キングダム2:製作費は“普通の邦画”7本分 プロデューサーが語るチャレンジとコロナ禍の苦難

映画「キングダム2 遥(はる)かなる大地へ」の松橋真三プロデューサー
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映画「キングダム2 遥(はる)かなる大地へ」の松橋真三プロデューサー

 原泰久さんの人気マンガが原作で、山崎賢人さんが主演を務める実写映画第2弾「キングダム2 遥(はる)かなる大地へ」(佐藤信介監督)が7月15日に公開された。古代の中国を舞台にしたスペクタクル活劇として2019年に公開され、57億円超の大ヒットを記録した前作から3年。「普通の邦画5本分」だったという前作をさらに“2本分”上回るという莫大(ばくだい)な製作費で本作の製作を実現させたのが松橋真三プロデューサーだ。高いハードルとなりがちなマンガの実写化や、コロナ禍における製作体制など、数々の苦難について聞いた。

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 「キングダム」は、2006年からマンガ誌「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中の原さんの人気歴史マンガ。コミックスは65巻まで刊行されており、累計発行部数は9000万部を超えている。中国の春秋戦国時代を舞台に、天下の大将軍を目指す信や、後に「秦の始皇帝」となる秦王・エイ政たちの活躍を描く。続編となる今作では、天下の大将軍へ夢の第一歩を踏み出した信(山崎さん)の初陣となる“蛇甘平原”の戦いが描かれる。

 映画化のプロジェクトがスタートしたのは2016年。「日本のマンガ文化は世界に誇れる宝の山。しかし、人気の原作であればあるほど、予算などの制限なくクリエイティブ面にこだわることのできる環境が必要であり、「キングダム」も、そのような環境が整わなければ、原作の壮大な世界観を映像で表現することは難しいだろうと思っていた」と語る。

 しかし、ソニーコロンビアピクチャーズのサンフォード・パニッチ代表から、日本でのローカルプロダクションの計画への参加を持ちかけられた。「年に何本という枠を埋めたいわけではない。1年に1本でいいから歴史を変えられる作品を」というパニッチ代表の考えに対し、「製作費がものすごくかかるけど、すごい作品がある」と、松橋さんが提案し、「キングダム」の実写映画化が始動した。

 実際のところ、最終的に製作費は全国300スクリーンで公開される“一般的な邦画”の5本分にも達する規模となった。しかし、かつて20世紀フォックスで予算超過していた「タイタニック」を担当し、大ヒットに導いた経験もあるパニッチ代表は見守ってくれていたという。

 脚本は、現在大ヒットドラマ「マイファミリー」(TBS)でも注目を集めている黒岩勉さんに原作者の原さんも全面協力。松橋さんは「原先生は、パート1、今回のパート2ともに作品の“キモ”になる部分のアイデアをくださった」とコメント。「原作は週刊連載に合わせた物語の起伏があるので、それを映画にしようとすると、約2時間の“旅”を描かなければいけません。原作から、どのような旅の物語を見出すか、原先生自らアイデアを出して下さり、時に決定的なシーンについては、わかりやすくネームを書いて伝えてくださったり。その過程で、原作にはない、奇跡的なセリフが浮かんできたこともありました」

 松橋さんは「非常に幸運でもあり、素晴らしくクリエーティブな作業でもありました」と脚本作りを振り返る。

 ◇「ちょっとやそっとのヒットじゃ無理」だった続編 コロナ禍でも奮闘

 2019年に公開されたパート1。かなりの製作費が費やされただけに、「続編は、ちょっとやそっとのヒットじゃ無理と言われていて(笑い)。私だけはただ一人冷静ではなく、勝手にロケハンしたりして、いつでも続編に取りかかれるように準備していました」と明かす松橋さん。初日3日間の興行成績から最終興行収入は30億円程度と予測されていたが、「作品力があるので、口コミで広がって全然下がらなかった」と予想を大幅に上回るヒットを記録。公開から約1カ月で続編製作が決まった。

 今回のパート2は、信の初陣となる“蛇甘平原編”と、初登場となる羌カイ(清野菜名さん)の物語で構成されている。松橋さんによると、蛇甘平原の戦いの中で信の成長と羌カイとの出会いと、羌カイの変化を描いていく方針になったといい「原先生は、羌カイの抱える問題を浮き彫りにして、50ページぐらいのネームを書いて来られたんです」と明かす。

 “蛇甘平原編”は、多くの人が参加し、馬も登場する戦場が舞台。「普通の邦画5本分」だったパート1の製作費に対し、今回はさらに上乗せした「7本分ぐらい」。万全の体制で撮影を迎えようとしていた矢先に訪れたのがコロナ禍だった。

 中国での最後のロケハンが2020年1月3日。そこから同4月のクランクインを目指し、セットも半分ぐらいまで組まれていたという。大ヒット作の続編とあって「『キングダムはどうするの?』と言われる立場。ここでたたんだら映画界の火が消える」と松橋さんは奮闘。ハリウッドからコロナ禍の撮影ガイドラインを取り寄せたり、病院と業務提携して感染症対策を徹底したりと、万全の体制で2カ月遅れの6月にクランクインすることができた。日本での撮影も増やすなど、あらゆる手段を講じつつ21年10月にクランクアップ。1人の感染者も出さなかったという。

 ◇主題歌「生きろ」で感じた体験

 撮影中に「Mr.Children」の曲をよく聴いていたという松橋さん。「終わりなき旅」などに「キングダム」と通じるものを感じていたという松橋さんは主題歌をMr.Childrenに依頼したいと考え、脚本を携えて事務所でプレゼンを敢行。数カ月後に「返事をしたい」と連絡をもらった松橋さんが事務所へ向かうと「実は曲ができました」という桜井和寿さんからの手紙とともに、主題歌「生きろ」のデモ音源が用意されていた。

 歌詞も桜井和寿さんが台本と原作を読み込み、映画のパート1も見て書いたといい、松橋さんは「黒岩さん、原さんと作り上げた台本の物語を、桜井さんがご自身の中に取り込まれ、素晴らしい歌詞とともに『生きろ』というタイトルまで付けてくださった。トップクリエーターの皆さんが集結して、いろんなことが積み重なっていって『生きろ』という一つのテーマに集約されるという、ものすごい経験をしました」と興奮気味に振り返る。
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 「予算を考える立場としては、パート1が当たったら、パート2も同程度の予算で、というのが定石。でもこの作品については、規定概念は捨てました」と笑う松橋さん。「日本映画の歴史を変える巨大なシリーズにしたい。今までのハードルを超えて、それ以上のものを作り続けるシリーズとしてずっとチャレンジしていきたい」と語る。その遥かなる地平を見届けたい。

※山崎賢人さんの「崎」は「たつさき」

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