マンガサイト「マンガハック」ほかで連載中の十日草輔（とおか・そうすけ）さんのマンガが原作のテレビアニメ「王様ランキング」の新作「王様ランキング 勇気の宝箱」が、4月13日からフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」ほかで放送される。同作の主人公で、耳が聞こえず話すことができない非力な王子・ボッジを演じるのが新人声優の日向未南さんだ。今年3月に発表された「第17回 声優アワード」では新人声優賞に選ばれたことも話題の日向さんが、テレビアニメで主演を務めるのは同作が初めてで、「あう」というせりふのみで感情を表現する難役に挑んだ。当初は大きなプレッシャーを抱えてボッジ役に挑んだという日向さんに作品に懸ける思い、収録の裏側を聞いた。

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　◇プレッシャーを抱えて挑んだボッジ役　前作最終話のアフレコは「一生忘れられない」

　「王様ランキング」は、2017年に連載を開始したウェブマンガ。耳が聞こえない非力な王子・ボッジが、多くの人と出会い成長していく姿を描く。テレビアニメが2021年10月～2022年3月に放送された。放送文化の向上に貢献した番組や個人・団体を表彰する「ギャラクシー賞」（放送批評懇談会）テレビ部門の2022年3月度月間賞に選ばれたことも話題になった。「勇気の宝箱」は、前作では描かれなかったボッジやカゲ、仲間たちの知られざる“勇気の物語”が描かれる。

　日向さんは2020年の声優デビューからわずか1年ほどで「王様ランキング」の主人公・ボッジ役に抜てきされた。元々原作の大ファンだったといい、前作のアフレコを「プレッシャーがすごすぎて大変でした」と振り返る。

　「正直、最初はアフレコに行くのがすごく怖かったです。頑張らないといけないけど『私にできるのか？』とプレッシャーを感じてしまい、アフレコに行く足が重かった記憶があります」

　そんな日向さんの意識をがらっと変えるきっかけとなったのが、ボッジの相棒であるカゲを演じる村瀬歩さんの一言だったという。

　「第5話あたりの収録で村瀬さんが、自分のせりふは相手のせりふにつなげるためにある、と教えてくださったんです。そこで、私は自分のことしか考えていなかったことに気付きました。私がボッジを演じるプレッシャーって、『王様ランキング』という作品を作る上ではいらないものなんだと。村瀬さんだってカゲを演じることに精いっぱいでしょうし、梶（裕貴）さんだってダイダを演じることにすごく情熱をささげている中で、私だけが『新人なのにできるの？』と思っていることがすごく小さいことだなと思って。村瀬さんが“演技とは何か”ということを教えてくださいました」

　プレッシャーがなくなることはなかったものの、そこから日向さんはアフレコへ行くのが楽しみになっていったという。

　「みんなのお芝居を生で聞けるあの環境と、大好きなマンガに声がつく瞬間を見られる。最後のあたりは1週間がすごく長く感じました。『まだかな、まだかな』という気持ちでした」

　前作は、王国を出たボッジとカゲが再会するという感動的な最終回で幕を下ろした。

　「最終回の台本をもらっていざアフレコとなった時に、すごく楽しみだったはずなんですけど、『これをやったら終わるんだ』という喪失感があって。村瀬さんとの掛け合いもこれで終わっちゃうんだという悲しみもあって、ごちゃごちゃな感情のままアフレコに行きました。やっぱり村瀬さんが持ってきたカゲのお芝居は最高でした。再会のシーンでは、私の私情の涙と、ボッジの涙とぐちゃぐちゃになりながらカゲと再会しました。あのアフレコはきっと一生忘れないです。これからもずっと大切にしまっておくんだろうなと。すごく壮大なアフレコでした」

　◇耳が聞こえないボッジを表現　「台本を持たずにマイク前に立つ」

　耳が聞こえず言葉を話すことができないボッジのせりふは、ほぼ「あう」のみだ。日向さんは限られたワードで、ボッジの感情を見事に表現してきた。ボッジを演じるにあたり研究を重ねたが、アフレコでは「どうしても聞こえる人のお芝居になってしまう」という難しさがあった。

　「やっぱり反応がうそになっちゃうというか。例えば、カゲに『おい、ボッジ！』と言われてボッジが『あう』と言うシーンでは、カゲの言葉に対する返事の『あう』になってしまうことがあって。ボッジとしては聞こえないので『何？』という意味で『あう』と言っているのに、私自身が村瀬さんの声が聞こえている状態だから返事になってしまう。だから、収録では皆さんのお芝居を聞きたいんですけど、私の収録だけ別にしてくれないかな、と思った時期がありました」

　日向さんは、ボッジが読唇術を身につけていることにヒントを得たという。

　「ボッジは読唇術ができる子なので、映像でほかのキャラクターの口が動いていれば、言っていることを理解しているだろうと思いました。私は『王様ランキング』の収録ではすごく特殊なやり方をしていて。収録前に台本を丸暗記して、台本を持たずにマイク前に立つ。ボッジが唇を読むように、映像を見ながらほかのキャラが何と話しているのか記憶を呼び起こして、それに対する反応をしていました。読唇術があるということにだいぶ助けられました」

　◇少年役で生き残っていきたい

　「王様ランキング」では、ボッジが過酷な冒険、戦いを経て成長していく姿が描かれたが、演じている日向さん自身も大役へのプレッシャー、演じる難しさと闘い続けた。新作「勇気の宝箱」の見どころを聞くと、「前作で描かれなかったキャラの良さ、可愛い部分、格好いい部分が詰まっています」と笑顔で語る。

　「前作は、結構殺伐としていたと思うんです。序盤の方はカゲとボッジがわちゃわちゃしている感じでしたが、終盤はオウケンに関するシリアスな展開になって。でも、『勇気の宝箱』は、さまざまな物語で構成されています。みんなはどんな生活してるの？とか、どんな人たちなの？というところにもフォーカスしています。あと、アニメーションがものすごいです！」

　これからのさらなる活躍も期待される日向さんに、今後の声優としての目標を聞いた。

　「私はすごく少年役が大好きで、少年役に憧れてこの世界に入りました。今後もできることなら少年役で生き残っていきたいです。ただ、厳しい世界なので、努力を重ねつつ、演技の幅を広げて頑張っていきたいです」

　日向さんは「ロミオの青い空」や「AKIRA」「魔法陣グルグル」「ニャニがニャンだー ニャンダーかめん」といったアニメを見て少年役に憧れた。演じてみたい役は「アルプスの少女ハイジ」の少年ペーターのようなキャラクターだという。

　「のんびりとほのぼのとした、明るくてちょっととぼけた男の子を演じてみたいです。最近は、女性声優が演じる少年役といったら格好いいクールめなキャラクターが多いので、なかなか難しいのかなとも思うのですが、あえてここで『やりたい』と言ってみました（笑い）。いろいろな少年を演じたいです」

　キャラクターと真摯（しんし）に向き合い、「王様ランキング」では多くの人の心を動かした日向さん。今後の活躍から目が離せない。