王様ランキング:シンプルだけど濃い技術 原作の世界観をアニメで表現 作品愛から生まれた「勇気の宝箱」

「王様ランキング 勇気の宝箱」のビジュアル(C)十日草輔・KADOKAWA刊/アニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」製作委員会
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「王様ランキング 勇気の宝箱」のビジュアル(C)十日草輔・KADOKAWA刊/アニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」製作委員会

 マンガサイト「マンガハック」ほかで連載中の十日草輔(とおか・そうすけ)さんのマンガが原作のテレビアニメ「王様ランキング」の新作「王様ランキング 勇気の宝箱」が、フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」ほかで4月にスタートした。「王様ランキング」は、「進撃の巨人」「SPY×FAMILY」などで知られるアニメ制作会社・WIT STUDIOが制作しており、前作は絵本のような絵柄からは想像がつかないような生々しい人間ドラマ、迫力のアクションシーンが話題になった。同作を手がけたWIT STUDIOの岡田麻衣子プロデューサーに制作の裏側を聞いた。

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 ◇「王様ランキング」は残すべき作品

 「王様ランキング」(KADOKAWA)は、2017年に連載を開始したウェブマンガ。耳が聞こえず言葉も話せない非力な王子・ボッジが、多くの人と出会い成長していく姿を描く。コミックスが第16巻まで発売されている。テレビアニメが2021年10月~2022年3月に放送された。放送文化の向上に貢献した番組や個人・団体を表彰する「ギャラクシー賞」(放送批評懇談会)テレビ部門の2022年3月度月間賞に選ばれたことも話題になった。「勇気の宝箱」は、前作では描かれなかったボッジやカゲ、仲間たちの知られざる“勇気の物語”が描かれる。

 岡田プロデューサーは、「王様ランキング」の主人公・ボッジがもつ王道のストーリーに魅力を感じ、アニメ化を企画した。

 「ボッジは耳が聞こえず、しゃべることもできないというハンディキャップを持っている中、みんなに笑われたりしても笑顔でいるし、『王様になる』という夢がある。しかも、ただ『なりたい』と思っているだけではなくて、実現するために努力していく姿が主人公として素晴らしいなと感じました。でも一人ではどうしても動けなかったところにカゲが自分の存在を認めてくれたことで勇気をもらい、彼の人生が大きく変わっていく、小さな一歩を踏み出すというようなストーリーが、すごく王道でいいなと思いました」

 岡田プロデューサーは、「王様ランキング」を「残したい作品」とも感じたという。

 「私は、アニメ化するのであれば、残る作品を作りたいとずっと思っています。例えば、テレビアニメの1クール作品は放送期間が約3カ月です。しかし、制作するのには1年、もっとかかる場合もあります。また、誇張しすぎかもしれませんが、スタッフやクリエーターの中には自分の思いや、人生をかけて作っている方もいると考えると、残る作品を作りたい。そんな中で、『王様ランキング』は残すべき作品だなと。自分たちで表現できたらうれしいなと思って、アニメ化させていただきました。また、今一緒にやっているWIT STUDIOのスタッフの得意分野も考えて、スタッフにも刺さるんじゃないかな?という思いもありました」

 ◇絵本のような世界観とリアルさを表現するために

 「王様ランキング」の監督を務めたのは、「ACCA(アッカ)13区監察課」「映画ドラえもん のび太の新恐竜」などに演出として参加した八田洋介さん。同作で初監督を務めることになった。岡田プロデューサーは「王様ランキング」を「簡単な絵に見えて、いろいろな作り方ができる幅の広い作品」といい、さまざまな作品を支えてきた八田さんに監督のオファーをしたという。アニメ化する上で軸としたのは「原作の雰囲気を壊さない」「子供向けアニメにしすぎない」ということだった。

 「原作から大きく逸脱しないということはすごく意識していました。ただ、原作が絵、物語を含めていかようにも捉えられる作品でもあるので、そのニュアンスを残しつつ、アニメとして面白いお話作りであったり、30分アニメとして次また見たくなるような構成を目指しました」

 原作の十日さんが「昔、絵本作家になりたいという夢があった」というエピソードからヒントを得たこともあったという。

 「そういう夢があったから『あの絵柄なのかな』ということをヒントに、背景の描き方はリアルすぎないようにしたり、キャラクターにガチガチに影を入れないようにするなどしました。ただ、絵本のような絵柄であっても、子供向けアニメになりすぎないように画面の作りこみや動きを細かくすることでリアルに近づけたり、メリハリを意識して作っていきました」

 原作は、可愛らしい絵柄で人間の生々しい一面を描き出す。そうした原作の魅力をアニメでも表現するべく、カメラアングルなどに実写の手法を用いて、“リアルさ”を表現しようとした。

 「子供向けのアニメは、子供たちが理解しやすいようにカメラの位置がノーマルで横からのアングルが多いのかなと思います。『王様ランキング』で、それが全くないわけではないのですが、あえてローアングルで撮ったり、俯瞰(ふかん)で撮ったりしています。横位置で撮影して淡々とした印象にならないように、監督が絵コンテから意識してくださっていました。また、子供向けのアニメは、影を細かく入れず、単色塗りが多い。一方で、深夜アニメは影もしっかり入れて、なおかつ撮影処理もがっつり入っていて絵の層が厚い作品が多いです。『王様ランキング』では、絵の層を厚くしすぎると、絵本チックな世界観とどんどん離れてリアルになっていくので、そこまでせずに表現する方向を模索しました。シンプルではあるのですが、光の表現も意識する。分厚くするというよりは、薄いながらも濃い技術を表現しようとしていました。全話そうできているかは分かりませんが、繊細に作っていきましたね」

 ◇制作陣のあふれる愛で実現した「勇気の宝箱」

 話題を呼んだ前作から約1年後に放送されることになった新作「王様ランキング 勇気の宝箱」。本作の制作が決定したのは、前作の制作中だったという。岡田プロデューサーは「『勇気の宝箱』は、最初は1クール放送しようとは思っていなくて『数本やれませんかね?』という感じだったんです。ただ、製作陣の『王様ランキング』愛があふれすぎちゃって(笑い)」と笑顔で語る。

 「2クールで放送した前作の中で、少し飛ばし気味に進んだり、やむなくカットしてしまったエピソードがいくつかあったりとか、また、十日先生がコミックスの巻末マンガで表現されているお話ですとか、そのまま全部をアニメにするわけにはいかなかったんですけど、ちょっとアレンジしたらできるんじゃないか?と。さらには、先生が描かれているのが結構広い世界なので『こういうこともありそうだよね?』みたいなアイデアがぽんぽん浮かんできて、アイデアメモが20~30個ぐらいできたんです。それを先生に見ていただいて、生き残ったものたちがたくさんあって、あれよあれよという間に10本になっていったんです」

 岡田プロデューサーが「大きな愛が詰まっております」と語る「勇気の宝箱」。ボッジやカゲたちの勇気の物語に心動かされるはずだ。

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