的な魅力の一つとして「間口の広さ」を挙げる。

 「マンガの表現が進化していく中で、近年のマンガは、読み手にある程度の能力が必要となる作品もあります。でも、『ドラゴンボール』は間口が広いので、ある瞬間に触れると、作品の世界に入り込むことができるんです。どこから見ても楽しめます。だから、マンガ、ゲーム、アニメなどで“ある瞬間”を作らないといけない」

 「ビジュアル」「ストーリー」も大きな要素だ。鳥山さんのキャラクター、ストーリーには普遍性がある。

 「実はシンプルなデザインなんですけど、本当にすごいんです。幅の広さも圧倒的です。普通は考えられない形状のキャラクターも出てくるけど、小さい子供にも分かりやすい。キャラクターがここで出てきて、どうやってしゃべるかなどにも天才的なひらめきもあります。理詰めではない魅力もあって、理屈を飛び越える強さがあります。私もびっくりすることが多いですから。マンガを作る時、設定ありきで、組み立てていかないと不安になるところもあるのですが、それを飛び越える力があるんです。マンガというカテゴリーだけでは収まりきらないいろいろな力を持っています」

 進化し続けているのも「ドラゴンボール」のすごさだ。「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」のビジュアルを見ても進化を感じられるはずだ。

 「昨日より今日、今日より明日……というところがあるのでしょうし、鳥山先生は、ファッションやエンタメなどいろいろなことに敏感なんです。ブルマの衣装を見ると、毎回変わっていて、そこにトレンドが出ているんですよ。ほかのキャラクターでも小物、例えば靴やスニーカーを見ても今っぽい。今回、キャラクターのビジュアルが新しくなっていますが、鳥山先生にやっぱり毎回こう変えたい……という気持ちがあったからなんです。本当にご本人がやっているのか?と言われることもありますが、ご本人がやっています」

 ◇新作で日本のアニメの歴史を変えるはず

 「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」は、レッドリボン軍が復活することも話題になっている。レッドリボン軍は、テレビアニメ第1作「ドラゴンボール」で初登場した悪の組織で、悟空と深い因縁がある。

 「『ブロリー』は宇宙規模の戦闘だったので、次は地球で……という話をしてから、鳥山先生がすごいスピードで、プロット、骨子を書き上げられました。『ドラゴンボール』は基本的に、強大な敵が出てきて、それに向かって立ち向かうことになります。地球を舞台とした時、地球で新たな強大な敵が出てくるのは、ストーリーとして難しいかもしれません。レッドリボン軍が“個”ではなく“集団”であるところもキモになっています。集団なので、いろいろなキャラクターがいて、それぞれがいろいろなことを考える。そこに対抗していくのが面白い。これまでにないストーリーになっています」

 先述のように“理詰め”だけではない“飛躍”も「ドラゴンボール」の魅力だ。レッドリボン軍の再登場によって、どんな広がりを見せるのか?にワクワクするファンも多いはずだ。

 映像表現でもチャレンジがあった。

 「新しい表現ですが、基本的に心配していませんでした。違和感は全然ないと分かっていたし、これまでにないすごいものができるに違いない!と思っていました。今回、日本のアニメの歴史を変えるはずです。アニメの表現はどんどん更新されている中で、ファンが見る目も厳しくなっていて、映像の細部まで目がいってしまう。クオリティーを上げるためには、平均を高くしないといけない。本当に細かいところまで作り込んでいます。海外を含めたほかの作品に勝てる表現は、ここにあるはずです。すごくいいものになっています。今の最高の表現はこれだ!と感じています」

 伊能さんは「鳥山明先生は新しい表現を求めているし、『ドラゴンボール』は一番新しいことをしないといけない」とも話す。悟空が強大な敵に立ち向かうために、どんどん強くなるように、「ドラゴンボール」の表現も進化を続ける。細部までこだわった「最高の表現」を堪能してほしい。

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