ザ・ファブル:“巨匠”高橋良輔監督インタビュー 人気作をどうアニメ化するのか?

「ザ・ファブル」の一場面(c)南勝久・講談社/アニメ「ザ・ファブル」製作委員会
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「ザ・ファブル」の一場面(c)南勝久・講談社/アニメ「ザ・ファブル」製作委員会

 南勝久さんの人気マンガが原作のテレビアニメ「ザ・ファブル」。「装甲騎兵ボトムズ」などの高橋良輔さんが監督を務めることも話題になっている。コミックスの累計発行部数は2400万部以上で、岡田准一さん主演で実写映画化されたことも話題になった。“巨匠”高橋監督が人気作をどうアニメ化するのか? 高橋監督に聞いた。

ウナギノボリ

 ◇富野さんと僕は根がわがまま(笑い)

 高橋監督は「装甲騎兵ボトムズ」「太陽の牙ダグラム」「蒼き流星SPTレイズナー」「機甲界ガリアン」「ガサラキ」などオリジナルアニメを手掛けてきた印象が強い。

 「これまでオリジナルが多いですから。監督デビューもオリジナルの『ゼロテスター』でしたし。原作があるのは比較的少ないですね。講談社だったらこれが2本目で、その前は『沈黙の艦隊』ですよね。手塚治虫先生の『火の鳥』、松本零士先生の『鉄の竜騎兵』もありますが、そんなもんですよ。『サイボーグ009』もありました。最初は北欧神話を基にしていたけど、僕は北欧神話を全然知らないから、途中で自信をなくして『辞めさせてくれ』とお願いして、そこからはオリジナルになりました。それに、オリジナルは比較的、苦にならない。富野さん(富野由悠季監督)と僕は根がわがままですし(笑い)」

 原作のある作品を避けてきたわけではない。

 「キャラクターが既にあるところは楽ですね。困った時には、原作者に相談すればいいですし、頼りになります。オリジナルも周りを頼りにするけど、解決しないものが残ってしまうと、自分で解決しないとどうしようもないですから」

 ◇リアリティーを大切に

 「ザ・ファブル」は、2014年11月に「ヤングマガジン」(講談社)で連載を開始。天才的な殺し屋として裏社会で恐れられる通称ファブルが、ボスから「一年間殺し屋を休業し、大阪で一般人として普通の生活を送る」という指令を与えられ、佐藤明という偽名で普通の生活を始める……というストーリー。第1部が2014年11月~2019年11月、第2部「ザ・ファブル The second contact」が2021年7月~2023年7月に連載された。

 「オファーがくる前は原作を知りませんでした。普段は、自分の仕事に近いところなのに、マンガやアニメをあまり見ないものでして。マンガを読んで、実写映画も見たのですが、実写はこういうアプローチなんだ……と。多分、役者さんのアクションの能力を最大限に生かすという方針で作っていたんじゃないかな? 面白かったですね。僕は、エンターテインメントは刺激物だと思っていますし、刺激が強く、登場人物もみんな魅力的で、面白く読ませていただきました」

 高橋監督は「今のアニメーションの状況を見ると、可愛い女の子がたくさん出てくる作品が多いですし、『ザ・ファブル』は異色な方だと思っています」とも話す。

「原作の南先生もおっしゃっているように、キャラクターのリアリティー、実在するかもしれないという存在感が大事になってきます。私が育った環境では、主人公はともかく、それ以外は比較的なじみのあるキャラクターなんですよ。若頭(カシラ)の海老原は理想的に描かれてはいますが、ああいうタイプがいないわけではなかった。小島も砂川のようなタイプもいた。宇津帆は知能犯ですが、それを気取っている人もいないわけではなかった。どうしよう?ということはなかったですね。ヤクザの組織も普通の会社組織もなりわいが違うだけで、そこにいる人の心情はそんなに変わらないですよね」

 高橋監督は「アニメ制作の現場で、僕もカシラと言われることがありました」とも語る。

 「ヤクザの若頭じゃなくて、町内のカシラですね。昔、町内に祭りの世話をしたり、塀を直したり、技術を伴った力仕事をするカシラがいて、その土地に根付いていたんです。仕事の仲間の安彦良和さんに『カシラに似ているよね』と言われたことがありました。監督の一部の仕事には、そういうところがあります。アニメやマンガは、座って仕事をするけど、僕は全然座っていませんから。座るのが嫌いだから、スタジオ内をウロウロしています。文章も絵も書かないわけじゃないんですけど、あんまり落ち着いて書いていませんね。僕はあまり仕事が好きじゃないですから。安彦さんは仕事が好きで、すごく真面目に仕事をする。僕はちょっと先輩なのですが、しょうがない先輩だな……と思われていたのかもしれません。今もあんまり座りません。30分と座っていられないタイプです。だから腰痛がないですよ」


 ◇佐藤だけモデルがいない

 佐藤明は「よく分からない」キャラクターだ。幼少期から殺し屋としての英才教育を受けてきたこともあり、普通の人とは感覚が違うところも多い。その違いがコミカルに見えるところもある。

 「僕の中で、佐藤だけモデルがいない。佐藤だけは明らかに作家の創作物。アニメやマンガの主人公は、可愛い目をしていることも多いのですが、佐藤は白目の印象が強い。無慈悲というよりは、ミッションとして殺しを遂行するとなると、こういう目になるんじゃないかなぁーと思って……原作の意図をくみ取って、ああいう目にしています」

 個性豊かな登場人物の会話劇も作品の大きな魅力になっている。生っぽさを感じるところもある。

 「間に関しては、僕ら以上にファンの方が気にしているんですよね。マンガの吹き出しの語尾に縦線が入ることがありますよね。例えば、『やんなっちゃったなーー』の『--』は伸ばしているのか、それとも『……』なのか。そういう疑問があるかもしれませんが、南先生にも確認して、その時に応じて、決めつけずに表現しています」

 とにかく強い佐藤明のアクションも見どころになりそうだが……。

 「実写映画を見たこともあり、アクションが多くなるのかな?とも思ったのですが、実際にシナリオを作り始めるとそんなに多くないんですよ。昔の野球マンガだと8割が試合で、一球投げるのに、一話使うこともありましたが、『ザ・ファブル』のアクションに関しては一瞬ですから。それは、佐藤の能力が高いからであって、そこに思考が入ることはほとんどなくて、反応で動いています。だからアクションは意外に少ないです。佐藤はさまざまな人と知り合い、コミュニケーションしていきます。そこが一番主なところになっています」

 ◇自分からあれをやりたいとは言わない

 高橋監督はこれまで数々の作品の“次回予告”を手掛けてきた。「装甲騎兵ボトムズ」の次回予告の名調子は、伝説になっている。「ザ・ファブル」に関しては「ないんです。自分の作品以外にも、次回予告を担当することもありますが、今回は本編をなるべく多く見せたかったので」と明かす。

 一方でサブタイトルの“題字”は高橋監督自身が手掛けた。

 「『書いてください』と言われたのでやっています。大体、僕がやることは、自分がやりたいと思ったことはほとんどないんですよ。全部言われたらやる。全然仕事がなかったら、生活できないので、体のいいことを言っちゃいけないのですが、自分からあれをやりたいとは言わないものでして。僕は自分がやっていることは、少ないんですよ。各部門に人がいて、みんながうまくやってくれるので」

 「機動戦士ガンダム」「装甲騎兵ボトムズ」などのメカニックデザインで知られる“巨匠”大河原邦男さんにインタビューした際も同じような話をしていたことがあった。

 「そうですか……。『ボトムズ』に関しては、大河原さんが育った地域が影響しているんだと思うんですね。米軍がそばにいましたから。それに、大河原さんは、立体物が好きなんですよね。立体を構成する素材、鉄が好きなんですね。ボトムズに関しては、彼が育った環境で格好いいと思っていたものが、自然に入っていて、それをやったから、僕にも『こんなに苦労しないものはない』と言っていましたね」

 高橋監督が作品に向き合う姿勢は“職人”のようにも見える。“職人”の手腕が注目される。
※「高橋良輔監督」の「高」は「はしごだか」。


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