名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
富士見L文庫(KADOKAWA)の顎木あくみさんの小説が原作のテレビアニメ「わたしの幸せな結婚」。7月からTOKYO MXほかでスタートし、放送時間になるとSNSで関連ワードがトレンド入りするなど話題になっている。配信も好調で、海外の配信サービスでも上位にランキングするなど、国内のみならず世界でも人気を集めている。継母たちから虐げられて育った少女・斎森美世が、孤高のエリート軍人・久堂清霞と出会い、ぎこちないながらも、互いを信じ、慈しみ合いながら、生きることの喜びを知っていくという和風シンデレラストーリー。不幸でコンプレックスだらけの美世が、幸せをつかむ……という王道の展開ではあるが、超能力のような血の呪縛・異能を巡る壮絶なドラマもあり、要素の多い作品ではあるが、「メイドインアビス」「盾の勇者の成り上がり」などを手掛けてきたアニメ制作会社・キネマシトラスが繊細な映像表現で見事にアニメ化した。同作はなぜ多くの人の心をつかんでいるのか? アニメを手掛ける久保田雄大監督、脚本の佐藤亜美さんに、制作の裏側を聞いた。
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ーー原作の魅力をどのように感じた?
久保田監督 恵まれない生い立ちの美世がはかなげで、苦しい中できちんと生きていこうとする姿に最初に魅力を感じました。ストーリー自体は王道ではありますが、登場するキャラクターたちがしっかり生きています。ラブコメ、ファンタジー、サスペンス、アクションとさまざまな要素が物語に組み込まれているところも魅力に感じました。
佐藤さん 一見すると、昔のドラマのような湿度の高さがありながら、今の人が共感できる部分もあって、新鮮さも感じました。
ーー現代を生きる人が共感できるところとは?
佐藤さん 原作もヒットしますし、読者のことを考えた時、平たい例えではありますが、恋愛リアリティーショーを楽しく見ていない人もいると思うんです。恋愛リアリティーショーはすごく流行していますが、男女駆け引きの面白さと距離を感じる人もいるはずで、少なくないと思います。一生懸命に今を生きているんだけど、自己表現がなかなかできなくて、どうしたらいいのか分からない。ちょっと外れたことはできない。頑張って頑張って生きている中で、ほんのちょっとでいいから幸せがほしいという気持ちが、美世の心情にも寄り添えて、共感する部分なのかもしれないと思っていました。読者の方を裏切らないようにすることを自分の中のマニフェストにしたところがあります。
久保田監督 美世というキャラクターは、描いている時代は違えど、自己投影しやすい器になっているような気がします。今は、自己肯定感、多幸感を得づらく、隣の芝生ばかりが青く見えてしまうところもありますし。
佐藤さん インスタグラムやTikTokなどの華やかさのようにはなれなくて、そういう気持ちの人も多いはずです。
久保田監督 そうですよね。10年前と同じ生活をしているにも関わらず、変なところでストレスを感じて、幸福感の総量が少し目減りしている感じもしますし。幸福感はあるんだけど、それで満足できない世の中になってきているような気もします。
ーーアニメ化の際に大切にしたことは?
久保田監督 コミカライズ、朗読劇、実写映画などメディアミックスも多い中で、原作のファンの人たち、新規で見てくれる方たちに満足してもらえるようなフィルムを目指しました。コミカライズがあるので、キャラ、シーンのイメージは既にありますが、アニメ化でよりしっかりと重みのあるドラマを見せようとしました。原作の流れを踏襲しつつ、オリジナルの要素、せりふを足して強度を上げていこうとしています。シナリオチームとも話し合いながら、必要に応じて変えたところもあります。原作小説の物語がまとっている空気感がすてきなので、アニメ化でその空気感、雰囲気をなるべく壊さないように心がけています。音楽に関してもSE的な絵を邪魔しないBGMというよりも、基本的に聴かせるBGMにしてほしいとお願いしています。主張の強い音楽ばかりでは、使いどころが難しく、絵を邪魔してしまうケースもあるのですが、「今回は主張してほしい」とエバン・コールさんにオーダーしました。結果として、作品にマッチする楽曲を制作いただき、繊細な音楽が劇中の空気感を作る一助になったと思います。
佐藤さん 監督のお話の通り、音、光の要素が小説とコミックにはないところですし、重要になると思っていました。脚本では天候のコントロールを大切にしています。間接的な表現として、登場人物たちの心情を表すなど映像ならではの表現を足していくことを意識的にやっています。原作小説の月岡月穂先生のすてきな表紙のイラストの雰囲気を大切にしようともしました。顎木あくみ先生の美しい文体を表している絵でもありますし、あの雰囲気から絶対離れてはいけない。特に分かりやすいのが第1話のアバンで、意識的に桜のシーンを多く入れています。表紙の雰囲気が映像になった時、どうなるのか?と想像して書きました。丁寧に描きたいと思う一方でアニメは当然尺や話数の制約がありますので、事柄を大切に重ねていこうとしました。話を前後させるなど構成の部分で工夫をしていて、特に第1、2話は時間軸も含め情報の出し方を大きく変えているので、原作を知っている人は、驚いたかもしれません。
ーー美世の丁寧で繊細な感情表現も魅力の一つになっています。
久保田監督 特に第1~4話は、美世の感情の振れ幅の目盛りが、通常よりも目が細かいところがあります。微調整をしつつ、コントロールしようとしました。音響監督の小泉紀介さんと相談しながら、オーダーしたのですが、ハードルがかなり高かったと思います。ただ、美世役の上田麗奈さんが本当に素晴らしく、期待以上のポテンシャルを発揮していただいたから、実現できました。感情の機微、微妙な動き、ニュアンスをしっかり表現していただき、すごく素晴らしかったです。
佐藤さん 上田さんは、脚本会議にいたのかな?と感じるくらい、美世の心情を考えてくださっているんですよね。監督、音響監督、上田さんの会話が暗号みたいでした(笑い)。あの時よりもほんの少し明るいんだけど、ちょっと下げてほしい……というような会話をしていて、どうやって感情をコントロールするんだろう?と思っていたら、上田さんはすんなりとやってしまうので、びっくりしました。すごいアフレコでしたよね。
久保田監督 普通は70、80点で合格だけど、今回に関してはいい意味で期待を裏切ってくれて、すごく高い点数がバーン!と出てくる。こちらのオーダーにもピタッと合わせてくれる。上田さんは本当にすごいですね。
ーー映像、せりふなどの感情表現も繊細です。
久保田監督 リファレンスになるものを事前に作り、こだわって設計したので、それが結果に伴っているところもあるのかもしれません。
佐藤さん スタッフの方がみんなで美世に向き合っているんですよね。私が書いているのは設計図だけですが、映像を見て、それをすごく感じました。
久保田監督 撮影監督の江間常高さん、色彩設計の岡松杏奈さん、動画検査の大岩拓馬さんなど各セクションでキーとなる人たちが、愛を持って作ってくれたからできたことです。
佐藤さん 脚本に書いたことがスタッフに伝わっていることが、書き手としてすごくうれしかったです。美世は、油断すると、ちょっと強くなってしまい、美世ではなくなってしまうことがあります。ここは「!」ではなく「……」なのはなぜか?と考えながら、書いていて、そこもすごく丁寧に表現していただいたことがうれしかったです。
ーー食事シーンなど日常シーンも丁寧に描いています。
久保田監督 原作にもあるものですし、特別に何か狙いがあったわけではないのですが、食事シーンは美世にとっては重要な場面ですし、重要だからこそ細かいところも手を抜けません。細かいところで手を抜くと、しらけちゃうこともあるんですよね。しらけさせないために作ったから、丁寧に見えるかもしれません。この回答自体、若干しらけちゃうところもあって申し訳ないのですが(笑い)。
ーー細かい作り込みの積み重ねがあるから、感情移入できるところもあるはずです。
久保田監督 やっぱり神は細部に宿るところもあって、土台をしっかり固めることで、そこにあるものとして実感できます。細部は大事にしないといけないんですよね。例えば、アジの干物が出てくるシーンは、食べたくなりますし。
佐藤さん ライター陣が割と食いしん坊なんですよね。普通は、そんなに細かく書かないところなのですが、食べ物の種類などを書きました。五道をもてなすシーンでも、季節を感じられるメニューにこだわったり。
久保田監督 今回は、脚本で細かいところを全部指定してほしい、とオーダーしていました。「料理」と書いてあっても何か分からないので、決めてほしかった。スタッフが迷わないですし。本来的には脚本では、そこまで決めないことが多いのですが。
佐藤さん 書いていて楽しかったですよ。映像になって100倍返ししていただいていますし。監督と脚本会議で議論したことが無駄にならないように細かく書いています。
ーー美世の異母妹で、美世を虐げる香耶も印象的なキャラクターの一人です。アニメでどのように描こうとした?
久保田監督 香耶にはとことんヒールを演じてもらっています。第6話は物語の一つの大きな山場でしたし、特にそうですね。美世とのコントラストをしっかり描き、とことんヒールに徹してもらいました。一方で、香耶は単純なヒールにはしたくないという気持ちもあります。やっていることは、ひどいのですが、育ってきた環境、親などが彼女の人格形成に大きな影響をおよぼしていることを考えると、100%悪者かというと、そうでもない。香耶は、美世と違って、家の中では優遇されて育っているけど、美世と同じく持たざる者側でもあります。義理の姉に対する嫉妬心から一線を越えてしまう未熟なキャラクターですが、第6話の最後に、自らの無知に気づいてしまう、もの悲しさもありますし、操り人形的として使われていた側面もしっかり表現できれば、深みが出ると思っていました。
ーーヒールではありますが、何かと気になるキャラクターではあります。
久保田監督 単純にざまあみろ!とはならない感じになればと思っていました。
佐藤さん 脚本を書き始める前に、話している中で、監督はリアリティーラインを高めに設定しているイメージがありました。香耶は、すごく分かりやすいキャラクターですし、もっと子供っぽくもできます。単純化できるから、気を付けないといけないキャラクターなので、どうしてこうなったのか?という背景を含めて立体的に描こうとしました。徹底したヒールであるということを守りつつ、より魅力的にするには、どうすればいいのか?と最初に悩みました。コミカライズの高坂りと先生が以前、SNSで「あったかもしれない未来」として、美世が香耶の髪をとかす幼い頃のイラストを描いていたのですが、それを参考にさせていただきました。邪悪な大人たちに囲まれていなかったら、こんな幸せな姉妹になったかもしれない……。香耶は、最終的にはそこまで悪くないと感じられるキャラクターにしたかったところもあります。
ーー異能の表現もアニメならではです。
久保田監督 序盤はファンタジー要素が少なく、リアリティーラインを高くしたところもあったので、ファンタジー要素を急に入ってくると、異物が混じったようになるかもしれない……とも思っていたのですが、杞憂(きゆう)でした。異能をとっぴな表現、見た目を派手にする選択肢もありますが、奇をてらったものにはしませんでした。少し間違うと少年マンガのようになってしまうので、この作品の世界にしっかり着地するように設定回りを考えました。原作にもあるものをそのままやっただけなのですが。
佐藤さん 異能の表現は作り込むほど楽しくなるんですけど、作り手が気持ちよくなってはダメで、あくまで美世の物語であり、その彩りの一つとして考えています。異能の説明をいかに少ない手数で分かってもらえるかに気を遣いました。
ーー海外を含めて反響が大きいようですが、海外を意識したところもあった?
佐藤さん 美世は血のつながっている家族に虐げられていますが、清霞という新しい家族ができるという普遍的なストーリーですし、そこをしっかり描こうとしました。「おしん」「Mother」などもそうなのですが、国境を越えて伝わるドラマというのは理想として考えていました。
久保田監督 いろいろな人に見ていただいていることが単純にうれしいです。現場にはすごく大変な作業をお願いすることが多かったので、頑張ったかいがありますし、そこが救いになっています。皆さんに感謝しています。
ーー今後の放送を楽しみにしている人に向けてメッセージをお願いします。
久保田監督 落ち着くと思った矢先、いろいろな展開がありますし、ますます目が離せないドラマが待ちかまえています。引き続きご期待ください。
佐藤さん 美世は、まだまだ苦しめられ、胃をえぐられるような展開もありますが、ぜひ最後まで諦めず美世の物語を見届けてください
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