プリキュア:「いきものがかり」と共鳴 奇跡的コラボ 「ときめき」「うれしくて」誕生秘話

「いきものがかり」の水野良樹さん(左)と東映アニメーションの鷲尾天プロデューサー
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「いきものがかり」の水野良樹さん(左)と東映アニメーションの鷲尾天プロデューサー

 音楽ユニット「いきものがかり」が、人気アニメ「プリキュア」シリーズの20周年を記念した楽曲「ときめき」を手掛けたことが話題になっている。同曲は、「Yes!プリキュア5」「Yes!プリキュア5GoGo!」の夢原のぞみたちの成長した姿を描く新作アニメ「キボウノチカラ~オトナプリキュア’ 23~」のオープニングテーマでもあり、「いきものがかり」は、劇場版アニメ最新作「映画プリキュアオールスターズF(エフ)」(田中裕太監督)の主題歌「うれしくて」も手掛けた。「いきものがかり」と「プリキュア」がコラボするのは初めてではあるが、「ときめき」「うれしくて」はいずれも「プリキュア」の魅力を凝縮した楽曲に仕上がっている。20周年という節目に誕生した奇跡的コラボはどのようにして実現したのか? 「いきものがかり」の水野良樹さん、“プリキュアの生みの親”として知られる東映アニメーションの鷲尾天プロデューサーに聞いた。

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 ◇20周年で大事していること

 --「いきものがかり」に楽曲制作をオファーした経緯は?

 鷲尾さん 20周年の取り組みの中で、これまではたくさんやってこなかったのですが、アーティストタイアップをしようとしました。そんな中で「いきものがかり」のお名前が挙がりました。最初、「いきものがかり」の楽曲は、優しい印象もありましたし、「プリキュア」は若干いかついかもしれない……とも思ったのですが、あるアニメの主題歌を手掛けられているのを聴いて、すごく驚いたんです。優しい世界だけでなく、いかつい曲もあるんだ!と。これは、100%お任せしたいと思い、オファーさせていただきました。

 水野さん お話をいただいて、単純にプレッシャーが大きかったです。「プリキュア」がどれだけ大きな存在かが分かっていましたし、それに輪を掛けて、20周年という大事なタイミングですしね。これまでアーティストタイアップをあまりやられていないということだったので、僕らで大丈夫かな?と。どういう角度で「プリキュア」に参加させていただくのか?をしっかり考えることからスタートしました。

 --実際に制作する前に「プリキュア」に関する説明があった?

 水野さん まずは打ち合わせをさせていただきました。その前は、キラキラした感じと同時に、戦うシーンの躍動感、スピード感をイメージしていました。アップテンポで、アニメのオープニングのようにカットがいくつも変わっていくような“決め”がたくさんあって、格好いい感じなのかな?と思っていたら、必ずしもそういうパターンではないというお話でした。昔、「プリキュア」に触れていた方が、社会人や親になり、20代、30代としての悩みを持っていたり、新しい人生を生きていたりして、その人たちが「プリキュア」に戻ってきて、自分を肯定できる。時間を経たストーリーを大事にされているとおっしゃっていて、アップテンポではなく、かといってバラードでもないけど、前向きに進む感じがあり、切なさも残る。打ち合わせでのお話を形にしていきました。

 鷲尾さん 私はおおざっぱなことしか言っていないんです。すみません。アップテンポというわけではないけど、なんか大きい感じで……とか。自分たちがしっかり立っていて、その人が立っているから周りが応援したくなる。「プリキュア」の世界観を説明しました。私は音楽の素養はないので、お任せしています。水野さんの解像度の高さ、解釈が素晴らしく、最初に曲をいただいた時、すごく驚きました。

 水野さん ヒントをたくさんいただいたんです。僕としてはすごく満足感のある打ち合わせでした。この作品で大事になれていること、20周年で大事にされていることが明確でした。だからブレることがありませんでした。「ときめき」の歌詞の第一稿を送った時、僕は、人に呼びかけるような主語を設定していました。「世界はいまきらめくよ わたしがそう決めたから」は「あなたがそう決めたから、あなたはそれでいいんだよ」と主体性のある方がいいのでは?とおっしゃっていただき、打ち合わせでお話いただいたことがさらにフォーカスが合っていくように感じました。主語を全て「わたし」にして、ゴールにたどり着くことができました。

 --鷲尾さんの説明はブレていなかった?

 水野さん まさにそうですね。この作品が向かう道はこっちです!と指し示していただいたので、心地よく書かせていただきました。

 ◇出会うべくして出会った

 --楽曲を制作する中で「プリキュア」と共感、共鳴するところがあった?

 水野さん すごくありました。「プリキュア」が20年、軸にされてきたことが、今の時代にぴったりだと思ったんです。自分を肯定すること、相手を尊重することが今はできづらいところもあると思います。声の大きい人の声がすごく大きく聞こえてしまって、自分は「いい」と思ったけど、悪く言われてしまうと「ダメかもしれない……」となったり。逆もあって、みんなが「いい」と言っているから、やっぱ「いい」と言っておこうとなることもありますし。以前からあったことだと思うのですが、それがすごく強くなっていて、自分の価値観、決めたことが揺らぐことがたくさんあります。そこを大切にする。自分が「好き」と思ったら貫き通す。自己肯定の大事な部分を作品の軸にしているというお話をしていただき、共感しました。

 鷲尾さん 水野さんには、それを楽曲にスパッと入れていただけたんです。例えば「ときめき」で「世界を愛せなくても こころが悪いんじゃない」という歌詞がありますが、「プリキュア」がやってきたことが込められています。これは、ただのわがままではないんです。「うれしくて」でも「“わかりあえないこと”を大事にして」とありますが、これは(2009年公開の)「映画プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!」の時に言っていたことです。その映画の話はしていないはずなのに、楽曲の中に入っていて、すごく驚くわけです。

 --説明していなかったことまで楽曲で表現されていたんですね。

 鷲尾さん 届ける先、相手がちゃんといるんですね。その相手は、大観衆ではなく、隣に座っている一人に向かって届けようとしている感じがしました。「プリキュア」は、世界を救いますが、大事にしていることを邪魔するな!という気持ちで戦っています。身近な人、大事なものへの思いがあるから戦います。吉岡(聖恵)さんの歌声は、悩みを明かしている人の隣に座って、黙って聞いてくれているようなんです。隣に座っている人が安心してしゃべれるように、吉岡さんが歌ってくれている。その感覚がマッチしていて、聴けば聴くほど、こんなことって起きるんだ……と驚きました。

 水野さん 「うれしくても」は、それぞれのキャラクターに個性があって、それぞれがバラバラだから素晴らしい。「ときめき」は、個人の物語を大事にする。自分の考えとも共鳴するところがありました。歌は、鷲尾さんにおっしゃっていただいたように、たくさんの人に届けるものではあるのですが、大勢の前で演奏させていただく機会をいただいた時、一人一人との出会いを大切にしています。目の前で、お母さんが小学生くらいの娘さんの肩を抱きしめて泣きながら聴いてくださっているのを見て、この家族の大事な場面に遭遇していることに、グッとくるんです。歌が起こすことは、そういうことなんだと思っていて、大事にしています。これは奇跡的なことなのかもしれないけれども、「プリキュア」もそういうことを大事にされてきて、これまで「いきものがかり」とは違う道をたどってきたけど、同じようなことをやっていたんですね。一緒に作らせていただくのは、出会うべくして出会ったご縁だったんだ……と感じています。

 ◇「ときめき」「うれしくて」は根底でつながっている

 --そもそも最初から2曲制作する予定だった?

 鷲尾さん 最初は1曲だったんです。20周年の全体のテーマソング、「オトナプリキュア」の主題歌として作っていただき、20周年の映画も……とダメ元でお願いしました。むちゃくちゃですよね……。

 水野さん 僕らは2回やっていいんですか!?と驚きました。

 鷲尾さん どうしても!という気持ちでして。申し訳ございません。

 水野さん 映画は、歴代のプリキュアがたくさん出てきて、それぞれに個性がある。コンセプトは多様性である。バラバラであることが素晴らしく、同一化されているのではなく、それぞれを大事にしていることがある。バラバラな人が、勇気を持って手をつなぐことで、乗り越えられるものがある。そのお話を聞いて、また共感したんです。やりたい!と思ったんです。

 鷲尾さん 「ときめき」は自分が輝いている。だから周り方から応援したくなる。「うれしくて」は、みんながいる……と言っていることが!?となりそうですが。

 水野さん 根底はつながっていると思います。生意気な言い方ですが、ブレていません。自己を肯定した時、初めて他者が見えてくる。同じように肯定しなきゃいけない相手がいると気付くには、まずは自己を肯定しなきゃいけない。この2曲は、根底ではつながっています。

 --水野さんが「映画プリキュアオールスターズF」を見て感じたことは?

 水野さん 名ぜりふがどんどん飛び出すシーンがとても印象的でした。一つ一つの言葉が非常に強く、その言葉だけを取り出すと、真っすぐですし、メッセージとして強すぎるかもしれません。でも、プリキュアたちが体を動かして、自分の声で、全力で言うと、言葉の表面的なものが剥がされて、大事な部分だけが心に入っていきます。まだそんなにたくさんの言葉を知らない子供たちが見た時、今は意味が分からなくても、心に残るはずです。歌もそうなんです。言葉だけだと押しつけがましくなるかもしれないけど。吉岡の声に乗った時、その言葉に対して素直になれることがあります。まさに、そういうシーンに見えました。

 --「うれしくて」が流れるエンディングの映像も素晴らしかったです。

 鷲尾さん エンディングの映像を手掛けたディレクターは「うれしくて」を聴きながら、舞台装置から考えていきました。ソラ(キュアスカイ/ソラ・ハレワタール )は、レンガ造りの街並みから入ってきます。次の世界に入った時、そこにプリキュアのみんながいる……と曲からイメージしたわけです。20年前から新しい世界が開けていく。この曲ありきの映像なんです。

 水野さん アレンジしていただいた蔦谷(好位置)さんには「壮大な感じにしたいけど、一人一人を大事にした楽曲なので、吉岡の声が一人になるところ、ワーッとサウンドが厚みを増すところのメリハリを明確にしたい」と伝えてんです。それが映像ともリンクしていて、お互いにバトンを渡し合ったように感じています。

 --「ときめき」は「オトナプリキュア」のオープニングテーマでもあります。

 水野さん 映像を見させていただきましたが、すごくいいんです!

 鷲尾さん 「オトナプリキュア」は、彼女たちがどういう子だったのか? この子たちがどうなったのか?というところを表現しようとしています。

 「プリキュア」シリーズは、普通の女の子が伝説の戦士プリキュアに変身し、さまざまな困難に立ち向かう姿を描くアニメ。第1弾「ふたりはプリキュア」が2004年2月にスタートした。第20弾「ひろがるスカイ!プリキュア」がABCテレビ・テレビ朝日系で毎週日曜午前8時半に放送中。「キボウノチカラ~オトナプリキュア’ 23~」が、NHK・Eテレで10月7日から毎週土曜午後6時25分に放送される。

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