葬送のフリーレン:感情を揺さぶる音楽の力 “神回”の裏側 Evan Callに聞く

「葬送のフリーレン」の一場面(c)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
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「葬送のフリーレン」の一場面(c)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

 「週刊少年サンデー」(小学館)で連載中のマンガが原作のテレビアニメ「葬送のフリーレン」。美しい映像、豪華声優陣の熱演なども話題になっているが、名場面を彩る“音楽の力”の大きさも感じる。音楽を手掛けるのは、アニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」やNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」などでも知られるEvan Call(エバン・コール)さんだ。Evanさんに「葬送のフリーレン」の数々の名場面を彩る音楽について聞いた。

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 ◇懐かしさを感じる音楽

 「葬送のフリーレン」は、山田鐘人さん原作、アベツカサさん作画のマンガで「マンガ大賞2021」の大賞に選ばれたことも話題になっている。魔王を倒した勇者一行の魔法使いで、エルフゆえに長寿であるフリーレンが仲間の死を経験し、“人を知るため”に旅をすることになる。アニメは、「ぼっち・ざ・ろっく!」などの斎藤圭一郎さんが監督を務め、マッドハウスが制作。

 種崎敦美さんが主人公・フリーレンを演じるほか、市ノ瀬加那さん、小林千晃さんらが声優として出演するなど豪華スタッフ、キャストが集結したことも話題になっている。第1~4話が「初回2時間スペシャル ~旅立ちの章~」として日本テレビの映画枠「金曜ロードショー」で2023年9月29日に放送され、第5話以降が、同10月から日本テレビのアニメ枠「FRIDAY ANIME NIGHT(フラアニ)」で放送されており、1月から第2クールに突入する。

 Evanさんが「葬送のフリーレン」の音楽のテーマの一つにしたのが「懐かしさ」だ。

 「冒険の終わりから始まる物語ではありますが、それだけがポイントではないと感じています。フリーレンが、勇者一行と過ごした時間を振り返り、当時は理解できなかったけど、今になって分かることもあります。感じるものが多い作品で、冒険の要素だけでなく。人の心に響き、懐かしさを感じる音楽を意識して作っていました。いい思い出、悪い思い出、フリーレンの新たなパーティーで起きる楽しいこと、悲しいことなどを、音楽を聞いて、懐かしさ、素朴な部分を感じるようにしようとしました。民族音楽的な要素も入れています。この作品の世界に合いますし、人々のルーツを感じるような音楽になるはずです」

 オーケストラは、ハンガリー・ブダペストで収録した。

 「4年くらい前からハンガリーの同じオーケストラと仕事をしています。この作品は曲数が多いのですが、ハンガリーのオーケストラとは長年やっていて、お互い理解があるので、計画通りに収録できました。指揮者の方も信頼していて、私が気付かなかったことにも気付いてくれて、すごく助かります。演奏者も信頼しています。何より収録しているホールの音が好きなんです。響きが深くて気持ちいいんです」

 ◇音楽の緻密な計算

 「葬送のフリーレン」のために制作した楽曲は72曲にもおよび、「かなり多い方」だという。金曜ロードショーで放送された第1~4話は、フィルムスコアリング(映像に合わせて音楽を作る手法)で制作された。

 「2時間スペシャルで放送するのであれば、映画のようにフィルムスコアリングにしましょうとお話をいただき、2時間スペシャルではフィルムスコアリングで35曲くらい作りました。ほかの話数のためにもしっかり作り込んだら、曲数が増えて、72曲になってしまいまして……。フィルムスコアリングは、尺が決まっているので、制限はあるのですが、ある意味で自由もあります。普段はエディット(編集)されるものとして作っているのですが、エディットのポイントを気にしないで作ることができます。矛盾しているかもしれませんが、自由なところもあるんです」

 第1~4話以外にもフィルムスコアリングで音楽を制作したシーンがいくつかある。その一つが“神回”と話題になった第8話「葬送のフリーレン」のフェルンとシュタルクが、リュグナー、リーニエと対峙(たいじ)するシーンだ。

 「シュタルクがリュグナーを攻撃するシーンからリュグナーがフリーレンのことを思い出すシーンまでです。さまざまな展開があり、それまで作った曲では当てはめにくいこともあり、フィルムスコアリングで制作しました。リュグナー、リーニエ、フェルン、シュタルクの各キャラクターが思っていることや行動に合わせて曲を作りました。リュグナーが、フェルンとフリーレンを重ね、フリーレンのことを思い出すシーンは、第10話のフリーレンとアウラの戦いで流れるバトルシーンのテーマのメロディーを使っています。フェルンがリュグナーを攻撃するシーンの音楽は、第9話のフェルンとリュグナーの戦いでも使っていて、つながりが見えるようにしました。フィルムスコアリングだからできた曲です。効果音、声優の方の声が入ると、想像以上に迫力のあるシーンになりました」

 第14話「若者の特権」で、ヒンメルがフリーレンに指輪を渡す名場面もフィルムスコアリングだったという。

 「特別なシーンですよね。フリーレンが空を飛び、魔法で指輪を探し、回想シーンに入ります。メインテーマのメロディーの一部が少しだけ流れ、ヒンメルがひざまずいて指輪を渡すシーンでメインテーマをしっかり聞かせようとしました」

 「どこで聞かせるのか? どの楽器を使うのか?など偶然ではなく計算によるアプローチで作っています」とも話し、「葬送のフリーレン」が見る人の感情を揺さぶるのは、音楽の緻密な計算によるところも大きいようだ。

 「72曲の中で、まだ流れていない新しい曲もたくさんあります」といい、第2クールも“音楽の力”の大きさを感じることになりそうだ。

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