ONE PIECE:実写版が人々の心を掴んだ理由

違和感のない絶妙な案配での翻案が高い評価を集めているのでしょう
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違和感のない絶妙な案配での翻案が高い評価を集めているのでしょう

 尾田栄一郎さんの人気マンガ「ONE PIECE(ワンピース)」のハリウッド実写ドラマシリーズが8月31日にNetflixで世界独占配信をスタート。英語シリーズ作品の週間グローバルトップ10で1位を飾り、日本を含む世界93カ国でトップ10入りを果たすなど話題になっている。人気を集めている理由をアニメコラムニストの小新井涼さんが分析する。

ウナギノボリ

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 8月末に配信開始された実写ドラマ版「ONE PIECE」が、世界中で大旋風を巻き起こしました。Netflixで最も視聴された作品ランキングでは3週連続でグローバル1位を獲得、9月中旬には盛り上がりの最中、早くも続編の制作が発表され更なる注目を集めています。

 そんな本作の盛り上がりで特徴的なのは、はじめから実写に肯定的であった人たちだけでなく、実写化に懐疑的であったアニメ・マンガファンからも多くの支持を集めている点です。アニメや2.5次元化と比べ、未だ否定的な見方も少なくないマンガ・アニメの実写化、それもこれまで作品ファンから不安の声が集まることの多かった日本国外での実写映像化である本作が、これほどまでに人々の心を掴んだのは一体なぜなのでしょうか。

 真っ先に思い浮かぶのは、本作で行われている原作から実写映像への“絶妙な翻案”です。本作のキャラクターの服装や舞台セットの見事な実写への落とし込みには、作品ファンからも驚きや感動の声が多く、全ての場面で原作マンガを参考にしたという制作陣の実写映像化にかける熱量が、みる人にしっかりと刺さっていることが窺えます。

 中でも特に話題となったのが、特定の登場人物たちのビジュアルです。出だしから思わず目が奪われる“コビーすぎる”コビーや、「このビジュアルをよくぞここまで」とうなるしかないゼフやミホーク、実写的解釈によって原作から遠ざかるのではなく、上手く実写世界の住人へと翻案されたバギーや魚人たちにも、称賛の声が集まりました。

 同じ映像化でも、アニメ化と違い実写では、元のビジュアルと乖離(かいり)しすぎれば誰だか分からなくなってしまい、加減を間違えれば仮装にしかみえず、実写風景から浮いて違和感を生んでしまう難しさもあります。そんな中で本作は、原作から遠すぎず、けれど実写としても違和感のない絶妙な案配で「このキャラクターが現実世界にいたらこうなるかも」という説得力ある実写映像への翻案が行われており、その点が作品ファンからも高い評価を集めているのでしょう。

 もうひとつ大きいと思われるのが、これまで実写化の際に批判が起こりがちであった改変やオリジナル要素が“一線だけは超えず”、作品の世界観がしっかり維持されている点です。

 これだけ好評な本作ですが、実はストーリーにはかなり大胆なアレンジやカットが行われ、原作やアニメとは異なる描かれ方をするキャラや舞台セット等も多々あり、そこに納得がいかないというファンの声も少なからず散見されています。しかしそれらは、アニメでは50話近くかけたエピソードをたった8話で描く上での必然性が伝わることや、他の魅力的な側面と比べると作品全体を否定するほど決定的な改変ではないために、総合的にみると肯定的な感想の方が大きくなっているようなのです。

 それには、原作者・尾田栄一郎氏が「納得できなかったら公開を延期する」という制作側との約束と共に、作品制作に深く関わったことがポイントとなっているように思います。

 実写では表現方法をはじめ、さまざまな制約が異なってくるため、同じシーンを表現しようにも、マンガやアニメからある程度の変更やアレンジが必要となることは、実写化に批判的な作品ファン側でさえ重々承知していることです。それでもこれまで批判が起きがちであったのは「それにしたってそこを変えたらもはや別物では?」と、ファンが戸惑ってしまうような、作品の根幹を揺るがすような改変やオリジナル要素に度々がっかりさせられてきたからでもあると思います。その点本作では、方々で報じられている通り、尾田氏の制作への積極的な参加があったことで、どんなにアレンジが加わっても決して“一線だけは超えず”、本作の「ONE PIECE」らしさがゆるぎないものとして維持されたところが大きかったようです。

 他にも、本作が作品ファンからも好評を得ている理由としては、日本語吹き替え版キャストの多くがアニメと同じである点もよくあげられます。しかしアニメ版と同じキャスティングであれば、これまでにも「カウボーイビバップ」や「ゴースト・イン・ザ・シェル」等で同様のことは行われてきました。そう考えると、“それが”というより“それも含めた”、絶妙な翻案や作品世界観の維持といった本作から感じられる「ONE PIECE」へのリスペクトの全てが、実写に懐疑的な人々にまで刺さったからこその、この世界的な盛り上がりであると結論づけられそうです。

 正直その結果には、「ONE PIECE」だから、尾田栄一郎氏やこの座組みだからこそ実現できた点も大いにあるとは思います。それでも、これまでの海外実写作品へのイメージを大きく変えた本作の成功は、今後の実写映像化に向けられる作品ファンからの期待を、よりポジティブなものに変えていく大きな一歩となっていくのではないでしょうか。

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 こあらい・りょう=KDエンタテインメント所属、北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約10年前から継続しつつ、学術的な観点からもアニメについて考察・研究し、大学や専門学校の教壇にも立つ。アニメコラムの連載をする傍ら、番組コメンテーターやアニメ情報の監修で番組制作にも参加している。

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