プレスリリース詳細 https://kyodonewsprwire.jp/release/202603024819
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LDN 糖鎖合成の新しい調節の仕組み
2026年3月2日
岐阜大学
糖鎖合成酵素B4GALNT3のレクチンドメインを発見 〜LDN糖鎖合成の新しい調節の仕組み〜
本研究のポイント
・B4GALNT3は、タンパク質に付いた糖鎖の末端にLDNと呼ばれる構造を作る酵素で、血中のタンパク質濃度の調節や骨の形成に関わっています。
・B4GALNT3は、糖鎖を作る領域の他に、特定の糖鎖と結合する領域(レクチン)を持つことがわかりました。
・レクチン機能のないB4GALNT3は、タンパク質の上の糖鎖に作用できなくなることから、B4GALNT3の働きはレクチンにより調節されていることがわかりました。
研究概要
岐阜大学糖鎖生命コア研究所の木塚 康彦教授、所 裕子研究支援員らの研究グループは、産業技術総合研究所、ミシシッピ大学、千葉大学との共同研究で、骨の形成やホルモンの血中濃度調節などに関わる糖鎖を作る酵素B4GALNT3の新たな反応調節の仕組みを解明しました。
タンパク質に付く糖鎖には膨大な種類が存在し、これら糖鎖は様々な生命現象や疾患において重要な役割を担っています。これら糖鎖は、細胞の中で様々な糖転移酵素(糖鎖合成酵素)の働きによって作られます。これまで、約180種類のヒトの糖転移酵素はほとんど全てが同定されましたが、これら酵素の働きが細胞内で調節される仕組みや、個々のタンパク質に付く糖鎖の形がどのように決まるのかは、まだあまりわかっていません。
本研究では、ホルモンなどの血中安定性の調節に関わる糖鎖LDNを作る酵素、B4GALNT3に着目し、この酵素が、他の糖転移酵素にはあまり見られない、糖鎖と結合する領域(レクチン)を持つことを発見しました。さらに、このレクチンは、硫酸化された糖鎖と結合することや、B4GALNT3がタンパク質にLDN糖鎖を作るのに不可欠であることを明らかにしました。これらのことから、B4GALNT3は周囲の糖鎖を認識することで活性を調節する酵素であることがわかりました。本研究成果は、タンパク質の上に複雑な糖鎖が作られる仕組みの解明に重要な知見を与えるとともに、骨の形成やホルモン濃度調節の仕組みの理解にも役立つことが期待されます。
本研究成果は、現地時間2026年2月26日にThe Journal of Biological Chemistry誌のオンライン版で発表されました。
なお、本研究は、文部科学省の大規模学術フロンティア促進事業「ヒューマングライコームプロジェクト」による支援を受けています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202603024819-O5-JtoGqV2n】
本研究の概要図
糖鎖を合成する酵素の一つB4GALNT3は、特定の糖鎖と結合するレクチン領域を持つことがわかった。このレクチンは、B4GALNT3がタンパク質の上の糖鎖を合成するのに必要であり、硫酸化された糖鎖と結合する。レクチンが硫酸化糖鎖と結合すると、B4GALNT3の働きが抑えられる。
研究背景
糖鎖 1)とは、グルコースなどの糖(動物では約10種類の糖が存在)が枝分かれしながら鎖状につながったもので、多くはタンパク質や脂質などに結合した状態で存在しています。動物では、体内の半数程度のタンパク質に糖鎖が付いていると考えられており、糖鎖を持つタンパク質は糖タンパク質と呼ばれています。タンパク質に付いている糖鎖には様々な形のものがあり、タンパク質ごとに糖鎖の形が異なること、また同じタンパク質でも、健康なときと病気のときとで糖鎖の形が変化することなどが知られています。特に、疾患特異的な糖鎖の変化は、実際に医療の現場でがんの診断などに使われており、糖鎖の変化をもたらす仕組みの解明は、医療応用を考える上でも重要です。
タンパク質に付く糖鎖は、細胞の中で糖転移酵素 2)(糖鎖合成酵素)と呼ばれる酵素の働きによって作られます。ヒトの体内には、約180種類の糖転移酵素が存在し、それらの働きが厳密に制御されることで、膨大な種類の糖鎖が作られます。しかし、個々の酵素の働きを制御する仕組みはまだ十分にはわかっておらず、生物がどのように膨大な種類の糖鎖の量を調節しているかについては不明な点が多く残されています。一方、木塚教授らのグループを始めとする研究により、糖転移酵素の一部は、糖鎖を作る触媒領域 3)の他に、様々な機能を持った領域(ドメイン 4))を持ち、これらのドメインがタンパク質上の糖鎖を合成するために極めて重要であることがわかってきました。
(参考)
・ がんの悪性化に関わる糖鎖合成酵素 GnT-V は糖鎖をつけるタンパク質を選ぶ ~GnT-V の中のN ドメインが鍵~(2022年1月31日)
・ 糖鎖の生合成を糖鎖自身が制御する仕組みを発見(2024年9月30日)
糖転移酵素のうち、 B4GALNT3 5) は、タンパク質に付いた糖鎖を伸ばす働きがあり、 LDN (LacdiNAc) 6)と呼ばれる構造の糖鎖を作ります(図1)。ホルモンなどの血液中の糖タンパク質の中には LDN 糖鎖を持つものがあり、この糖鎖によって血液中の濃度が調節されています。 B4GALNT3 を欠損したマウスでは、骨の形成を阻害する糖タンパク質の血液中濃度が著しく増大し、骨の形成に異常が出ることがわかっています。このことから、 LDN はタンパク質の安定性の調節などに重要な働きを持ちます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202603024819-O7-0qY9biZv】
図1 B4GALNT3が作る糖鎖構造
このB4GALNT3は、木塚教授らの先行研究で、他の糖転移酵素にはないPA14 7)というドメインを持っていることが明らかにされています(参考:糖鎖伸長のブレーキ役を発見 ~糖鎖伸長の制御による血中タンパク質の寿命の調節~(2024年6月5日))(図2左)。しかし、このPA14ドメインがどのような役割を持っているのかはよくわかっていませんでした。そこで本研究では、このPA14ドメインの役割の解明に取り組みました。
研究成果
本研究ではまず、B4GALNT3のPA14ドメインの役割を明らかにするために、類似したドメインを持つCea1 8)と呼ばれる酵母のタンパク質の立体構造と比較しました(図2右)。酵母のCea1もPA14ドメインを持っており、それは糖鎖と結合するレクチン 9)ドメインであることがすでにわかっています。ヒトのB4GALNT3のPA14ドメインは、Cea1のPA14ドメインの糖鎖結合部と類似した立体構造を持っていたことから、B4GALNT3のPA14も、糖鎖と結合するレクチンドメインである可能性が高いことがわかりました。また、Cea1との構造比較などから、B4GALNT3のレクチン機能に極めて重要と考えられるアミノ酸が予測され、特にN252が糖鎖との結合に不可欠である可能性が高いことがわかりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202603024819-O8-5gf8Fg43】
左:ヒトのB4GALNT3の全体構造。糖鎖を作る領域である触媒ドメインの他に、PA14ドメインを持つ。
右:B4GALNT3のPA14ドメインの構造と、類似した構造を持つ酵母のCea1タンパク質のPA14ドメインとの構造の比較。Cea1のPA14ドメインは、糖鎖と結合するレクチンであることがすでにわかっている。この構造比較などから、B4GALNT3のPA14ドメインもレクチンであると予測され、糖鎖結合に重要と考えられるいくつかのアミノ酸が推定された。
次に、実際にB4GALNT3のPA14ドメインがレクチンであるかどうかを調べるため、PA14ドメインだけを精製し、糖鎖アレイ 10)と呼ばれる多種類の糖鎖を固定したものを用いて、98種類の糖鎖との結合を調べました。その結果、数種類の糖鎖との結合が確認され、特に、硫酸を持つ糖鎖と結合することがわかりました(図3)。このことから、B4GALNT3の持つPA14 ドメインは、硫酸化糖鎖などの特定の構造の糖鎖と結合するレクチンドメインであることがわかりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202603024819-O11-T8iwe2U0】
図3 B4GALNT3のPA14ドメインと糖鎖との結合の解析
B4GALNT3のPA14ドメインのみを大腸菌に作らせて精製し、98種類の主要な糖鎖を貼り付けた糖鎖アレイを用いて糖鎖との結合の有無と強さを解析した。その結果、数種類の糖鎖との結合が確認された。SO3は硫酸を表す。チログロブリンは、硫酸化された糖鎖を持つことがすでにわかっている。シアル酸 11)とは、糖鎖の末端に存在する酸性の糖のこと。
続いて、B4GALNT3のレクチンドメインの役割について調べました。そのために、レクチン機能に不可欠なアミノ酸N252をアラニンに変えたB4GALNT3であるN252Aを精製しました。B4GALNT3が糖鎖を伸ばす活性を測定するため、通常のB4GALNT3とN252Aを、糖タンパク質の一つであるHaptoglobin 12) と反応させました。Haptoglobinの糖鎖の上に合成されたLDNは、WFA 13) と呼ばれるタンパク質を用いて検出しました (図4左上) 。その結果、通常のB4GALNT3では、反応時間に応じてHaptoglobinの糖鎖にLDNが合成されましたが、N252Aではほとんど合成されませんでした(図4左下)。一方で、タンパク質に付いていない遊離の糖鎖に対しては、N252Aは作用できたことから(図4右)、レクチンドメインは、B4GALNT3がタンパク質の上の糖鎖を合成するために不可欠であることがわかりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202603024819-O13-87Fu1Y85】
図4 B4GALNT3のPA14ドメインの機能
左:タンパク質上の糖鎖に対するB4GALNT3の活性の測定。糖タンパク質の一つであるHaptoglobinを、精製したB4GALNT3もしくはN252Aと反応させ、合成されたLDN糖鎖をWFAと呼ばれるタンパク質で検出した。下の図は、Haptoglobinのタンパク質を検出しており、同量のHaptoglobinが反応液中に存在していることを示す。
右:N252Aの活性変化の要約。レクチンドメインが機能しないと考えられるN252Aでは、遊離の糖鎖に対しては活性を持つが、糖タンパク質には作用できない。
最後に、B4GALNT3のレクチンドメインに結合する短い硫酸化糖鎖の一つである L4 14) 、および硫酸化されていない糖鎖であるLacNAc 15)を酵素反応液に添加し、B4GALNT3の糖鎖を伸ばす活性への影響を調べました。その結果、L4の添加により、B4GALNT3が糖タンパク質の上に糖鎖を伸ばす働きが著しく弱くなることがわかりました(図5)。一方硫酸化されていない糖鎖であるLacNAcの添加ではこのような効果はありませんでした。このことから、レクチンドメインに結合する硫酸化糖鎖を加えると、B4GALNT3の糖タンパク質に対する酵素活性が抑えられることがわかりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202603024819-O15-lNC5OQl0】
図5 硫酸化糖鎖によるB4GALNT3活性の阻害
B4GALNT3とHaptoglobinの反応液に、硫酸化された短い糖鎖であるL4、もしくは硫酸化されていない糖鎖であるLacNAcを添加した。B4GALNT3により形成されたHaptoglobinの上のLDNは、WFAタンパク質により検出した。
今後の展開
本研究により、B4GALNT3がレクチンドメインを持ち、そのレクチンドメインはB4GALNT3がタンパク質上の糖鎖を伸ばすのに不可欠であることがわかりました。また、このレクチンドメインは硫酸化糖鎖と結合し、それによりB4GALNT3のタンパク質上の糖鎖を伸ばす作用が阻害されることがわかりました。これらの結果は、細胞内での糖鎖の硫酸化の度合いによってB4GALNT3の活性や合成されるLDNの量が調節される可能性を示しており、今後、血中のホルモン量や骨形成の調節の仕組みの解明に貢献すると期待されます。
用語解説
1)糖鎖:グルコース (ブドウ糖) などの糖が鎖状につながった物質。遊離の状態で存在するものもあれば、タンパク質や脂質に結合した状態のものもある。デンプン、グリコーゲンなどの多糖では、数多くの糖がつながり、糖鎖だけで遊離の状態で存在する。一方タンパク質に結合したものは、数個から20個程度の糖がつながったものが多い。
2)糖転移酵素:糖鎖を合成する酵素のことで、ヒトでは180種類程度存在することが知られている。主に、細胞の中のゴルジ体と呼ばれる小器官に存在している。
3)触媒領域:触媒とは、化学反応の速度を高める物質のこと。酵素は生体内の様々な反応を触媒するタンパク質である。触媒領域とは、酵素が持つ複数の領域の中で、触媒反応を行う部分のこと。
4)ドメイン:タンパク質の構造の一部のうち、他の部分とは独立して折り畳まれた領域のこと。一般にタンパク質は複数のドメインからなる。
5)B4GALNT3:糖鎖を合成する酵素(糖転移酵素)の一つで、細胞の中に存在し、LDN 6)という糖鎖構造を作る。
6)LDN (LacdiNAc):糖鎖の中の部分的な構造の一つ。GalNAcと呼ばれる糖が、β1-4結合でGlcNAcと呼ばれる糖に結合した二つの糖から成る構造。
7)PA14:B4GALNT3など一部のタンパク質に存在するドメイン。
8)Cea1:酵母が持つタンパク質の一つで、PA14ドメインを持つ。
9)レクチン:様々な糖鎖や糖と選択的に結合するタンパク質の総称。糖鎖と結合するタンパク質であっても、抗体はレクチンに含まれない。一部の糖転移酵素は、触媒領域の他にレクチンドメインを持つ。
10)糖鎖アレイ:基板上に多種類の糖鎖が固定されたもの。アレイとは、類似の物が規則的に整列したものを意味し、糖鎖だけでなく、DNAや抗体のアレイも研究に用いられる。
11)シアル酸:炭素 9 個からなる糖で、糖鎖の末端に存在する。細胞と細胞の相互作用などに関わっている。構造中に、カルボン酸(酸性部分)を持つ。
12)Haptoglobin:主に肝臓で合成され、血液中に存在する糖タンパク質。ここではB4GALNT3が作用する糖タンパク質の一つとして用いられている。
13)WFA:植物のフジ由来のレクチンで、末端にGalNAcを持つ糖鎖と結合する。ここでは、LDNを検出するために用いられている。
14)L4:糖鎖の中の部分的な構造の一つ。6位の炭素が硫酸化されたガラクトース(Gal)が、β1-4結合で同じく6位が硫酸化されたGlcNAcに結合した二糖構造。
15)LacNAc:糖鎖の中の部分的な構造の一つ。ガラクトース(Gal)がβ1-4結合でGlcNAcに結合した二糖構造。L4から硫酸を除いた構造のこと。
論文情報
雑誌名:The Journal of Biological Chemistry
論文タイトル:PA14 domain of glycosyltransferase B4GALNT3 is a lectin that binds to sulfated glycan ligands
著者:Yuko Tokoro, Takahiro Yamasaki, Hiroaki Tateno, Yuji O. Kamatari, Bakhtyar Sepehri, Tomohiro Sensui, Hiroto Kawashima, Robert J. Doerksen, Yasuhiko Kizuka * (*責任著者)
DOI:10.1016/j.jbc.2026.111328
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