機動戦士ガンダム サンダーボルト:見たかった「ガンダム」を作る MSデザイン秘話 太田垣康男に聞く

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 太田垣康男さんのマンガ「機動戦士ガンダム サンダーボルト」が連載10周年を迎えた。「ガンダム」シリーズのマンガは数あれど、「サンダーボルト」は異彩を放っている。「サンダーボルト」は、初代「機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)」の設定から逸脱していないものの、自由な発想で描かれているように見える。モビルスーツ(MS)のデザインも独特だ。太田垣さんに執筆の裏側を聞いた。

 ◇大河原デザインの目力

 「機動戦士ガンダム サンダーボルト」は、「MOONLIGHT MILE」などで知られる太田垣さんのマンガで、「ビッグコミックスペリオール」(小学館)で2012年に連載をスタート。一年戦争のサンダーボルト宙域での地球連邦軍とジオン公国の戦い、一年戦争後のジオン残党軍、連邦、南洋同盟の戦いなどが描かれ、プラモデル化、アニメ化されるなど人気を集めている。アニメ版は「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」「機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)」と共にテレビエディションとして、2023年1月からMBS・TBS系の日曜午後5時のアニメ枠“日5”で放送されることも話題になっている。

 太田垣さんは過去に「サンダーボルト」のメカは3Dモデルを使って描いていると語っていた。手描きのような力強く、迫力のある線にも見えるが……。

 「連載が始まる前にLightWaveというソフトでモデリングを勉強しました。まだ技術が足りなかったので、関節などを動かすことがなかなかできなかったのですが、武器や戦艦などのモデルを作って、ComicStudioというソフトでレンダリングして、線画を抽出し、そこに加筆していくっていう形で描いていました。サイコ・ザクが背負っている装備などはモデルです。腱鞘炎になる前まではその方法で描いていました。単にレンダリングしただけでは勢いがないし、線の太さも同じになってしまうので、そこに加筆していました。技術が必要で時間がかかるし、手数が増えるんです。それで手を痛めてしまったんです。今は、ほぼ手描きというスタンダードな形に戻っています」

 2018年、太田垣さんは腱鞘炎のため、第109話以降の画風を変えた。「画風を変えたのが転機でした。それがあったから連載を続けていく新たな執筆体制を作ることができたんです」という。

 「サンダーボルト」はMSのデザインも魅力的だ。「ファーストガンダム」や「MSV」のMSのような雰囲気や独特の泥臭さがある。オールドファンのツボを押さえつつ、新しく見えるのが不思議だ。

 「スタイリッシュさはないですね(笑い)。兵器を意識してるからだと思っています。商業デザインの世界では、スタイリッシュさや遊びが必要で、洗練されたデザインになりますが、兵器にはそれが必要ない。兵器として合理性を突き詰めていくと泥くさく、質実剛健になっていきます。『サンダーボルト』のMSのデザインも基本的にそこを意識しています。ただ、戦後(一年戦争後)に開発されたアトラスガンダムは、流線型も入っています。そういう遊びがあるのは、平和になった証拠なんです」

 ガンダムやザクなど数々の名機をデザインしてきたのは、 大河原邦男さんだ。「ガンダム」シリーズのアニメ第1作「機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)」は1979年に放送を開始した。大河原さんが手がけたデザインは、40年以上にわたって愛され続け、さまざまなバリエーションが生まれてきた。太田垣さんは、MSのデザインをリファインする中で「目力」が重要と感じているという。

 「大河原先生がデザインされたMSは、目の形だけで、どのMSかが分かるんです。記号化されていて、放送当時は正直あまり魅力を感じていませんでしたが、実際に自分がデザインをリファインし始めた時、目力の強さを再発見しました。リファインする時、基本的に目は当時のままです。目を変えるとほかのものになってしまうんです。例えば、ジオングはやや垂れ目ですが、つり目にすると“らしさ”がなくなってしまいます」

 「サンダーボルト」のガンダムは“悪人面”とも言われている。目は変えていないといい、「面長に変え、鼻筋を強調し、大人の顔にしています。それで悪役に見えるんです。昔のガンダムは少し丸みがあって、子供の顔なんです。目、パーツはガンダムと同じです」と説明する。

 ◇歴史ものをやりたいわけではない

 設定もアレンジしているが、「ガンダム」シリーズの“正史”とされている設定とは、“別の世界線”を描こうとしているという。

 「『サンダーボルト』は、独特の立ち位置の作品です。通常は『ガンダム』の世界観、歴史、設定に準じないといけなくて、細かい設定考証も入ります。『サンダーボルト』は連載開始の段階から『別の世界線で描きたい』とお願いして、始めたんです。当時、サンライズから『正史じゃないのでガンプラにもならないし、アニメにもならないですけどいいですか?』と言われましたが、マンガとして自由に描きたかったので『構いません』と連載を始めました。元々パラレルワールドなんです。最近それを言い出したわけではなくて、最初からそういう合意の上、進めていました。アニメやガンプラになったのは、ファンの方々の後押しがあったからです」

 アナハイム・エレクトロニクスが開発したZガンダムやガンダムMk-IIが登場したことに驚かされたファンも多かったはず。「機動戦士Ζガンダム」の設定では、ガンダムMk-IIはアナハイム製ではない。

 「『ガンダム』の世界観、歴史の中でいろいろな企業があるのは知っていますが、『サンダーボルト』では『ファーストガンダム』のテレビシリーズ、劇場版3部作のその先を描きたくて、『Z』『ZZ』はあまり意識していません。答え合わせのような作り方が嫌なんです。このキャラクターは死んでしまう……と先を意識しないですし、歴史ものをやりたいわけではないんです。次に何が出てくるのか分からないワクワクを残したかったので、設定に縛られない作り方をしています」

 地球連邦軍のパーフェクト・ジオング、 南洋同盟のパーフェクト・ガンダムが激突するなど独自の展開に驚かされることが多々ある。「ガンダム」シリーズを知っている人ほど、そうくるのか!?と驚かされ、ワクワクするはずだ。

 「『ガンダム』の世界をずっと見てきた人は驚いていただけるでしょうし、『ファーストガンダム』を子供の頃に見ていて、『MSV』の模型を作っていたけど、最近はあんまり見てない人に読んでいただきたいと思っています。その人たちに喜んでいただきたいんです。自分が見たかった『ガンダム』を作りたいという気持ちで、自由に描かせていただいています。『MSV』に出てきたけど、物語として描かれていないMSもありますし、当時、自分の脳内で、こういう活躍をするはずだ!と思っていたわけですよ。今の自分の作画と作劇の技術でそれを思う存分表現しようとしています」

 ガンダムベース東京(東京都江東区)で連載10周年を記念した展示会「機動戦士ガンダム サンダーボルト 連載10周年記念展」が10月31日まで開催されている。オープニングイベントで、太田垣さんは作品のこれからについて「あと5、6年はやれそう」と話していた。

 「まだ終わらないですよ(笑い)。クライマックスが始まりました。10年かけて積み上げてきたものがあるからこそ、クライマックスを楽しめる状況になってきたので、今までの伏線を回収していきます。あと5年はかかりそうです」

 10周年は節目でしかない。今後の展開にも期待が高まる。


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