機動戦士ガンダム 水星の魔女:初の女性主人公 キャラクターの新しさ モグモが語るデザイン秘話

「機動戦士ガンダム 水星の魔女」のビジュアル(C)創通・サンライズ・MBS
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「機動戦士ガンダム 水星の魔女」のビジュアル(C)創通・サンライズ・MBS

 人気アニメ「ガンダム」シリーズの新作テレビアニメ「機動戦士ガンダム 水星の魔女」。「ガンダム」シリーズのテレビアニメシリーズが放送されるのは、2015年10月に第1期がスタートした「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」以来、約7年ぶりで、テレビアニメシリーズとしては初の女性主人公で、学園が舞台となることも話題になっている。“新しいガンダム”を目指したという「水星の魔女」は、さまざまな挑戦のある作品になった。キャラクターデザイン原案に新進気鋭のイラストレーターのモグモさんを抜てきしたのも挑戦の一つだ。モグモさんに、女性主人公スレッタ・マーキュリーを含むキャラクターのデザインの秘話を語ってもらった。

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 ◇初期デザインは自立した指揮官タイプだった!?

 「水星の魔女」のキャッチコピーは「その魔女は、ガンダムを駆る。」。多くの企業が宇宙に進出し、巨大な経済圏を構築した時代のA.S.(アド・ステラ)122が舞台となる。モビルスーツ産業最大手・ベネリットグループが運営するアスティカシア高等専門学園に、辺境の地・水星から主人公の少女スレッタ・マーキュリーが編入してくるところから物語が始まる。「ひそねとまそたん」「キズナイーバー」などの小林寛さんが監督を務め、「コードギアス 反逆のルルーシュ」などの大河内一楼さんがシリーズ構成・脚本を担当。MBS・TBS系の日曜午後5時のアニメ枠“日5”で放送中。

 モグモさんは同人ユニット「モリオン航空」の主宰の一人で、オリジナル作品をメインに創作活動を展開。ゲーム「Project GAMM(ガム)」のキャラクターデザインなどを手がけている。モグモさんはコンペに参加し、「水星の魔女」のキャラクターデザイン原案という大役をつかんだ。

 「新しいガンダムの企画コンペがあるので、参加してみませんか?とモリオン航空にお声がけをいただきました。正直、受かるとは思っていなかったのですが、チャンスだと思って、参加します!と即答しました。もちろんプレッシャーもありましたが、最初にお話を聞いた時『新しいガンダムを作る』『いろいろチャレンジをしたい』という話があり、今までとは違ったガンダムになる!という楽しみが大きかったです」

 「水星の魔女」のスタッフを取材する中で「『新しいガンダム』を作りたい」という声を聞くことも多かった。女性主人公というのも“新しさ”の一つだ。モグモさんは自由な発想で主人公を描いた。

 「『ガンダム』は、少し未熟な少年が、成長していく物語というのが基本的にあるというイメージだったので、最初はその逆をいこうとしたんです。あえて、自立した指揮官タイプの女性が主人公だったら面白いかな?と思い、とりあえず描いてみました。スレッタとは性格が逆ですね。設定協力として参加しているHISADAKEさんと設定や世界観を妄想しながらコンペに出しました」

 ◇あえて流行を追わない

 主人公のスレッタは、内向的な性格で、コミュニケーション能力がやや乏しい。赤い髪、太い眉などの特徴があり、シンプルなデザインではあるが、スレッタの性格が見えてくる。目指したのは「普遍性のあるデザイン」だった。

 「監督とは、デザインの細かい話から作品全体の方向性までいろいろとお話したのですが『数年後も数十年後に残るような作品にしたい』というお話があったんです。何気ない感じで言ったことだったのかもしれませんが、衝撃的でした。『ガンダム』の新作はそれほど重いものであると、改めて認識しました。デザインとしては今、流行している要素をあえてあまり入れないようにしようとしました。流行を入れると、数年後に見た時、古く見えるかもしれない。数年後見ても新鮮で、この作品にしかないようなデザインを目指しました」

 普遍的だが新しい、というのはバランスが難しそうだ。

 「シンプルでキャッチーなデザインを意識しています。シンプルなんだけど、きちんと特徴が立つようなバランスを意識しました。新しいものを目指したというよりは、この作品にしかない魅力を作ろうという気持ちが強かったです。可愛いや格好いいに新しさとか古さはあまり関係ない気がしていて、普遍的な良さを追求することが新しいものを生み出す一歩になる気がします。もしかすると今の流行とは少しはずれたものになるかもしれないけど、数年後に見返しても『水星の魔女』のキャラは良かったと思えてもらえたらとてもうれしいですね」

 ◇魔女を意識した制服のシルエット

 シンプルではあるがしっかり主張もしている。

 「どのキャラにもフックとなる特徴を作るように意識はしています。ただ、あまりとがった特徴を作りすぎるとやぼったくなったり、ダサく見えてしまうので、いかに特徴を保ったままマイルドにするかというバランス調整に長い時間を掛けています。例えばチュチュ(チュアチュリー・パンランチ)の髪形もそうです。ありえないような髪型ですけど、いかにそういったとがった要素を可愛く、時にオシャレに見せられるかがデザインの面白さになりますし、常に意識しているところです。スレッタのデザインも試行錯誤しました。少しやぼったいヘアバンドやアホ毛といった要素を、その良さを残しつつ、やぼったくなりすぎないバランスを狙ったつもりです」

 スレッタたちはアスティカシア高等専門学園の制服を着ている。制服はパンツスタイルで、キャラクターごとに丈が異なるなど、デザインからそれぞれの個性を感じることができる。モグモさんは、これまでの作品でもファッションにこだわってきた。「水星の魔女」のファッションはどこにこだわったのだろうか?

 「最初は、海外の士官学校の制服をベースに考え、クラシカルな制服をイメージしていましたが、だんだん作品の世界観が固まっていく中で、SF感などを足して、今の形になっています。特徴的なのが、太くなっている腕のところです。“魔女”という言葉から、魔女や魔法使いのケープのようなシルエットにしました。監督からのリクエストもあって、男女共通でパンツスタイルにしています。どのキャラも基本的に同じ制服がベースになっていますが、キャラごとの差もしっかり出そうとしました。ベースを崩すとおかしくなるので、それぞれ調整しています。スタンダードなのがスレッタの制服のデザインです」

 ◇ガンダムらしさを意識しすぎない

 「ガンダム」シリーズは、長く続いているが、キャラクターデザインは時代と共に変化してきた歴史がある。モグモさんは、あえて“ガンダムらしさ”を意識せずに自由にデザインした。

 「新しいガンダムとしての挑戦、今の時代に合ったガンダムとは?とコンペのお話をいただいた時からずっと考えてはいて、ガンダムらしさとは何だろう?と悩む時期もありました。ただ、過去の作品を研究して、“らしさ”を出そうとしても、それを追うだけになってしまうので、求められてるものとは違うのかな?とも考えていました。もちろん過去の作品は見ていましたし、監督やスタッフとやり取りをする中で、強く意識をしなくても無意識のところでガンダムにアジャストされていったところはあるかもしれません。それでも最初から“らしさ”を強く意識せずに、水星の魔女という世界観を魅力的に見せるデザインを追求したことが、結果的に従来とは少し違った発想につながったのだと思います」

 モグモさんは、これまでゲームなどに参加したことはあったが、アニメのキャラクターデザイン原案を担当するのは初めてだった。初めての経験ということもあり刺激を受けることも多かった。

 「ゲームのキャラクターデザインは、一枚のイラストとして描くので、装飾や情報量を多くすることもありますし、キャラが魅力的に見えるポーズや構図など、その一瞬だけ切り取れば良いということが多いです。ただアニメは動かすことが前提ですし、作画の際に、動かしやすいデザインにしないといけません。情報量の取捨選択が重要ですし、すごく大変でしたね」

 「水星の魔女」は、挑戦的な作品だ。「新しいガンダムを」という思いがあったからこそ、モグモさんに大役を任せたのだろう。新しく魅力的なキャラクターの活躍に注目してほしい。

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