機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島:CG制作の裏側 “安彦”ガンダム、異形のドアンザクを表現

「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」の一場面(C)創通・サンライズ
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「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」の一場面(C)創通・サンライズ

 アニメ「機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)」のアニメーションディレクターやキャラクターデザインなどを担当した安彦良和さんが監督を務める劇場版アニメ「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」。「ガンダム」シリーズは、手描きのモビルスーツ(MS)戦が魅力の一つにはなっているが、「ククルス・ドアンの島」のMSは、ほぼCGで描かれ、最新技術によって、新たな表現にも挑戦した。スタッフの証言からCG制作の裏側に迫る。

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 ◇“紙派”安彦監督をうならせるクオリティー

 「ククルス・ドアンの島」は、1979年に放送されたファーストガンダムの第15話のエピソードで、主人公のアムロ・レイ、敵対するジオン軍の脱走兵ドアンの交流を通じて、戦争の哀愁が描かれた。劇場版では第15話を改めて描く。ファーストガンダムは40年以上にわたって愛されており、「ククルス・ドアンの島」は、伝説のエピソードということもあり、思い入れが強いファンも多い。劇場版「ククルス・ドアンの島」は、ファーストガンダムらしい懐かしさを感じつつ、今の時代だからできる新しい表現に挑んだ。

 RX-78-02 ガンダムやMS-06F ドアン専用ザクなどが登場し、チャンバラ映画のような躍動感のあるMS戦を繰り広げる。MSのアップを見ると、作画(手描き)のようにも見える。「ククルス・ドアンの島」で3D演出を担当したCGアニメーションスタジオ「YAMATOWORKS」の森田修平さんによると「回想シーンに出てくるMSは作画ですが、それ以外は一部作画はあるもののほぼCGです。MSのアップは、作画と思われる方が多いようですが、CGなんです。今回は『CGでレイアウトとか含めてやらせてほしい』とお話しさせていただき、OKをいただきました。できるのかな?と不安だった方も多かったと思いますが」というから驚きだ。

 「ガンダム」シリーズでは、2021年公開の劇場版アニメ「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」(村瀬修功監督)でも作画とCGを融合することで新たな表現を実現した。森田さんが率いるYAMATOWORKSは「閃光のハサウェイ」にも参加しており、そのノウハウが「ククルス・ドアンの島」に生かされた。

 安彦監督に「僕は紙派なので、CGは分からない。お手並み拝見というところでした。CGっていうのはちょっと機械的で冷たくなるんじゃないかな?と心配なところもあったんですが、柔軟にやっていただいています。『紙には負けないぞ!』という意気込みがあるのでしょうね。これだけできるなら、『アニメーターはいらないんじゃないの?』と言ったこともあるんですけど、現時点では手間が大変みたいです。誰でもできるわけではないでしょうし」と言わしめるほどのクオリティーになった。

 ◇ガンプラを参考に

 テレビアニメ版「ククルス・ドアンの島」に登場するドアンザクは、細身で“鼻”が長いなど異形だ。劇場版「ククルス・ドアンの島」では、メカニカルデザインのカトキハジメさんがMS-06F ドアン専用ザクとしてデザインした。その独特のフォルムをCGで表現した。

 森田さんは異形のドアンザクのデザインについて「CGにする際は、最初に普通のザクを用意し、カトキさんと一緒にデザインを構築していきました。微妙な鼻の伸び具合も、顔にちょっとスリットを入れたら格好よくなったり、修正しながら、バランスを考えていったんです。ドアンザクを修理するように、修正していきました。最初はできるのかな?とも思いましたが、結果的には細マッチョでヒーローのようなドアンザクになりました」と語る。

 CG制作にあたり、キャラクターデザイン、総作画監督の田村篤さんが“安彦風”デザインのガンダムとドアンザクのプラモデルを自作し、スタッフに参考にしてもらったという。CGで“安彦風”デザイン、カトキさんのデザインを両立することが、田村さんのこだわりだった。

 「カトキさんがデザインしましたが、安彦さんのコンテに合わせて動かさなければいけません。カトキさんのデザインと安彦さんの絵は、方向性が違うので、その両立を目指したいという話になり、CGのスタッフの方と打ち合わせをする際、プラモデルを使って、ここの脚の細さはこれくらいにしたらいい……と説明しました。安彦さんが描くガンダムの顔、カトキさんがデザインしたガンダムの顔も違うので、メカニカルな格好よさを見せたいところはカトキさんのデザインにするなどカットによって、いいとこ取りをしようとしました。カトキさんのデザインは立体としての格好よさがあります。安彦さんのメカはキャラクターとしての楽しさ、肉体感があります。安彦さんのメカは、乗っている人のキャラクターが乗り移ってるんですよね。両方のいいところをどうやったら出せるんだろう?というのが、この作品のチャレンジでした」

 森田さんが「田村さんがガンプラでデザインを翻訳してくれて、安彦さんらしいデザインの特徴がよく分かったんです。ガンダムにしても、目の下の赤い部分、ひさしなどのバランスで表情が変わります。表情が豊かなんです。絶妙なバランスを表現しようとしました」と話すように、CG、作画のスタッフが協力しながらチャレンジした。

 ◇MSをキャラっぽく見せる

 大河原邦男さんがデザインした高機動型ザクが登場することも話題になっている。高機動型ザクは、スケーターのような動きを見せる。スケーターのような動きを提案したのは、安彦監督だった。CGは軽く見えてしまうこともあるが、森田さんは「最初は、スケートかあ……と思っていたんです。ホバーだったら重みが出るけど、スケートは動きが軽いので、重みを表現できるかな?と不安もありましたが、作画のエフェクトの効果もあって重みのある滑りになりました。今回は地上戦が中心です。地上で重みを感じるためには、重心が大切になります。腰をしっかりさせたり、傾けたり、重心をコントロールするなど3Dアニメーターたちが頑張ってくれました」とMSの重みを感じる映像を目指した。

 CGを駆使したMS戦は重力を感じるし、殺陣のような動きは臨場感にあふれている。重みを感じつつ、人間のように軽やかに動くというバランスも絶妙だ。

 イム ガヒ副監督は、制作の裏側を「森田さんと方向性を決め、モビルスーツをキャラとして扱おうとしました。YAMATOWORKSさんが作画のメカの動きをすごく研究してくださって、CGでメカをキャラっぽく見せる表現ができたと思います。可動域にしても、どこまでやっていいのかな?と悩みましたが、動かしながら、フォルムを見せ、メカらしさも残しつつ……。本来、18メートルのガンダムは地上であんなにジャンプしないはずですが、人間のように動かすと格好いいんですよね。安彦さんのコンテを信じて制作しました。スタッフが目指す方向が一致していましたし、皆さんの腕がすごいので、CGチェックが楽しかったです」と明かす。

 CGだから実現した新たな映像表現を堪能してほしい。

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