ダンダダン
第12話「呪いの家へレッツゴー」
12月19日(木)放送分
冲方丁さんのファンタジー小説が原作のテレビアニメ「ばいばい、アース」が、WOWOWほかで7月12日午後11時半から放送・配信される。さまざまな動物の姿の獣人が住む世界に、唯一の人間として生まれた少女・ラブラック=ベルが、大剣を手に自分のルーツを探す旅に出ることを決意し、数々の試練に立ち向かう……というストーリー。人気声優のファイルーズあいさんが主人公・ベルを演じる。原作は2000年に刊行され、“映像化不可能”とも言われてきたが、20年以上の時を経て、テレビアニメが放送・配信されることになった。冲方さん、ファイルーズさんに原作、アニメに込めた思いを聞いた。
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ーー「ばいばい、アース」が発表されたのは2000年です。約24年の時を経て、アニメ化されることになりました。
冲方さん 当時は出版できるのか?と言われていたような作品でしたので、巡り巡ってこういうご縁をいただいたことがうれしいです。インターナショナルスクールに通っていた経験などを生かした作品でした。海外で生活をしていて、日本に帰ってきた時、日本人であるはずなのに、疎外感を抱いたんです。日本は、一つの常識しかない世界なんだと違和感を抱きつつ、世界に阻害されながら世界にあらがい、そして和解する話を書きたいと思っていました。個人的なテーマでしたし、自分自身を作家として成り立たせなければいけなかった時期だったので、内省的な作品だと思います。20年以上たって、普遍的なテーマとして扱ってくれることがうれしいです。今回の企画のコンセプトとして、海外も視野に入れる、今のジェンダーやアイデンティティーの問題にふさわしい作品として、白羽の矢が立ったということもうれしかったです。
ファイルーズさん 先生のお話を聞いて、すごく合点がいきました。最初のアフレコの時、音響監督の久保(宗一郎)さんに、オーディションで選んでいただいた理由を「ファイルーズさんならベルの気持ちが分かる」と言っていただきました。私は、エジプトと日本のミックスで、エジプトに住んでいて、日本に戻ってきた時、一つの常識しかない世界、学校という狭いソサエティーが世界の全てだと思ってしまい、疎外感があり、自分の居場所がどこにもないような気がしていました。そこからどうやって抜け出すのか?とずっと模索しながら生きていて、今でもたまに自分はここにいていいのかな? 本当の自分はどこにいるべきなんだろうとか?と感じる時もあります。だからこそ、ベルの気持ちがものすごく理解できました。私みたいな子たちに勇気を与えてくれる作品だと感じています。
ーー当時あった疎外感はなくなっていった?
冲方さん 疎外感自体は常にあるのですが、それにあまり捕らわれなくなったといいますか、万人が何であれ、阻害される局面は必ずありますし、本質的に阻害されてないので、まだいいのかな?とも思います。本格的に阻害されるというのは、強制収容所に入れられてしまうようなことで、そこまで国の状態が悪くなったら本気で取り組まなくてはいけないけど、個人の内面の問題においては、一番重要なのは他者に答えを求めないことなんです。自分自身の中にある答えが、一番価値があると分かれば、特に困ることはないと思っています。その結果、社会の事情とそぐわない場合もありますが。例えば、頑張って作ったものがそんなに売れなかったり、いつまでも本が出なかったりするけど、そこでくじける必要はないかな? くじける時は、くじけなきゃいけないんじゃないか?と選択してしまっている。疎外された社会に適合したいから、くじけたことにして、こっちとそっちは違うと区別を付けるんですよね。そっちはそっちであっていい。僕は僕でもあっていいと思えるようになったことが、一番大きいですね。
ファイルーズさん 私は中学生の時、マックスなじめない状態でした。名前、流れている血のことで、学校でひどいことを言われてしまい、ものすごく傷ついて、高校に上がれば変わるはずと信じていたけど、状況は変わりませんでした。そうなると、自分が人間として劣っているから、こういうふうに言われるのかな?とどんどん自分が惨めになって、嫌いになって、苦しくて仕方がなかったんです。その頃に、マンガやアニメが好きという気持ちがずっと胸の中にあったので、没頭するようになりました。作品を通してネットで友達を作るようにしたんです。学校という狭い社会の中にしか自分の世界はないと思っていたけど、私よりずっと年上の主婦、社会人の方などいろいろな世代の友達ができて、ネットでつながった友達は、私がミックスであろうと全く気にしないし、私の話、描いた作品を純粋に評価してくれて、私を個として認めて、友達としてつながってくれました。お互い尊敬しあえる関係だったんです。世界や人間関係を広げることが、疎外感を克服するきっかけになりました。世界はもっと広くて、いろいろな人がいると思えたことが、私の自分探しの旅の第一歩だったのかもしれません。
ーーそこがベルとリンクした?
ファイルーズさん そうなんです。自分は何だろう?と原点を知ろうとするベルの気持ちが本当によく分かりました。
ーー「ばいばい、アース」は冲方さんのキャリアでどんな存在になっている?
冲方さん 角川の敷居をまたげなくなりました(笑い)。原稿用紙250枚くらいで書いてと言われたのに、2700枚くらいになって、角川プリンターがいつまでたっても止まらなくなり、担当さんから電話で「印刷しているんだけど。警察呼ぶよ!」と怒られました(笑い)。その後、「マルドゥック・スクランブル」を書いたのですが、あれも50枚くらいの短編のはずが、1700枚くらいになってしまって……。間違いなく今の自分を作ってくれた二作なのですが、作家生命を殺しかけた作品でもあります。当時、枠にはめて書くことに力を入れていなかったんです。今はテクニックでなんとかなりますが、当時は自分のテーマを形にすることを最優先にしていました。その後、可能な限り短い枚数でテーマを消化する修業をしていたのですが。
ーー作品の世界をどのように作った?
冲方さん 世界とは何か?と読み解く哲学や人文科学、思考実験の大元には寓話(ぐうわ)があり、何でこんなことを思い付いたのだろう?というさまざまなファンタジーもたくさんあります。昔は、そういった作品群に並びたいと思って書いていました。とにかく多くの要素を入れて、それを一つにまとめることが当時の自分の課題でした。
ーーアニメとはどのような関わり方をした?
冲方さん 最初はクオリティーコントロールを助ける形なのかな?と思っていたのですが、脚本を拝読し、意図をうかがうと、何も言うことがないんです。アフレコにお邪魔して、音響監督とファイルーズさんの会話を聞いても、何も言うことがない。アフレコの最中、こういうニュアンスがほしいかも……と思うと、誰かが言ってくれるんです。すごく楽だなと。書いた当時はなかった技術もありますし、今はこんなことができるんだ……と横で喜ぶ役みたいな(笑い)。
ファイルーズさん 役者としては先生がいてくださると、すごく安心感がありました。これで合っているのかな?と心配なことがあっても、先生がOKを出していただけると、これでよかったんだと安心しますし、本当にありがたいです。
冲方さん 邪魔にならないように気を付けていました。
ファイルーズさん とんでもないです!
インタビュー(2)に続く。
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