これ描いて死ね:マンガ大賞2023大賞 鋭いタイトルに込めた思い とよ田みのる「いつも自分自身に言っている言葉」

「マンガ大賞2023」の大賞に選ばれた「これ描いて死ね」の作者のとよ田みのるさん
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「マンガ大賞2023」の大賞に選ばれた「これ描いて死ね」の作者のとよ田みのるさん

 マンガに精通する書店員らが「その年一番面白いと思ったマンガ」を選ぶ「マンガ大賞2023」(実行委員会主催)が3月27日に発表され、「ゲッサン」(小学館)で連載中のとよ田みのるさんのマンガ「これ描いて死ね」が大賞に選ばれた。同日、東京都内で行われた授賞式に登場したとよ田さんは「なぜ僕が?という気持ちです。マンガ生活は20年目ぐらいになるのですが『やっとか』という気持ちもあります。こんな華やかな場は初めてで、とても緊張しています」と受賞の心境を語った。

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 「これ描いて死ね」は、「マンガ大賞2019」にノミネートされた「金剛寺さんは面倒臭い」などのとよ田さんのマンガで、2021年に「ゲッサン」で連載を開始した。高校のマンガ研究会を舞台に、作品を生み出す苦しみや喜びを描く青春劇。東京から120キロメートル南にある伊豆王島に住む、マンガが大好きな高校1年生の安海相が、とある出来事をきっかけにマンガを“つくる”ことを意識し始める……というストーリー。「このマンガがすごい!2023」オトコ編で第6位に選ばれた。コミックスが第2巻まで発売されている。

 同作は、女子高生たちの明るい青春マンガである一方、「これ描いて死ね」という鋭さのある言葉がタイトルとなっている。とよ田さんはタイトルについて「いつも連載前には、自分を鼓舞したり、叱咤激励するつもりで『頑張れよ』などいろいろな言葉を紙に書くんです。それでだんだん調子に乗ってきて、『これ描いて死ね』と書いたりする。この言葉は、
いつも自分自身に言っている言葉です。これを思って描いていますし、一番大切にしている言葉だからタイトルにしようと思いました」と説明した。

 とよ田さんは前作「金剛寺さんは面倒臭い」では、「変なマンガを自分の好き放題描いて『やりきったぞ』と我を出し切った」といい、「次は人のためのマンガを描こうと思って優しいマンガにしました」と話した。「ただ、人のためだけに描いていると、中身ががらんどうになってしまうので、真ん中には自分の大切なもの、好きなものを置きました」と制作の経緯を語った。

 同作は、高校生の主人公・安海相の長年憧れの存在だったマンガ家・☆野0が、通っている高校の国語教師・手島先生だったという衝撃の事実を知るところから物語が始まっていく。コミックス第1巻には、手島先生の新人マンガ家時代を描いたエピソード「ロストワールド」が収録されており、とよ田さんは「手島先生の部分は大体実話です。自分の新人時代、『あの時、死にそうだったな』という気持ちを乗せている」と明かした。

 「これ描いて死ね」は、とよ田さんの妻でマンガ家のトミイマサコさん、とよ田さんの娘も制作に参加しているという。「作中では、主人公が初めてマンガを描くシーンがあるのですが、つたないマンガを表現するために、娘が描いていたマンガをパクって描いたんです。娘に『大賞をとったよ』と言ったら悔しそうな顔をしていました。妻は天才的に絵がうまいので、作中に登場する天才のキャラクターが描く絵は妻に任せています」と明かし、大賞受賞は「チームとよ田の勝利」と笑顔で語った。

 「マンガ大賞」は2008年に創設されたマンガ賞で、審査に出版関係者が関与しないのが特徴。大賞に選ばれた作品は注目を集めて売り上げが一気に伸び、アニメ化や映画化などのメディア展開につながることもある。今回は2022年1月1日~12月31日にコミックスが出版され、通巻8巻以内のマンガ(過去の大賞は除く)が対象。

 過去の大賞は、末次由紀さんの「ちはやふる」や、羽海野チカさんの「3月のライオン」、柳本光晴さんの「響~小説家になる方法~」、野田サトルさんの「ゴールデンカムイ」などで、昨年はうめざわしゅんさんの「ダーウィン事変」が受賞した。

 ◇「マンガ大賞2023」のノミネート作品(作品名50音順・敬称略)

 「あかね噺」馬上鷹将、末永裕樹▽「女の園の星」和山やま▽「劇光仮面」山口貴由▽「これ描いて死ね」とよ田みのる▽「さよなら絵梨」藤本タツキ▽「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」地主▽「正反対な君と僕」阿賀沢紅茶▽「タコピーの原罪」タイザン5▽「天幕のジャードゥーガル」トマトスープ▽「日本三國」松木いっか▽「光が死んだ夏」モクモクれん

 ◇過去の大賞受賞作品(敬称略)

 「岳」石塚真一▽「ちはやふる」末次由紀▽「テルマエ・ロマエ」ヤマザキマリ▽「3月のライオン」羽海野チカ▽「銀の匙 Silver Spoon」荒川弘▽「海街diary」吉田秋生▽「乙嫁語り」森薫▽「かくかくしかじか」東村アキコ▽「ゴールデンカムイ」野田サトル▽「響~小説家になる方法~」柳本光晴▽「BEASTARS」板垣巴留▽「彼方のアストラ」篠原健太▽「ブルーピリオド」山口つばさ▽「葬送のフリーレン」山田鐘人、アベツカサ▽「ダーウィン事変」うめざわしゅん

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