解説:テレビゲームの行列史 ドラクエIIIからスイッチ2まで

「ニンテンドー3DS」発売日の行列(2011年)
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「ニンテンドー3DS」発売日の行列(2011年)

 発売から2カ月が経過した任天堂の新型ゲーム機「Nintendo Switch 2(ニンテンドースイッチ2)」。同社のオンラインストア「マイニンテンドーストア」で5回にわたって抽選販売が行われたものの“落選報告”がSNS上で飛び交った。一方で通常店舗での一般販売も始まり、早朝から購入者が列を作ることもあるようだ。かつてテレビゲームにつきものだった“行列”。その歴史を振り返ってみたい。

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 「スーパーマリオブラザーズ」(任天堂)の大ヒットをはじめとした「ファミリーコンピュータ」の“ファミコンブーム”でも本体入荷のたびに行列ができていたが、新作の発売日にできた大行列として多くの人の記憶に残っているのは1988年の「ドラゴンクエスト(ドラクエ)III」(エニックス)だろう。平日にもかかわらず、前日の深夜には長い列ができ、子供たちが学校を休んで買いに来たりと、現在も語られるほどの社会現象となった。ドラクエをはじめとしたメガヒットシリーズの新作が発売日を土日祝日にしたのもこの行列が影響したといえるだろう。

 その後ドラクエシリーズや「ファイナルファンタジー(FF)」(スクウェア)シリーズなどで新作のたびに早朝からファンが列を作り、店舗側も開店時間を繰り上げてカウントダウンイベントを行ったりと、大いに盛り上がった。他方で、昔は人気作ほど予約が取れないというケースも多かったが、予約して購入するというユーザーも徐々に増えてきた。これにはコンビニでのゲーム販売として話題を呼んだ今はなき「デジキューブ」の影響もあったような気がする。秋葉原などの専門店で人気を博していた予約購入に特典を付けるという販促方法を全国的に普及させ、「並ばずに買える」メリットにさらなる付加価値を付けたのだ。

 そして、ゲームソフトに限れば、2000年代に入りAmazonなどのネット通販が普及したこともあって新作の発売日に列を作るのはレアケースとなり、ドラクエ、FF、さらに「モンスターハンター」(カプコン)などで行われた前述のカウントダウンイベントをはじめ、お祭り的な意味合いが強くなった。さらにダウンロード販売が充実してくると、発売当日の0時から遊べるメリットも手伝って、店頭でパッケージ版を購入するという行動の優先順位が下がったのは間違いない。

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 一方で、デジタルデータではないゲーム機本体においては、発売日の行列はずっとおなじみのものであり続けた。「スーパーファミコン」(任天堂)を経て2000年の「プレイステーション(PS)2」(SCE)、2004年の「ニンテンドーDS」(任天堂)、「PSP」(SCE)と、新型ゲーム機がローンチする度に発売日の販売店には長蛇の列ができた。行列の“メッカ”とされる池袋の「ビックカメラ」、カウントダウンイベントをよくやっていた渋谷の「SHIBUYA TSUTAYA」、毎回すさまじい行列ができた秋葉原の「ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba」と、記者も発売前日から早朝にかけて取材に走り回ったものだ。

 個人的には2002年の「Xbox」(マイクロソフト)の発売日が記憶に残っている。SHIBUYA TSUTAYAで行われたカウントダウンイベントにはビル・ゲイツさんに加え、サプライズでYOSHIKIさんも登壇したのだが、極秘扱いだったにもかかわらず、どこで漏れたのかYOSHIKIさんのファンも詰めかけ、現場が大騒ぎになっていた。

 ただ、雰囲気の変化を感じ始めたのは2006年の「PS3」(SCE)の発売あたりからだ。その少し前から関係者から“転売ヤー”の話を聞いていたが、列から外国語がちらほら聞こえるようになり、それまでの列に並んでいた人たちとの客層の違いを感じるようになった。先頭の人たちとゲーム談義に花を咲かせるのも取材の楽しみだったが、この頃から、並んでいた人が全くゲームを知らず「ひょっとして…?」ということもあった。

 そんなことがあり、場合によっては予約販売のみになることもあったが、ゲーム機発売日の行列は風物詩であり続けた。しかし、再入荷時の行列については、コロナ禍でついに状況が変わった。当時品薄が続いていた「ニンテンドースイッチ」(任天堂)だったが、販売店の前にできた長蛇の列は確かに“密”な状態だった。

 今回の「スイッチ2」で採用された任天堂による直接の抽選販売(しかもプレー時間の条件付き)や、さまざまな施策は、転売や長蛇の列をなるべく作らないために心を砕いた結果だといえる。各販売店や販売サイトが抽選の予約制にしたのもその考えに沿ったものだろう。そして、発売から2カ月経過し、ある程度は行き渡ってきたことで、告知なしだったり、所定のクレジットカードが必要だったりといったハードルはあるものの、従来のような一般販売も始まっている。

 さまざまな問題もはらむ行列だが、単なる購入手段ではなく、盛り上がりを示すリアルな指針であり、時に時代を映す鏡になりえることもまた確かだ。次の新型ゲーム機が発売される時、その鏡はどんな景色を映すのだろうか。(MANTAN/立山夏行)

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