名探偵コナン 黒鉄の魚影：コナン映画の醍醐味　地に足がついたアクション　キャラが感情で動くように　立川譲監督に聞く

　青山剛昌さんの人気マンガが原作のアニメ「名探偵コナン」の劇場版最新作となる第26弾「名探偵コナン 黒鉄の魚影（くろがねのサブマリン）」が4月14日に公開され、3日間で興行収入が31億4000万円を突破するなどロケットスタートを切った。同作の監督を務めたのが、2018年公開の「名探偵コナン ゼロの執行人」を手がけた立川譲監督だ。劇場版「名探偵コナン」シリーズは、劇場版ならではのド派手なアクションが見どころの一つだが、最新作では「地に足がついたアクション」を目指したという。アクションシーンのこだわり、コナン映画を制作する醍醐味（だいごみ）を聞いた。

ウナギノボリ

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　◇リアル寄りのアクション　コナンの一番のデメリットを忘れずに

　「黒鉄の魚影」は東京・八丈島近海にある世界の防犯カメラをつなぐための海洋施設・パシフィック・ブイを舞台に、黒ずくめの組織による女性エンジニアの誘拐事件が起きる。彼女が持っていた、ある情報を記すUSBが組織の手に渡り、八丈島に宿泊していた灰原哀に黒い影が忍び寄ることになる。

　立川監督が劇場版「名探偵コナン」シリーズを手がけるのは、「ゼロの執行人」に続き2作目。「ゼロの執行人」ではプロット完成後の参加となったが、「黒鉄の魚影」ではプロット制作から参加。灰原や黒ずくめの組織がメインキャラクターとして登場するという大枠は決まっていたといい、その上で「コナンの周囲のキャラクターや、メインのキャラクターを活躍させたい」という思いがあった。

　「小五郎、蘭ちゃん、阿笠博士などコナンの周囲のキャラクターを活躍させたいという話は常々していました。『ゼロの執行人』に関しては、『コナン』としては異例で、公安や警察がテーマになっていて、コナンの周りのキャラクターたちの活躍がすごく少なかったんです。また、灰原に関係性の深いキャラクターでもあるので、彼らを活躍させたいと考えました」

　立川監督が語るように、毛利蘭、阿笠博士はもちろん、バーボン／降谷零／安室透、赤井秀一、黒ずくめの組織といった人気キャラクターが勢揃いし、激しいバトルを繰り広げる。蘭の格闘シーンなどアクションも見どころの一つだ。立川監督は、これまでのシリーズと比べて「地に足がついたアクションの方向に戻している」と語る。

　「昔は、蘭ちゃんが弾丸をよけるようなシーンもあったと思うのですが、そういう時代からは少し戻して、蘭ちゃんが敵のナイフを怖がるような感じにしたいなと思っていました。今作でも蘭ちゃんが2階から飛び降りて車の上に着地したりはするんですけど（笑い）、できる範囲かなと。コナンくんも多少派手に、ちょっと無茶なことやっている感じはありますけど、どちらかと言うと、リアル寄りの路線に戻しているつもりでやっていました。もっとお祭り的な作品であれば派手にやってしまうかもしれないのですが、『ゼロの執行人』に続き今回もシリアスなリアル寄りのストーリーだったので、アクションもリアルめにしている感じですね」

　アクションでは、コナンの「見た目は子供」という特徴も意識しているという。

　「あまりにもアクション全振りになりすぎることへの懸念もありました。コナンは、あくまでも体が小学生になってしまったということが一番のデメリットというか、黒ずくめの組織からやられたこととして一番大きなことだと思うので、やっぱり大人の力にはかなわない。サッカーボールを派手に蹴るようなシーンはありつつも、『ちっちゃくなっちゃった』ということは忘れないでおこうと思っていました」

　◇懐が深いコナン映画　「黒鉄の魚影」は小さくなった2人の物語

　「黒鉄の魚影」では、コナン、灰原、黒ずくめの組織といったメインキャラクターだけでなく、登場するキャラクター全員に見せ場がある。立川監督は「キャラクターが感情で動く」ことを意識した。

　「キャラクターの言動にはかなり気をつけていて、脚本の都合でキャラクターが動かないように、感情で動くようにしたいと、常に意識していました。今回は登場するキャラクターも多く、みんなが活躍できるように作っていったので、かなり忙しい展開になって、散漫な印象になってしまうんじゃないかという懸念もありました。ここまで多くのキャラを見せながら、物語を描いていくという経験はこれまでなかったので、自分にとってはチャレンジでした。一人のキャラを見せるために、別のキャラを下げるということをやっていくと、どうしてもキャラに作っている側の意志を感じさせてしまうんです。そうならないように、感情に合わせてキャラクターが動いて、お客さんがキャラに寄り添えるように意識しました。これに関しては、全体を通して行っていることで、演出でも音楽でも、息を合わせて作っていきました」

　立川監督は、コナン映画を制作する醍醐味を「キャラクターがたくさんいて、多方面で楽しむ要素がある」と語る。

　「キャラ同士の関係性もそうですし、推理、サスペンス要素、アクションに関してもそうですし、かなり懐の広い作品だと感じます。これまでもさまざまなテーマ、ジャンルの作品がありますし、もっと広げてもコナンの映画になりそうだなと思います。そういう意味でいうと、今回の映画は、これまで作られてきた劇場版のいいところ、コナンのいいところがたくさん出ているんじゃないかと思います」

　立川監督は「欲を言うなら、（少年探偵団の）子供たちをもうちょっと活躍させられたらよかったかもしれない」といい、「ただ、子供たちを大人の戦争みたいな映画に巻き込みたくなくて。灰原が危機に陥っていることを光彦が知ったらかわいそうですしね」とキャラクターへの愛情をのぞかせる。

　灰原がメインとして描かれる「黒鉄の魚影」について、立川監督は「コナンたちと深い関わりがある灰原を描くこと自体が、かなり映画として強い芯を持った物語になる」と見どころを語る。

　「灰原とコナン、小さくなった唯一の2人が協力しながら突き進んでいく物語は、コナンの映画として、昔を知っていればいるほど面白みがあるというか。原作の灰原初登場回を読み返して、映画を見てもらっても楽しいと思います。いろいろな楽しみ方ができる映画になったと思うので、繰り返し劇場に足を運んでもらえるとうれしいです」